緑川に稽古をつける
緑川みたいなタイプには、宮森のようなタイプが師に適任だと以前から思っていた。それは間違いではなかったと、訓練室で緑川をボコボコにしている宮森を見て改めて感じる。
頭で考えないタイプの緑川。頭で考えるタイプの宮森。
緑川には才能やセンスを感じるが、宮森の踏んできた場数や経験には及ばない。
弟子を取らない宮森の指導はなかなか貴重なので、うちの菊地原と歌川も連れてきたがどうやら正解だったな、と外から眺めながら思う。菊地原と歌川は揃って苦い顔をしているが、決して目を逸らしてはいない。
宮森の檄が飛ぶ。
《容易く勝てるとしても、いい加減な勝ち方をするな》
《戦略的な弱さや欠点がなんで悪いのかわかってないんだよ。実力でカバー出来ると思ってんでしょ、どうせ》
《いつも攻撃の可能性を持ってるって事が大事なんだよ。頭の中心に置いておきな》
《入り込むなのめり込むな。客観的に見なさい。それじゃあ悪い手に気づけないだろ》
やはり、宮森は良い事を言う。
「あの人、本当に容赦ないんですよ!飴と鞭じゃなくて、鞭と鞭!」
「叱ってくれる人間は貴重だぞ」
稽古をつけた後、宮森は任務があるからとさっさと訓練室を後にした。緑川を置いて。そういうフォローが出来ない辺りが宮森の欠点だ。仕方が無いのでへこたれた緑川を回収し、ラウンジでこうして愚痴を聞いている。
「そうかもしれないですけど…」テーブルに顎をつけて口を尖らせる緑川。男がやっても可愛くも何ともない仕草だが、緑川のそれは犬を思わせて微笑ましい。
「俺、自信なくしますよ……」
珍しく落ち込んでいる緑川に笑った。
「あいつの言う事は効くだろう」
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