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『おはようございます!!』

そう叫んで誰も居ない教室に入ってから早くも10分が過ぎた。が、未だに誰も来ない。
病室で地味に暇潰しのスキルを会得した私からすれば10分間の虚無など屁でもないのだが、いつどのタイミングでクラスメイトが入ってくるかわからない辺り緊張の糸は未だ張りっぱなしである。
少しトイレにでも行こうかな〜なんて思い始めた時、ギィッとあの大きなドアが開く音がして私はバッと前方を向いた。

どうしよ。第一印象が大事だし、やっぱり元気に人の良い感じで挨拶するべきだよなあ。

思考回路がショート寸前の中、待ち望んでいたクラスメイト第一号くんが教室で一人ポツンと座っている私を視界に捉え少し目を見開いた。私は今だ!とおもむろに立ち上がって自己紹介を始めた。

『苗字名前です!!!今日からこのクラスの一員なので!!あの、どうぞよろしく!!!!』

自己紹介というよりもはや武将の名乗りの様な気迫で挨拶してきた私に、クラスメイト第一号くんは一瞬驚いた様に動きを止めたが一拍遅れてから

「ああ。」

とだけ言ってすぐ目を反らしてしまった。

うわぁ。

もー絶対そういうノリの奴じゃないじゃんこの人。
髪の毛めちゃくちゃセパレートだしウェイ系だと一瞬で判断しちゃった数秒前の私を恨むわ。死ぬほど気まずい。

しかし、死ぬほど気まずくて死にたくなっているため誰とも顔を合わせたくない、出来れば今すぐ地球が爆発してくんないかな〜と絶望してる私の席の横にゆっくりとさっきのセパレートくんがやってきたので心臓が飛び出そうになった。
なんだこいつ。人が羞恥心で死にかけてるのに追い討ちをかけるつもりかよ。

もう第一印象でだいぶボロボロになっている私は隣の彼をちょっと睨みながら見上げたが、彼の方が凄い冷たい目をしていたのですぐさま睨むのを止めた。当たり前だが悪いのは全面的に空回りした私なのだ。いや、むしろ悪いやつは居ないんだ。ただただお互いのノリが合わなくて印象が悪くなっただけなんだ。最悪かよ。

「おい。」
『……何か…。』

私は居心地の悪さを感じながらも彼からの言葉を待った

「そこ、俺の席だぞ。」


まじで。
そういや何か席わかんないから適当に座ったんだった。まじかよ。ただでさえ気まずかったのにこれ以上はもう耐えられないわ。

「…あんたの席はあっちだ。」

私が羞恥やら気まずさやらで項垂れながらどう返そうか悩んでいると、席がわからないと思ったのかセパレートくんはご丁寧に私の席を指差してくれた。偶然だけど私は彼の前の席だったようだ。
見た目と第一印象で何かめっちゃ怖いイメージしか無かったけど意外といい人なのかもしれない。

『まあ、悪い人がヒーロー科にいるわけないんだけど。』
「?」
『あっいや、独り言だから!席教えてくれてありがとうね。』
「ああ。」

サラッとお礼も言えたし何となくさっきまでの気まずさも薄れた気がする。どうやら彼はただ物静かなだけで怖い人ではないようだ。最初の「ああ。」もドン引きしてるのかと思ったけど彼にとっては普通の返事だったようだ。
まあ誰だって朝当校して知らない奴が自分の席で甘寧一番乗りみたいなテンションで名乗りを上げてきたら怖いもんな……申し訳ないことをした……。
その後は改めて自己紹介をし直し、彼の名前も聞いた。セパレートくんは轟くんというらしい。カッコイイ苗字というのはそれだけで強キャラ臭を醸し出せるので非常に羨ましい。
すっかり落ち着いたので次からはまばらに入って来たクラスメイトともリラックスして挨拶できるかもな〜とゆるい気持ちでいたのだが、気付いたら寝落ちしてしまっていたらしくホームルームの直前に後ろの轟くんが「オイ。」と起こしてくれた。彼には初対面からずっと至れり尽くせりで本当に申し訳ない。何か、これからなるべく良い噂とか流してあげるようにしようと思った。

「おい、苗字。入学初日に爆睡とは良い度胸だな。」
『エッ、すみません。』

教卓の前に立っている凄くもっさりした男性がもの凄く怒ってますという様な表情でこちらを見ている。
あの人は知っている。教室に来る前に先に職員室でご挨拶した、担任の相澤先生だ。何か凄くもっさりしててとてもプロヒーローには見えないのだがクラスメイト達は私が居ない数日の間に慣れたのかそんな事誰も気にしていないという雰囲気である。絶対初日だったら他の子も「え〜!あれが先生〜!?」みたいな会話してたよ〜。ここでもまた歯がゆい思いをしてしまった。

「聞いてんのか苗字。」
『…あ、すみませんもう1回お願いします。』

目クワってするのやめてくださいごめんなさい。

「…お前は今日が初登校だろ。前に立って一度自己紹介しとけ。」
『は、はい!』

そうか、そうだよな。普通に考えたらそういう場を設けてくれるよな。
再び訪れた緊張感に包まれつつ慌ただしく席を立って歩き出した私を、クラスメイトの物珍しげな視線が突き刺さった。

『えっと、苗字名前です。皆とは少しずれた入学になっちゃったけど、どうぞ仲良くしてください。よろしくお願いします。』

ウケを狙うでもなく、テンプレ通りの挨拶が出来た。別にクラスの人気者になろうと思ってるわけじゃ無し、これで十分だろう。変に張り切ってスベリ倒すのだけは勘弁願いたいのだと、今朝の轟くんとの初対面の事を思い出して心が凍てついた。

「よろしくなー!」
「苗字よろしく〜〜!」

拍手と共に笑顔でよろしくと言ってくれるクラスメイト達を見て、朝から交友関係に関してもの凄くネガティブになっていた私はもの凄くホッとした。
そして思った。このクラスメイト達皆凄い優しい。