冬島さんと若手技術者2
くしゅんっ、ぶえっくしゅ、はっくしょーいっ!!
隣から出たくしゃみ三連発に、驚いて冬島さんの顔を見上げる。本人はというと、気に入らない、と言いたげな顔でずびっと鼻をすすっている。
「…まだ風邪じゃない」
「まだ何も言ってませんけど」
「………」
「まだ」ってなんだよ。子供かよ。
頭が良い癖に、この人は変なところで頑固だ。
「近頃急に冷えてきたから、髪はしっかり乾かしてくださいねって言いましたよね、私」
「……」
「空気が乾燥しているので加湿器点けて寝てくださいねって言いましたよね、私」
「………」
「開発室だって、いろんな機器にいろんな人間が触ります。手洗いしっかりしてくださいねって、」
「香織、それ以上怒らないでくれ…」
しょんぼりと肩を落とした姿は大きな子供みたいだ。私だって29歳の子供なんて叱りたくありません。悪いのは冬島さんである。何も言い返してこないという事が、全部守ってない証拠じゃないか。
「冬島さん」
「ん?」
作業着の袖を引っ張って屈んでもらい、手を伸ばして額に手を当ててみる。
「おお、」
「熱はなさそうですね。ひとまず安心しました」
手を離して離れると、開発室の真ん中に「体はあったかいのに、指先は冷たいんだなあ」と笑いながら大きな爆弾を落とした。
そういう事は声にしなくていいんですよっ!!!!
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