三輪を導く
※「復讐を終えた三輪秀次」という設定ですので、ご了承いただける方のみご覧ください。
「迷子みたいな顔してる」
窓の外では雪が降っていた。それを眺めながら一人ぼんやりしていた三輪に、声がかかる。視線をそちらに向けると、いつもへらへらしている呑気な女が、いつも以上にご機嫌な笑顔で笑っていた。
「復讐達成おめでとう」
「……チッ」
「わぁ、舌打ちだ!やだな、祝っているのに」
ケラケラと一頻り笑った後、その笑みは静かに引いた。
「この先どうするの」
真顔で問われたそれに、答えられるような目的も言葉も、今の三輪は持っていない。
姉を喪ってから、長い年月をかけて復讐を果たした。
けれどきっと、世界の、宇宙の広さを鑑みれば、とても短い時間で事が済んだ。姉の仇討ちは、一生を懸けて果たされずとも不思議ではなかったのだから。
だからそれだけを目標に据えて、それだけを目的に生きてきたので、これからの事など何一つ考えていなかった。
今の三輪には、何もない。
「やりたい事はない?私にはね、たっくさんあるの。秀次と一緒にやりたい事が」
「…俺と?」
「うん!」
秀次とじゃなきゃダメなんだ。そう言って並べ立てられたそれはどれも、誰とでも出来るような事ばかり。特別な事などどこにもない、ありふれた事ばかりだった。
「海へ行こう」
「遊園地も行こう」
やりたい事など、もう何一つとしてなかった三輪に、目の前の女はどんどん勝手に予定を詰めていく。空っぽの三輪を埋めてゆく。
夜は天体観測がしたい。観覧車にも乗りたいな。
春になったら桜を見よう。夏にはスイカを割りたいね。秋は果物狩りに行こう。冬は、今は、そうだな、雪だるまを作ろう。
「雪だるま…」
「二つ作ろう。私と秀次の雪だるま」
そうと決まれば外へ行こう!了承もしていないのに、決まったとばかりに三輪の手を取ると外へと駆け出した。
姉を亡くして、復讐する事だけを考えて、それだけの為に生きてきた。遂げた先の事など少しも考えていなかったし、姉の仇討ちさえ果たす事が出来るのなら、考えずともいいと思っていた。
ーーでも。
(でも、こいつは違う。こいつは、俺と過ごすその先を、ずっと考えていたんだ)
自分より小さくて細い手が、三輪をぐいぐい引っ張って行く。前を行くその表情は見えないけれど、声音や足取りの軽さから、どんな表情をしているのかが手に取るよう分かった。そういえば、前だけを向いて一人で先に進んでいた時も、この女は自分の傍に居たような気がする。
きっとこの手があれば、自分はこの先も迷う事はないのだろう。
漠然と、そう思えた。
光がまとわりついたので
企画「 さよなら 」様に提出。
タイトルは「 ギルティ 」様からお借りしました。
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