カシャり




瞬きでシャッターがきれたらいいのに。
なんとなく同意を求めて言ってみた。
あたしが求めているのは同意であって否定ではない。
それは彼女自身もよく分かっていた筈なのに。

そんな迷惑な話しはないよ

顔をしかめてあたしの目線に合わせて上から低飛行。
あたしの頭ひとつ分身長が高い彼女。
きれいなブロンドの髪が揺れている。

でも、一瞬が撮れるんだよ

カメラを出すまでの時間がもったいないんだ、と言ってみたら、
それはあなたがトロイだけだよと言って笑われた。
ごもっともだけど何でも持っている彼女には言われたくない。
彼女の父親は偉大な発明家で彼女の母親は有名な写真家で。
その一人娘は美しい美貌の持ち主で非の打ち所がない。
なんでも持ってるからそんなこと言えるんだ。
口を尖らして恨めしそうにすこし睨む。

要らないものだってたくさんある

と彼女は言うけれど彼女のどこに要らないものがあるのか、見当もつかない。


例えば、

唇を開いただけなのに風を呼んでいるように見える。

目 とか。

彼女はあたしの目のあたりを指でなぞった。

私の目にはシャッターがついてるの

彼女がすごく真面目な顔で言うもんだから、ついあたしもすごく真面目に頷いてしまう。

知ってたの?

なにが?

私の目にシャッターがついてたこと

2度言われてようやく気がついた。
彼女は不思議ちゃん気取りなのか本当の電波さんかだ。
それともからかっている?
あたしの話しを聞いて馬鹿にしている?
長い間、押し黙っていたら怪訝そうな顔をした小さな彼女があたしの目の中に入ってきた。

本当だよ

嘘つけ

本当なんだけどなあ。

困った顔。眉毛が重力に逆らえずに垂れている。

証拠は?

なんの?

瞬きでシャッターをきれる証拠。

私が偉大な発明家の父と有名な写真家の母の娘であることがもう証拠なんだけどなあ

どういう意味?

すこし考えるそぶりをみせて彼女は、困ったように笑った。

まあいいや

良くないよ

だって信じてないでしょう?

彼女の茶色に吸い込まれそうになる。
小さなあたしが彼女の目の中に入りそうだ。

その時

カシャり

と音がした ような気がした。


我に返ってもう一度、彼女を見る。
ふふふと笑っている。

今、シャッターをきったの?

さあ、信じてないんじゃなかったの?

なにそれ君、著作者の侵害だよ

ああ、あなたの両親にね

彼女の言葉は、いつもあたしの斜め上をついてくる。

あなたは、あなたの両親の造形物だから

君だって同じでしょう?

そうね。私は、特にそうでしょうね。
私、人間じゃないし

今度は聞き逃さなかった。
彼女は、人間じゃない。
美しすぎて人間ではないのか。


人間が目でシャッターがきれる筈ないじゃない

やっぱり彼女は、
不思議ちゃん気取りなのか本当の電波さんかだ。
それともからかっているか。


どうでもいいけど、人間じゃない奴に負けたってなにも悔しくないから彼女は人間じゃなくていいと思う。




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