諏訪のもの


高校を卒業してすぐに就職をした。特に資格も所持しておらず数々の企業からお祈りをされる中、何故か記念受験の感覚で受けたボーダーの試験にするすると通り、本部の受付嬢を勤めてもう三年になる。
ボーダーは特殊な環境で、職員こそ年上ばかりだが隊員は年下の方が多い。まだ学生の子がほとんどで、下は中学生から。年下だけれど、私よりもボーダーに居る年数が上の子もたくさんいる。オペレーターや隊員を経なかった私は、入社当初本当に新参者で、分からない事ばかりだった。本部内で道に迷う始末で、その時困り果てていた私に声をかけてくれたのが洸太郎だった。
『おい、どーした姉ちゃん』
適当そうな言葉だったけれど、彼は私に声をかけてくれた。きっと私でなくても、誰が困っていたとしても、普段から放っておけない人なのだろうと容易に想像が出来た。金髪に煙草。見た目や口調とは裏腹に、とても優しい人なのである。
その出会いをきっかけに話すようになり、そうして一年が経った頃、好きだと告白をされた。嬉しかった。私ももうずっと、洸太郎の事が好きだったから。



1月8日。ボーダー隊員正式入隊日。
私はこの日、新入隊員の案内の仕事に就いていた。先導をするのは嵐山隊のみんなだけれど、人数も多い為、微力ながら職員もサポートに入る。一番後方で新入隊員と共に説明を聞きながら、クリップボードに挟んだ進行表にチェックを付けていく。流石に慣れていて、嵐山隊の説明や誘導にはどこにも隙がなかった。
(次は…)
ポジション毎に別れる段階に来ると、佐鳥くんに一度会釈をして、アタッカー・ガンナーのグループの方に移動した。スナイパーは人数も少なく、向こうには東さんがいる。
(そういえば今日って、洸太郎も手伝い入ってるって言ってたな)
会えるといいな、と思った。


0.4秒の子がいたり、風間さんが私闘を始めたりもしたけれど、入隊初日は特に問題もなくプログラムが進む。風間さんとB級の彼の模擬戦を見守った後で、私たちも一度ラウンジに出て休憩となった。モニタールームにいた洸太郎と堤くんも合流している。
「すごかったねぇ、あの白い子」と素人丸出しの私の感想に、「彼はネイバーなんですよ」と嵐山くんが教えてくれた。なるほど。
嵐山くんや堤くんと談笑していると、洸太郎の視線が喫煙室に向いている事に気が付いた。
「吸って来る?いいよ、待ってるから」
嵐山くんも堤くんも居てくれているし。
てっきり、そうか悪いなと言って一服してくるかと思っていたけれども、しかし洸太郎の返答はいつもと違っていた。
「…お前も行くか?」
「えっ」
今まで、洸太郎が喫煙中に近くにいる事を許された事なんてほとんどなかった。
制服に匂いが付いちゃうな。お気に入りの香水を付けて来たのにな。そう思ったけれど、でも、許された事の嬉しさが簡単に勝る。
「うん!行くっ!」


煙草を吸う男の人は絵になるなぁ、と煙草に火を付ける洸太郎の姿を見て思う。煙草を持つ、彼の手が好きだった。
体に悪いからやめとけ。そう言って洸太郎は、煙草からいつも私を遠ざける。確かに煙草は吸うよりも副流煙の方が毒性が強い。私の体を気遣ってくれている事は素直に嬉しいのだけれど、でも。
「でも私、洸太郎の匂いだから、好きなんだけどな」
そう言うと、目の前の洸太郎は盛大に噎(む)せた。
「うっ…!げほっ!ごほっ、」
「え?なに?そんなに変な事言った?」
噎せ過ぎて目の端に涙を滲ませながら「お前、煙草っつーのは本当に体に悪りぃんだぞ!」と、一丁前に咎めてくる。喫煙者の癖に。
「じゃあどうして今日は許してくれたの?」
唇を尖らせながらそう聞くと、決まり悪そうにガシガシと頭を掻いて煙を吐き出した。
「別に。マーキングだよ」
お前は可愛いんだよ!と開き直ったのかなんなのか、半ば怒りながら文句を垂れてくる。
予想外の答えに驚いたけれども、だけどすぐ嬉しくなって、余計な心配をしている洸太郎を思い切り笑った。









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