偽者ピーターパン
鳥の羽根を百枚集めて、蝶々のキラキラの粉をふるの。
そうすれば空が飛べる。
小さな僕の妹は、ピーター・パンを知らない。
彼女がママのお腹から出てくる前に彼は、
ネバーランドに帰ってしまったんだ。
ママは妹をパパの生まれ変わりだと言って、
汚い大人たちは、やっぱり顔をしかめて言った。
あんたのお母さんはインランだよって。
インランってどういう意味かなんて分からないけど、
その意味をママに聞いてみたら眉毛がトロンと溶けだして、
洪水がおこりそうな顔をするから僕は聞かないでおく事にしている。
ママの涙は、ネバーランドまで続いているからね。
パパは飛べるから大丈夫だけど、フック船長は船が沈んじゃう。
それは駄目だ。
いくらママがパパの見方でもフック船長をやっつけるのはピーター・パン 一人で大丈夫だからね。
だから泣いたら駄目なんだ。
僕の小さな妹は、いつもピーター・パンを探している。
新しいピーター・パンが家に来たけれど、そいつが偽物ってことは僕も妹だって知っている。
だって、彼は空を飛ぶ方法も知らないし、ネバーランドでフック船長と闘ったこともないんだから。
チクタクワニの恐ろしさを知らないなんてピーター・パンの風上にもおけない奴なんだ。
だから、僕がピーター・パンになることにした。
守りたいものがあれば誰でもなれるってパパが言っていたからね。
今までだって大切なのは沢山あったけれど、みんなにはもうピーター・パンが居たからね。(現にママには偽物が居るし、ネコのリリーにはチャーリーという恋人がいる)
僕の小さな妹には偽物ピーターが居るけれど、彼に騙されるのはママだけで充分なんだ。
まずは、鳥の羽根を百枚集めて、蝶々のキラキラの粉をふる。
そうすれば空が飛べる。簡単なことさ。
鳥の羽根は、あと46枚だし蝶々は蛹で眠ってる。
もうすぐ、僕はピーター・パンになる。