それはおそらく、もっともびみで醜悪な


「やれ毛利、ぬしは独眼竜と面識があったか?」
「なんだ、藪から棒に」

なに、他意はないと刑部が言った。
それに訝しげに眉をひそめながら毛利はふんと鼻を鳴らす。

「奥州の独眼竜がどうかしたか」
「変わらぬよ。…変わらぬが、徳川の側というのが解せぬ。聞けば、群れることを嫌うというが…」
「あの男は馬鹿ではない。あれなりの苦渋の選択であろう」
「ヒヒッ…ぬしがそこまで言うとは、存外に気に入りか?」
「今日は随分と喋るのだな」

不機嫌を露わにする毛利に、刑部は引き攣った笑い声を零す。
それにますます眉根を寄せる様子に刑部はふうわりと空を移動して見せた。

「ぬしは竜の右眼を見た事があるか?」
「軍師の方…という訳ではなさそうだな」
「そうよ、あの眼帯に隠された右眼。われはあれを見てみたいのだ」

あの眼帯に隠された、真の姿を暴きたい。
そう言って笑う刑部に毛利は冷たい視線を浴びせた。

「ヒヒッ、そう怒るな毛利よ」

愉快でたまらないというように笑む刑部に毛利は忌々しそうに視線を外した。
刑部の周りを漂っていた数珠が螺旋を描くように動き出す。
限りなく灰色の数珠は光沢を放つことはせず、ただ不気味な色を反射させていた。

「…あれを手にするのは易くはない」
「ほう?まるで試したことがあるように言うのだな」

さも驚いたように声を上げた刑部に毛利は詰めていた息を吐きだした。

「もうよいな。我はもう行くぞ」
「然らば、こちらも戻るとしよう。武運を、」
「貴様こそ、足元を掬われんようにな」

足音一つさせずに踵を返した毛利に、刑部は数珠のひとつを掌の上で弄んだ。
鈍く濁った光沢の中に映しだされるのは美しい青。

「ぬしは良い香りがする。われが好む至上の香りだ」

慈しむかのように数珠に触れる寸前をもう片方の手が撫でるように滑った。

「その不幸、早く食してみたいものよ」

刑部の歪な笑いに、青を映した鈍色が小さく震えた。


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