風間と身長大きい子
もしも私の身長があと30cm低ければ。もしも私の声が小鳥のさえずりのように高く澄んでいれば。もしも私の性格がもっと明るくて、笑顔が似合う人間ならば。小顔で、睫毛も長くて、長い髪が似合う女の子であったなら。
「もうやだ…」
「いや、お前より身長高い男の方が少ないだろどう考えても」
「……」
「ただな〜流石に肩はなぁ」
「もうやだっ!!」
テーブルを挟んで向かいに座っている太刀川の言う「流石に肩はなぁ」は、私と、私の思い人の身長差の事を指していた。
「お前さ、正直俺より身長あるだろ」
「えぇ、そんな変わんないじゃん。誤差だよ」
「軽く見んな!男の沽券に関わるんだよ!」
「!!やっぱり身長って、そう、そうだよね、そう…」
「あ」
いっけね、嘘だよ冗談だよ、と、あからさまに慰めてくる太刀川の言葉が頭の中を通り過ぎていく。男の沽券に関わる。他ならぬ男性からの言葉であったからこそ、深く刺さった。
「いや、俺はこうだけど風間さんは男らしくて懐も広いしそんなの気にしないって多分」
「…うん、知ってる」
「お前ね…。ーーまぁ、そうだな、この際だから言うけどさぁ、お前はでかいけど、顔だって悪くない。真面目だし優しい。周りからの信頼も厚い。女としてどうこう以前に、人として良いと思うんだよ、俺は」
「そ、うかな…」
「で、俺でもそう思うんだから、間違いなく風間さんはお前のそういうところに気付いてる」
「太刀川…」
「だからせめて自分から話しかけるくらいしろよ。小学生か、お前は」
「あぁ…!!」
(あ〜あ…)
こりないなぁ、と自然にため息の一つも漏れる。聞こえてきた会話の内容はいつもと同じようにぐずぐずしていて、舌打ちしたくなるほど苛立たしかった。ほんと、小学生かよ。
垂れ下がった髪を耳にかけ直したところで、向かいに座る風間から声がかかった。
「どうした?」
「いえ、」と少し考えてから「宮森さんが」と名前を出してみた。
「宮森?」
「宮森さんって、太刀川さんと仲良いですよね」
「…そうだな」
表情は変わらず、隙がないように見えた。その反面、この人は宮森の話になると声のトーンに揺らぎを見せる。
どっちだ。
この人の事は割と分かるつもりでいたけれど、この件に関しては、絶賛計り兼ねていた。
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