いとこ同盟 議題「眼鏡」
ある晴れた日の放課後。防衛任務も非番の俺は今、カフェで苺のショートケーキをつついていた。
ケーキと珈琲がおいしいと評判のカフェで、4人掛けのテーブル席に俺と、同い年の女子高校生2人。まさに両手に花………と、思うじゃん?
「もうね、一生残る傷よ。私の目に映る世界に、一生物の傷がついたの。それも一瞬で」
「か〜〜〜…!想像しただけでつらい…!!」
「でしょ?!もう世界の終わりよ…!この苦しみは裸眼のアンタには絶対に理解できないわよ、陽介」
「そうだそうだ!!」
「あ〜…そだね、うん、はい」
目の前に座る2人の女子高校生こと宇佐美栞と宮森香織は、俺の父方のいとこと母方のいとこだ。俺を中心に広がるいとこ繋がりの輪を、彼女たちは『いとこ同盟』と呼ぶ。ちなみに同じ名前のLINEのグループも存在する。今日のような急な呼び出しも珍しくない。俺が何となく2人に逆らえないのは、こう、察して欲しいところだ。女っていうのは強い生き物なんだよ。
さて、本日俺が何故呼び出されたのかと言えば、どうってことない、香織の眼鏡のレンズが傷ついたそうだ。ただ、それだけである。
「もう眼鏡はただの眼鏡じゃないの。私はとにかく乱視が強いから、裸眼じゃピント合わなくて全部、全部ブレて見えるの。ありとあらゆるものがブレた視界を正常に見せてくれる……眼鏡はもう眼鏡じゃない。私の目なの」
「『眼鏡は身体の一部』…私たち人間は、いつだって失ってから大切な事に気づく、愚かな生き物だよねぇ」
「もうコンタクトにしたらどーなの、お前」
「陽介、私の杜撰さ知ってるよね?」
「ちょ、と…!コンタクトなんてそんな邪道な……?!!香織!眼鏡を諦めないで…!!」
栞と香織は揃って眼鏡を掛けている。二人とも顔は悪くないのに勿体ねーなと思わせるその要因は、どうしたって眼鏡だった。レンズが厚い。2人揃ってフレームも太い。まごうことなき、眼鏡だ。
「ボーダーメガネ人間協会名誉会長として、私はコンタクトレンズには断固反対だからね?!」
「まぁ私はボーダー関係者じゃないからそれ関係ないけど…そんなの発足してんの?ボーダーウケんね」
「と、思うじゃん?俺も初めて知ったっつーの。ウケんね」
うちの章平辺りが、本人の知らない内に登録されていそうで怖い。
「機能美だけじゃないって!形状の美しさとか多彩さとか!ずっと、ずっと君たちには説いてきたのにっ!!」と一人嘆く栞の肩を香織が叩く。
「とにかく!私眼鏡辞めないよ!楽だし!」
「香織…!!」
「本音 w w w」
昔から、一人っ子なのに三人兄弟みたいだった。
世話の焼ける姉が二人。
「今から新しい眼鏡作りに行くの、付き合ってよね」
「お〜!」
「はいはい」
こんな関係も、悪くない。
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