訓練の放課後に個性把握テスト 登校初日だというのに授業についていくのが大変だった…さすがヒーロー育成学校。 もう体の節々が痛くて今日は早く帰って滅茶苦茶寝ようと思って帰りの支度をしていると、実技の授業でボロボロになって保健室に行っていた緑谷くんがガラガラっと扉を開けて入ってきた。 「麗日くんや緑谷くんはすごい記録をたたき出していたんだぞ!」 『え!そんなに!?』 「あ、私はほら!重力関係ないから!ぽーーんって浮かべただけなんだけどね!」 『えええめっちゃ便利じゃん…神…。緑谷くんは?っていうか緑谷くんの個性ってどんなだっけ。』 「あーえーーっと、ぼくは、その」 普通に会話していたつもりだったのだが、何故か話を振られた緑谷くんはしどろもどろになってしまった。何故だ。 要領を得ない話し方でいまいちきちんと理解は出来なかったけど、つまり私みたいにパワー系の個性っていう認識でいいんだろうか。緑谷くんに合いの手を入れるように「そうなんだ!」「凄いんだぞ!」って言ってる飯田君微笑ましいけどめちゃくちゃ喧しいな。 『私もまぁ肉体強化的な個性だしぼちぼちやれば何とかなるかなぁ。』 「俺はボール投げに関しては個性を使用せずに挑むしかなかったな。」 『飯田君は脚だもんねー。ま、適当に調整してやるかな…。』 「んん…名前ちゃんずっとそんな感じだけど、今までの記録がちょっと下の方だから最後の奴で頑張らんと最下位除籍処分になっちゃうかも…」 『え!?どういう事!!?除籍なんたらの話めっちゃ初耳なんだけど!!!』 何て!?え、相澤先生何も言ってなかったしさっきまで3人ともめちゃくちゃほのぼのしてたのに急に真剣な顔になってるじゃん!!!緑谷くんはさっきまでのオロオロした態度どこいったんだ!! 「僕が今のところ最下位で、ボール投げは705.3Mなんだ。それを超えないと…ちょっとヤバいのかも…」 『緑谷くん最下位なの!?さっき飯田君にめっちゃ凄いって言われてたのに!?』 「緑谷くんは凄いぞ。」 『話が入ってこねぇ!!』 「とにかく個性のテストだし、全力でやってみようよ」という3人に背をおされ、私は除籍処分の危機に瀕しながら最後の競技へと挑む事になった。 そんなプレッシャーかけてくるなら最初の競技から言ってよ…。知ってたら最初から死ぬ気で血流したのに…。 『まあ、そうだよね。適当にやる訳にはいかないし、除籍云々は関係なくても最下位はちょっと嫌だし。考えなきゃ。』 すーっと息を吐いて気持ちを集中させる。700Mなんて記録は無理だけど、頭を回転させて賢く個性を使えば普段の記録よりは良い記録が出せるはずだ。このテストだってきっとこういう事の為に行っているんだろう。 さっきまで使っていた血はグラウンドの砂埃でもう使えなくなってしまってただの血だまりになっている。もうこれ以上出血するとヤバいかもしれないが、何とか気力で持ちこたえよう。 私は再度腕の傷口から血を必要な分取り出すと、それをスライム状の固さにしてボールの周りに付着させた。 「苗字君は先程から血液を大量に使用しているようだが大丈夫なのか…?」 「私もそれ気になってた…。さっきまで使ってた血の道具みたいなのはただの血に戻っちゃってて使えんっぽいね…。」 「うぅん…。ああいう個性の場合は絶対制限があるはずだし、普通の人だったらあんなに出血したら倒れてもおかしくないんだけど。」 『相澤先生ーーーーっ!!あの、私めちゃくちゃ頑張りますし!あの……あ!そうだ!私大器晩成型なので!!!もう冬とかには凄い強くなってますから!!!きっと!!!だから、お願いします!!!!!!!!』 「…?何言ってんだお前は」 『ふぇ?』 「テストが終わったなら後で職員室まで提出しに来い。それと苗字、お前はさっさと保健室に行ってこい。」 『ホケンシツ?』 保健室への許可証のようなプリントを渡して、相澤先生は去って行った。 保健室と言われた意味がよくわからなかったが、改めて自分の体を見ると騒いだせいか傷口から血が溢れている事に気付いて顔が青ざめる。そう言えばキャパオーバーな量の出血をしたんだった…。心無しかさっきより頭がくらくらして目も霞んで来た。 『き、きぶんわる…』 「わっ!?名前ちゃん手から血めっちゃでとるし顔真っ青だよ!!大丈夫!?」 「むむっ!