text | ナノ





私が居ない間に身体測定や実技の授業などがあったことは聞かされていたけど、どうやらそれ以外にも色々あったらしい。


「家庭の事情ならしょうがないよねぇ!」
『あはは…。』

元気よく励ましてくれる芦戸ちゃんに内心ギクリとしつつ苦笑いで返事をしてしまった。どうやら私の入学が遅れたのは"家庭の事情"という名目になっているらしい。何にせよはしゃいでトラックに跳ねられ全治4ヶ月なんてクソ程に恥ずかしい理由を知られていないのは助かった。

「そういや名前ってどんな個性なの?」
「あ!私も知りたい!私たちは昨日個性把握テストとかやったから知ってるしね!」
「ウチは名前の事ちょっと知ってるよ。中学の時になんか新聞載ってたじゃん。」
「え、苗字載った事あんの!?すごーー!!有名人じゃん!」
「ケロ…ああ、あれかしら。確かおばあさんをトラックから助けたっていう…。」
「そうそれ。」
「まあ!苗字さん凄い方なんですのね!」
「私は見た事ないし地域新聞だったのかなぁ。」
「確かネット記事じゃなかったかしら?」
「あそうだったかも。」


いやめっっっっっっっちゃ喋るやん。姦しいな!!!!!うちのクラスの女子たち!!!!良い事!!!!!

みんな可愛い
ちゅうがくはがさつでごりら
おちゃこははなほじらないもん
わたしもごりら
ゴリラはいねーのか





昨日は個性把握テストという行事があったらしいが、今日はなんというか普通の日みたいだ

プレゼント・マイク先生の講義も意外と静かだった。今朝職員室に行った時はテンション高かったんだけどな。
そう言えば、職員室と言えばB組担任のブラドキング先生にお会い出来た事がとても嬉しかった。私の個性もちゃんと知ってくれているのか、「組は違うが、似た様な個性だ。何か悩みがあったら遠慮なく言ってくれ。」と言っていただけた。というかもう、そうなるならクラス分けの時点で私B組にした方が話が早かったんじゃない?とか思ってしまう。

オールマイト登場

戦闘服という単語にクラスの皆も興奮を押さえきれないといった感じだ。かく言う私もそうである。提出した時は色々不安があったが、いざ完成形を渡されると着てみたいという気持ちでいっぱいになった。
更衣室で着替える。やおももやばい。
皆結構ピッチリスーツが多いのかな?私はよく使う手足からは血をすぐに出せるようにノースリーブにショートパンツでその上に袖口が大きめのジャケットを羽織っている。腰には輸血パックと血を出すための小型ナイフがある。ブーツとリストバンドにはワンプッシュで輸血できる装置が組み込まれており、多少無理をしても何とかしのげそうな雰囲気である。それと、以前個性の訓練をしてる時に思わず血しぶきが目にかかって驚いて凝固してしまい自らの血でやたらテンパるというボンミスを犯したため、万が一の時のために防水のゴーグルを付けて頂いた。コス会社さんありがとうございます。


轟くんと障子くんと同じペアだった。
偉いクールな感じの2人組と一緒になってしまった。轟くんに関しては朝少し話したが、それだけだし障子くんに関しては素性が一切わからなくて死ぬ程気まずい。何考えてるかわかんない。あと轟くんのコスチュームなんか怖い。

『よ、よし、取り敢えず皆で協力して頑張ろー!よろしく!!』

私の渾身の意気込みを無視して轟くんはスタスタと行ってしまった。ウソでしょ。
障子くんは置き去りにされた私と轟くんを見た後に、「よろしくな」と腕の先の口で言ってくれた。轟くんの100倍優しいかよ…。優しさを噛み締めながら後ろをついて行くと、障子くんはさっきの腕の先を耳やら口やらに変えて情報収集を始めた。

『便利な個性だ…。』

思わず感嘆の声を漏らすと、1つの複製腕がこっちを剥いてニッと笑った。イケメンかよ…。

「四階、北側の広間に一人。もう一人は同階のどこか…素足だな…」
『すご!じゃあ障子くんはこのまま情報種集をしてて、連絡をとりつつ私と轟くんは四階に…』
「いらねぇ。」
『…は?』

「外出てろ 危ねぇから。」


ソトデテロアブネェカラって何。
臨戦態勢でやる気満々だった私は轟くんの発言の意味が一瞬理解出来ずに何て?何て?ってなってしまった。
そうしてる間にも轟くんは1人でつかつかと建物の奥へ入って行ってしまった。

『な、何アレ…感じ悪すぎる…。ボロ負けしてくればいいのに…。』
「…それは俺達にも関わってくるからダメだろ。」

障子くんも複雑そうだが、取り敢えず情報収集という役目は終えたので轟くんの言う事に従うようだ。わしゃまだ何にもしてへんぞ。意気込み担当みたいになってるしこのままだと評価0じゃんつらい。

憤りを感じつつ轟くんの方を睨んでいると、轟くんもちらっとこちらを見て「何でまだ居るんだ」みたいな嫌な顔されたので仕方なくとぼとぼと建物から出る事にした。まだ何もしてない上に私の個性すら多分知らないのにお荷物扱いはやめてほしい。イラッとする。

『何かあったら助けよんでね!』


無視かい


そんなこんなしていると轟くんのクールさが爆発した。色んな意味でクールすぎて空間も心も寒い。朝は良い人だと思ったけどちょっと私と障子くんおざなりにしすぎだろ…協力って言葉知らんのか…。
凍り付く建物を外から眺めながら、萱の外の私達はぼんやり会話する。どうやら何の苦労もなく我が陣営の、いや、轟くんの勝利らしい。

『うわあ勝っちゃった…。ボロ負けしてきて私たちに泣いて懇願してくる未来しか見えなかったのに…。』
「お前結構口わるいんだな。」
『だってほぼ1人でやってて何かずるいじゃん。あ、氷とけた。』
「とけたな。」
『じゃあ戻ろっか。』
「…関係ない事だが、苗字。お前コスチュームのボタン取れかかってるぞ。」
『ウソでしょ???』

バッと確認したら、ショートパンツのお尻についてたボタンが取れかかっていた上にめちゃくちゃ汚れていた。多分轟くん待ってる間に適当な石階段に座っていたからだろう。
私何もしてないのに何でコスチュームだけ戦闘した感でてんだよって凄く切なくなってしまった。
 
戻って来た轟くんはめちゃくちゃ気落ちしてる私を見て何を思ったのか「…勝ったぞ。」と言った。
こ、こいつ私が負けたと勘違いしてると思って訂正してきやがった…!
めちゃくちゃ誤解だし言い方とか何かもう凄い悔しいけど、ボタン取れたとかのくだりの説明がめんどくさすぎて『うん。』とだけ返して3人でクラスメイトの元へ戻ったのだった。
私、めっちゃ察しの悪い奴だと思われてるんだろうな…。