米屋の誕生日
我々はこの日の為に緻密な計画を練ってきた。
嘘だ。かなり大雑把な計画を突貫工事よろしくな感じで立てた。なんたって昨日立てた計画を昨日から準備し始めた。テスト勉強でも毎回そうだが、私たちは基本的にスロースターターなのだ。
「はい、どーん!」
「おお…!真っ白だな。中何入ってる?」
「イチゴ桃缶パイナップル」
「でかした!」
「…おい、何だこれは。説明をしろ」
朝7時の家庭科室。いつもは遅刻ギリギリの私と出水に加え、今日は三輪も呼び出した。
目の前に出したクリームで覆われた真っ白なケーキは、私が徹夜をして、数時間前の深夜から家で焼きだした傑作である。見た目は白い生クリームの一辺倒だが、中身は先ほども述べたように、イチゴと桃の缶詰、パイナップルが挟んである。あと無限の愛情。
計画を立てたのは昨日だったし、昨日の夜は出水も防衛任務があったので私が一人で焼いたけれども、本番はここからだ。
「三輪、今日は何の日?てゆーか、ケーキで察してよ」
「今日は11月29日だろう。祝日には当たらない」
「だよね…三輪は三輪だよ」
「おいおいおい!お前隊長だろ!米屋の誕生日だろ!今日!!」
「あぁ…」
そう。本日11月29日は、米屋陽介の誕生日である。
秋は出水と三輪と米屋の誕生日が一遍に来るので賑やかだ。
「でね?今からこのケーキに、そっちの鍋で湯煎にかけてるペンチョコで米屋の顔を書きまーすっ!!天才っ!!」
「目はきのこの山埋めようぜ」
「え〜?たけのこの方がウケるっしょ」
「…………」
机の上にはデコレーションの為にと、アポロ、マーブルチョコレート、きのこの山たけのこの里ポッキーコアラのマーチエトセトラエトセトラ。大量のお菓子は余ってもパーティーのお茶請けに回せばいい。
私たちはとにかく祝いたいのだ。
出水の誕生日もそうだった。祝いたかった。祝う事が、祝える事が嬉しくてたまらなかった。二人は夏の私の誕生日に、はた迷惑なくらい騒がしく盛り上げて祝ってくれた。始終ゲラゲラ笑っていた二人を見て、私を祝う事が二人にとって喜ばしい事なのだと、それがすごくすごく嬉しかった。この気持ちが今日、米屋にも少しでも伝われば良い。
「三輪…!!すごい、すごいよっ…!!」
「これが…アートってやつか…!!」
「ふん。似顔絵程度誰にだって書ける」
三輪の書いた米屋の顔はピカソ級の芸術作で、私と出水が埋めた両目のきのこの山とたけのこの里と、信じられないくらい相性が良かった。
「「米屋!ハッピーバースデー!!」」
登校してきた米屋を捕まえて、家庭科室まで連れ込んだ。
目の前に差し出されたケーキを見つめて目をぱちくりさせる米屋。おちゃらけた態度に反して冷静なこいつにしては、割とレアな表情だ。サプライズは成功とみた!
「ナニコレ?」
「なんと!三輪巨匠が描かれた米屋くんでーす!」
「秀次?!マジか!」
「マジマジ。三輪はもう教室帰ったけどな〜。もう授業始まるし。俺らはこのままパーティーで良いだろ」
「賛成賛成!けどその前に、米屋とケーキ並べて写真撮りたいんだけども?」
「やべ、忘れてた!ほら槍バカ!並べ!」
「…え〜。てか、お前らさぁ…」
「ほらほら!」
状況に乗り切れない米屋をぐいぐい押して反強制的にカメラに収める。すぐさま米屋と出水、それから三輪にも送信した。
その写真を待ち受けにしよう!と盛り上がる私と出水に、呆れたように米屋が言う。
「俺の誕生日なのに、お前らの方が楽しそうだよなぁ」
当たり前じゃん。アンタの誕生日が嬉しくないわけないじゃない。
そう言って笑ったら米屋は照れてしまったようで、赤い顔をして黙り込んでしまった。今日はつくづくレアな表情が拝める日だ。誕生日の力は偉大である。
米屋、生まれてきてくれてありがとう。アンタに出会えて、私は毎日楽しくて、こんなにも嬉しい。
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