冬島さんと若手技術者


私は所謂『ザル』というやつで、どんなにお酒を飲んでも酔えた事がない。
甘みと苦みを併せ持つお酒独特の味は正直言ってあまり好きでもないし、本当に少しも酔えないのでフワフワした気持ちもちっとも味わえないし、ソフトドリンクで十分だ。それでも、定期的に開かれる飲み会に毎度毎度参加してしまうのは、今も私の膝の上で酔ってぐずっている29歳のこのおじさんが、可愛くて仕方がないからだ。
このおじさんの名前は冬島慎次と言って、彼は防衛部隊の隊員であるけれど、私が席を置く開発室とは非常に親密な関係にあり、私よりも6歳年上の先輩に当たる。

「ん〜…、ん、うぅ、ビール…」
「はいはい、そんなに飲めないのにどんどん頼まないでくださいね〜」

私のお腹に顔を押し付けてぐりぐりと嫌々をする冬島さんの肩をぽんぽん叩きながら、まだ中身の残っているジョッキを端から飲み干していく。
そんな私たちを見てゲラゲラ笑っているのは玉狛の林藤支部長だ。

「いや〜良い飲みっぷりっ!いよっ!さすが香織ちゃんっ!」
「やだなぁ、オヤジくさい」
「あっはっはっは!まいったねこりゃ!!」

私のツッコミを嬉しがって一層笑い転げる辺り、本当にオヤジだ。
おじさんだらけのボーダー機関職員の飲み会では、若い女性であるだけで、周りがいたく可愛がってくれた。

防衛部隊隊員を除くボーダー機関に勤める職員の男女比は8:2で、圧倒的に男性が多い。女性のほとんどは事務などの一般職で、私のように技術職に就いている女性は片手で足りるほどだ。
三門市に於いて、このボーダー機関の職員は公務員を凌ぐ人気の職業である。
危険もあるので基本給は高く、働きによってきちんと色が付くしボーナスも夏冬しっかり出る。勿論、保険やなんやら福利厚生もばっちりだ。
かく言う私もそれに釣られて理系の大学を卒業後、ボーダー機関の開発室に就職した口である。

「香織ちゃん飲んでる〜?」
「はい、冬島さんの残り物をお片付け中でーす」
「ん!それでこそ香織ちゃんです!」

相手はネイバーなんて異形で、時折、わけもなく不安に駆られる時もある。けれど、こうして他の地に生きる人々と同じように飲み会を開いて、酔っ払って、笑顔や笑い声が飛び交って。

「ん…香織、」
「はいはい」

ぎゅうっと腰に抱きつく冬島さんの髪を梳くように撫でる。
自然と頬が緩んだ。
うん。ほら、こんなにも。

私にとっては、幸せだなぁって思える場所なのです。












- 6 -


[*前] | [次#]
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -