肉弾戦に励む子と風間


「おい、宮森」
「?」

ゴトゴト、ゴトン。落ちてきた缶ジュースを取り出そうと自販機の前でかがみ込んでいたら、名前を呼ばれた。振り向いたら風間が立っていて、見上げるこのアングルはなかなか貴重だぞと思うと、すぐに立ち上がるのは何だか勿体ない気もした。
そんな事を私が考えているとは知らない風間は、振り向いた私の顔を見るなり眉を顰めた。

「?なんでしょ?」
「…お前は、本当に馬鹿だな」
「お、おう」

缶ジュースを拾って立ち上がる。馬鹿だな、の言葉にどう返したら良いのかが分からず、いやぁ、と後頭部に手を添えて笑ってみるけれど、逆に風間の眉間の皺が増えてしまった。

「木崎も木崎だ」
「あ、」

なるほど、理解した。

「え?今更じゃない?あと、レイちゃん悪くないよね?」
「……」
「意外かもしれないけど、手加減する方が怪我するんだよ?ダウン取るなら脳しんとう起こさせるのが一番早いし、頭部狙うのは定石定石」
「だから、」
「それにこればっかりはレイちゃんじゃないと〜」

風間や慶くんじゃ相手になんないもん。
言い切るか言い切らないかの瀬戸際、拳が向かってきた。ので、ガードをした。
ガツ、と音を立てて缶ジュースが床に落ちる。ガードをしたのとは反対の手でリターンパンチの拳を作ったからだ。それは風間の顔の直前で気が付いて止めたものの、ほぼ反射的に動いていた。
頭が真っ白になる。

「俺が大事か」

傷ついた表情をしている、と冷静なままで風間が言う。突如空っぽになった私の中に、この人の言葉の一つ一つが逐一刺さっていく。

「まだ許していてやる。だから、余り他の男に傷を作らせるんじゃない」

そ、れは。

「もっと、つよく、なれと…」
「果てしない馬鹿だな、お前は」










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