マロウ


政宗は店の奥にあるキッチンで包丁を握っていた。
作りたてのパウンドケーキを切る為である。
アールグレーの紅茶葉を混ぜたほんのり紅茶の香りがする一品。
それは、今テラスでくつろいでいる少女の大好物であった。
切り終えたパウンドケーキを美しく皿に盛った政宗は満足そうに笑むと、テラスへとそれを運ぶ。

「待ったか?鶴」
「いいえ!政宗お兄様の作るお菓子のためなら全然平気です☆」
「そうか?ほら、今日はパウンドケーキだ」
「わあ!美味しそうです!!」

いっただっきま〜す!と満面の笑みでパウンドケーキを頬張る鶴姫に、政宗も優しく笑んだ。
ゆったりと椅子に腰かけた政宗は自分用にと淹れた紅茶を一口飲む。

「美味しい!とっても美味しいです、政宗お兄様!!」
「そりゃよかった」

頬に手を当てて幸せそうに食べる鶴姫を見て、空になっているカップに新しい紅茶を注いだ。
それに気付いた鶴姫が頭上にはてなマークを浮かべながらカップを覗き込んだ。
その紅茶は目が覚めるようなブルー。
初めて見た紅茶の色に鶴姫は興奮気味に捲したてた。

「青いお紅茶なんて初めて見ました!なんていう紅茶なんですか!?」
「マロウだ。こいつは肌質を問わず、皮膚をやわらかく滑らかにしてシミやソバカスを目立たなくするし、体内の毒素を排出して便通を整える。他には優れた鎮静、鎮痛、軟化作用もある。ま、クセがねえからお子様でも飲めるぜ?」
「わ、私はもう子供じゃありません!」

頬を膨らませて怒る鶴姫に政宗はくすくすと笑う。
擽ったそうに笑う綺麗な従兄弟に鶴姫は膨らませた頬に朱を差した。
自分はもう高校生になったし、身長差もちょっとは縮められたような気がする。
でも、いつまでたってもこの綺麗な男の人は自分を子供にしか見てくれない。
どのくらい膨らませていたのだろうか、頬が疲れた鶴姫はふしゅうと空気が抜けた風船のように息を外へ逃がす。
せっかく淹れてくれたのだからとカップへ手を伸ばした時、その変化に気付いた。

「え!?」
「どうした?」
「色が変わってます!!今はグレーです!」

まじまじと見つめる鶴姫に政宗はまた笑った。
本当に可愛らしい従姉妹だと思う。
いつもいつも全力で反応する様子は見ていてとても賑やかで。

「マロウは時間が経つと色がグレーに変わるんだ」
「あ、味に変化とかは?」
「ねえよ。ほれ、飲んでみろ。冷めちまう」

促された鶴姫は恐る恐る口をつけてみた。
確かにクセがなくて飲みやすい。
続けてふた口喉へ流した。

「…おいしいです」
「だろ?」

そりゃよかった、と笑いながら政宗は輪切りにしたレモンをひとつ摘んだ。
なんだろうと見ていた鶴姫にそのレモンを渡しながら優しい笑みを浮かべる。

「それにしぼり汁、いれてみな」
「?こうですか?……!!」

鶴姫の瞳がこれ以上はないと言うくらいに見開かれた。

「すごい!魔法みたいです!!」

ピンク色に変わった紅茶に鶴姫の瞳は輝いた。
すっかり気に入った鶴姫は携帯を取り出して写真をカシャリと一枚。

「気に入ったのか?」
「はい!買いますので準備お願いします!!」

カシャカシャと音が聞こえて、政宗は笑いながら「roger」と立ち上がった。
笑んだまま店に入って行ったのを確認した鶴姫はこっそり携帯のデータフォルダを確認する。
その中には夢中になって撮った紅茶の写真と、思わず撮っていた政宗の笑顔。

「……」

ピッと、ロックフォルダへ移動させた。
ぱくん、と携帯を閉じた時、丁度政宗が袋を手にして戻って来た。

「ほらよ、日本茶もあるが、いいか?」
「じゃあ、ほうじ茶をひとつお願いします!!」
「まいど」

ほうじ茶も追加した袋をテーブルへ置いた。
再び腰かけた政宗は優雅にカップを持ちながら鶴姫に近況を尋ねる。

「中学の方はどうなんだ?」
「はい!とても楽しく過ごしています。昨日も…」

それから弾む話しに夢中になってくるくると表情を変える鶴姫に政宗は眦を緩めるのだった。





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