重い。それも瞼ではなく躯が。疲れていないと言ったら嘘になるが、これは明らかに他動的な重みだ。(強制的とも言う)
 寝返りを打とうにも、脚を絡められてがっちり押さえ込まれてはそうもいかない。倦怠感と寒さで布団から出難いのは間違いないが、このまま寝続けていたら大学は自主休講コースだ。随分お盛んだな、なんて言われたら言い返せないのが痛いところだ。
 それにしても昨日も派手にやらかしたな、なんて、脱ぎ捨ててそのままになっている服の数々や乱れたシーツを視界に入れたら、嫌でも一人反省会を開きたくもなる。この上なく欲望に従順な男。理性的であるようで、結局本能的な男。密着する躯を剥がそうにもどうやら離してくれる気など微塵もないらしい。

「…おい、起きろ、知盛」
「何だ、…お盛んな兄上は未だ足りないと…?」
「ちげえよ、お前と一緒にすんな。重いんだよ」
「…愛の重さだと思って、ありがたく受け取れ」
「お前、それ自分で言ってて気持ち悪くねえのか」
「さあ、な」

 甘えるように頬擦りしてくる知盛は、珍しく朝っぱらから饒舌だった。何時もだったら何を言ったって無視を決め込むか「ああ」とか「ん」とか言うだけなのに。もしかして寝顔をまじまじと見られていたとか。やべ、鼾とか掻いてなかったかな。否、今更何を恥ずかしがる事がある。
 高鳴った鼓動が密着している躯に伝わっただろうか。くすりと僅かに頬を緩ませると、顔を首へ埋めてきやがった。触れるだけの唇が、何だか擽ったかった。

「ん…」

 俺が抵抗しないのを良い事に、動物か何かが戯れるように、舌を伸ばしてれろれろと首ら肩に掛けて舐め始める。なにこれ、毛繕い?スキンシップ?ちらりと目線を向ければ俺の思考などお見通しなのか、射抜くように向けられていた双眸とぶつかった。動物なんて甘っちょろい、獣だ、獣。

「おい、昨日散々やっただろ…今日の授業の単位やべえんだ」
「そう言うなよ、人肌恋しい季節じゃないか」
「…お前のそれはオールシーズンだろうが」
「行くなよ、兄上」
「野郎に言われてもかわいくねえ」

 とか何とか言いながら本気で抵抗しない俺も俺だが。既に来週教授にどう言い訳しようかと思案を巡らせている時点で、答えは決まり切っているのだ。
 諦めながらもそいつの重い愛とやらを受け取る為に腕を回して肯定してやれば、骨張った手が胸の辺りを撫で回してくる。くるくると乳首の周りを焦らすように指でなぞられ、思わず物足りない声が出てしまいそうになる。
 この後上に乗るつもりなのか、このまま突っ込むつもりなのかはこいつの事だから何とも言えないが、(どちらでも構わないと思っている時点で俺も終わっている)きっと昼過ぎまで離してくれそうにないのだろう。
 しかし何やらおかしい。核心に触れてこないのだ。何時もだったらぐいぐいと中心を押し付けて主張してくる癖に、俺の躯を確かめるように動いていた手は次第に意思を持たないものになっていく。どんな表情をしているのか手を伸ばして髪の毛に触れると、しっかりと瞼がくっついておられた。

「…くっそ、寝てやがる」

 言いながら思わず笑みが零れてしまったのをこいつは知覚出来ただろうか。珍しい事もあるものだ。焦らしているのか本当に寂しかったのか何のつもりかは皆目見当が付かないが、人が気乗りしたところで狸寝入りしやがって。
 今まで俺がどれだけ寝顔を見せられたと思っているのだろうか。此処で襲ってやるのも一興だが今は大人しく、単位の事でも考えて奴の気紛れに付き合ってやる事にした。人肌恋しい季節だし、な。




(111127)


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