菊地原のクラスメイト


防衛任務中、見慣れた姿を見つけたので慌てて介入した。

「き、菊地原っ!!」

宮森を背後に庇いながらトリオン兵を倒し、一息息を吐いていると、宮森が切羽詰まった様子で左腕のあたりに体当たりをしてきた。
「お前…」
「どど、どっ、どうしよう!どうしよう、とまらないよっ!!」
「……」
えらく混乱した宮森は必死に僕の左腕の二の腕あたりを抑えていて、そこからは少しずつ、トリオンが漏れていた。そういえば少し切ってしまったのだったっけ。何分痛覚というものを遮断している為、すっかり忘れていた。
「どうしよ、あっ!痛いよね、待って、今…」
「宮森、大丈夫だから。少し落ち着きなよ」
「うるさいじっとしてて!」
「……」
話が通じそうにない。しばらく好きにさせておいた方が賢明かな、と思った僕は、馬鹿だった。
宮森は制服のスカートの端に手をかけて、あろう事か、ビリビリとそれを裂いた。躊躇う事もなく。
「はぁ?!」
「じっと!してて!!」
ブレザーのポケットからハンカチを出して僕の腕に当てると、その上から裂いたスカートの切れ端を巻きつける。それでも漏れ出すトリオンの光に、どうしようどうしようと宮森の混乱はさらに速度を増していく。何重にも巻こうとし始める宮森の手を掴んで強制的に止めさせると、子供が泣き出す手前みたいな表情をした宮森の顔が、ようやくこちらに向いた。
「どうしよう…」
「…落ち着け。これは僕の体じゃない」
「へ、」
「出てるの、血じゃないだろ」
「うそ」
声と息が半分半分くらいの情けない『うそ』。普段うるさすぎるくらい騒がしいコイツじゃないみたいだ。
少しずつ光が漏れ出す僕の腕に触れて、それが血ではないとようやく気が付いた宮森は、いきなりその場に座り込んでしまった。
「?!おいっ」
勢いに呑まれて気が付かなかったけれど、もしかしてコイツ、どこか怪我でもしたのでは。
そう焦った僕の耳に「よかったぁ」と言うお人好しの言葉が届いた。座り込んだ宮森に合わせてしゃがみ込むと、それまで涙を零さなかった宮森がぼろぼろと泣いていて、いよいよ、どうしようもなくなった。

お前、今泣くの。
僕が無事だと知った、今泣くの。










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