早く保健室に行きたまえ!」 「あ!じゃあ僕が肩貸すよ!苗字さんしっかり!」 『ありがと…みんな…』 緑谷くんに肩を貸してもらってゆっくり歩いていると、後ろから飯田くんとお茶子ちゃんが「では俺はテスト結果のプリントを職員室に出して来よう!」「私は名前ちゃんの荷物と着替えとってくるね!」と言ってくれた。優しい人しかいない世界だ…。 『緑谷くんもごめん…。こうなる事解ってたし、皆に迷惑かけるくらいならもっと考えて個性使えばよかった…。』 「…僕もそうなんだ。苗字さんと同じで、個性を使いこなせてないから大怪我して迷惑ばかりかけて…」 思わず弱音を吐いてしまったけど、まさかこう返されるとは思っていなかった。 そう言えば緑谷くんはパワー型の個性だけど使ったときの反動が凄いってさっき言ってた気がするな。 『大変だねえ、お互い。やんなっちゃうね。』 「うん。…でも変わらなきゃ。このまま周りに助けられてばっかりじゃ、僕は立派なヒーローにはなれない。」 気まずい雰囲気にならないように軽口を叩いたつもりだったのだが、そう言った緑谷くんの横顔はとてもまっすぐで、多分これは彼にとってとても大事な事なんだろうと思ったら上手く返す言葉が見つからなくなってしまった。 というか、もう、何か考えられるような状態じゃ… 「あ、何かごめん…!唐突に語りだしちゃって!! …ってあれ?苗字さん!?」 遠くから聞こえるような緑谷くんの焦った声を最後に、私は意識を手放した。 嫌だな…迷惑かけちゃうなあ… その後、急いで私をかついで保健室に連れて行ってくれた緑谷くんのおかげで私は何かと起き上がるくらいにまで回復する事が出来た。緑谷くんは勿論、後から駆けつけたであろうお茶子ちゃんや飯田くんのホッとした顔を見て、本当に申し訳なくなった。 「アンタもこっちの坊やと同じさね。個性の使い方が荒っぽすぎるよ!1日にこんなに血を流す奴があるかい!」 『ご、ごめんなさい…。』 リカバリーガールにこっぴどく怒られ、改めて個性の使い方をもっとよく考えようと思うようにした。緑谷くんが引き合いに出されたと言う事は、彼は以前もここに運ばれて来たんだろう。少し気まずそうにしている。 下校時仲良くおしゃべり。 「まさか意識まで失うとは思わなかったよ。今日はゆっくり休むんだぞ苗字くん!」 『うん。飯田くんもお茶子ちゃんも心配かけてごめんね。あとプリントと荷物とって来てくれてありがとう。あと結構放課後まで付き合わせちゃってごめん。』 「ううん、平気だよー!友達だもん!」 『天使かよ…お茶子スマイル尊い…』 「(…わかる)」 『緑谷くん"わかる"って顔してるな??』 「え!?そんな顔してた!!?」 『いや適当言っただけだけど。』 「ソウデスカ…。」 『頭は痛いし怒られちゃったけど、ペッツ貰えたから保健室は良いよね。』 「(苗字さんて大分楽観的だな…。)」 「そんな理由で保健室に入り浸るなど言語道断だぞ!」 『いや、入り浸ってないしそんな単細胞じゃないよ…。ちょっとした冗談だよ…。』 お茶子ちゃんは天使で 緑谷くんは表情豊かで 飯田くんはまじめである。 「まあでも名前ちゃんが無事で良かったよ!私もう今日はデクくんは大怪我するし、名前ちゃんは意識失うしで1日で凄いハラハラしたんだからね!」 『ごめんさい…。でもあの、もうこんな事なんないように私気をつけるから。 私だって、立派なヒーローになりたいもん。』 お茶子ちゃんと飯田くんと並んできょとんとした顔をしてる緑谷くんに、お互い頑張ろうという意味で笑いかけると、少し気恥ずかしそうに、でも嬉しそうにはにかんでくれた。 『あ!!!待って除籍!!!!!!!忘れてたどうしよ!!!!!!!!』 「あ、それウソだよ。」 『何だそうなんだぁ。 いやいや意味解んないわ、どういう事?????』 「ごーりてききょぎって奴なんだって!」 『わからん…説明が省かれすぎてて解らん…。と、とにかく先日の個性把握テストで相澤先生にそういう事されたって事で良い?』 「ああ、そうだ!」 『成る程。それで環境が違うと正確なデータが取れないから、私にも同じようにウソを付けって言われたんだ?』 「ううん、それに関しては私達が勝手に言ってみただけ!」 『じゃあそれはもうただの不合理なウソだよ!!!!』 |