小説(MSSP) | ナノ






▼ MSSP 8



「きっくん、じゃあどうゆう戦い方をしたいの?」
「うーんとねぇ、なんかとりあえず派手でカッコ良かったらなんでもいいかな!」
「何でもいいのかよ、せめてもっと方向性を決めてくれ?」
「ぇえー?」
えおえおの問いに対し、きっくんは「そんなこと言われたってさー」とむっくり頬を膨らませる。
二人は寮の地下に創設されている射撃訓練室で、各々の愛銃を手に並んでいた。

「そんなんできっくん本当に上手くなれんのかぁ?」
「なれるに決まってんだろ!お前がちゃんと教えてくれればな!」
「ちょっと待ってくれよ、それ俺のせいになるやつじゃん」
これは思った以上に重大な使命を預かってしまったのかもしれない。
えおえおは にししと楽しげに笑うきっくんに観念して、まったくと笑った。

その肩の爆弾が取れるまでは、えおえおは戦場に復帰できない。
そしてえおえおが復帰できないのならば、MSSPという小隊は解散を余儀なくされる。
そう宣告されたMSSPはそれぞれに葛藤し、ぶつかり、一旦は別の方向を向いてしまった。
けれど、結局は誰もが同じ想いを秘めている。

『失いたくない』

それぞれが抱える感情の底にある根っこは、きちんと繋がっていた。


自分の復帰を半ば諦めているえおえおに、きっくんは自分の指南役になれと言った。
折れそうな気持ちを必死で支えてくれる仲間の言葉に、えおえおはもう一度踏みとどまる。
自分がこのチームの為に出来る事を、何でもいいからやってやろうと決意した。

だってこのMSSPというチームは、もう自分だけの居場所じゃないのだから…。


「よしきっくん、とりあえずあの的に3発、全部ど真ん中に決めてくれ。そっからだ」
「えー!そんなん無理に決まってんじゃん!?」
「は!?いや、だって、動かない的が相手なんだからそれぐらい出来るだろ!?」
「出来るわけないだろ!ちょっと、お前ね、俺のこと過信しすぎだぞ?いくら俺が戦場の魔術師を言われて恐れられた存在だからって」
「誰もそんなこと言ったことねぇーよ!」
まるで子供を相手にするような射撃教室を進めていると、時間はあっという間に過ぎ去っていた。

「〜えおえおさん!!」
ふいに訓練室に入室してきた事務員が、心底困った様子でえおえおを呼んだ。
呼びかけに振り返ったきっくんとえおえおは、事務員の迷惑そうな表情にゲッと顔を引きつらせる。
「うわ!?もうこんな時間経ってる!?」
「あー、すんません、もしかして俺ら占拠しすぎました?」
「違います、あの…」
事務員は手に持っていたバインダーをえおえおに見せた。書類は エリア4の演習場の使用許可書だ。
そこに『FB777』とサインがされていて、同行者には『あろまほっと』と記入されている。
「……、」
昨夜えおえおの肩の件で 手厳しい言い合いをした二人がなぜ演習場に?、と疑問に首を傾げるえおえおに、事務員は更に困ったと眉を八の字にする。
「お二人が演習場を開放しないので、その、他の隊から苦情が出ていて……困っています…」
「えっ」
仲間同士、演習場は譲り合って使いましょう。これは軍寮の暗黙のルール。
「……何やってんだあいつ等…」
解散の危機を前にしても、どうやら我が隊のこうゆうところはいつも通りらしい。
「すぐに呼び戻します」と事務員に謝るえおえおの横で、きっくんは訳知り顔だ。

「さて。どっちが勝ったかなー?」
「何?きっくん」
「いんや?何でもないよー」


演習場では、今日だけで何戦しているか分からない試合が続いていた。
「あばす!あばすっ!ちょ、お助けぇー!」
「逃がすかよ!!」
響き渡る悲鳴と怒号を見渡し、きっくんとえおえおは息をつく。
「なんか盛り上がってんなーあいつ等」
「てゆーか何時間やってんだよ…」
「あがーす!!!」
仮置きされている障害物の向こうから、FB777が勢いよく空を吹っ飛んでくる。
その体はゴロンゴロンと転がって、えおえおの足元に落ち着いた。

「はれ?隊長!?」
「・・・・・何してんのお前」
装備していたゴーグルをガバと外して隊長を見上げるFBに、えおえおはゲシと小突くように蹴りを入れる。
「オイあろまもだぞぉー!出てこーい!」
奥に向かってそう呼びかけると、渋々といった表情のあろまがひょこっり現れる。
「あぁーもうちょっとだったのに。なんで止めに入るんだよ、勝負事に首突っ込むとかマジないわ」
「いやいや!?勝負はもう一番最初のアレで決着ついてるでしょ!?」
転がっていたFBが慌てて立ち上がりそう反論するが、あろまはケッと舌を打つ。
「ざけんな!負けっぱなしでいられるかっ!」
「あ!何なに?じゃああろまが負けたの!?」
「…っ」
コイツも知ってのことか。あろまは負けのペナルティーをうやむやにしたかったのだが、どうやら不可能のようだ。
あろまの言葉尻を捕らえたきっくんは、ウキウキと体を弾ませる。
「へぇー!やったじゃんFB!」
「でしょ!?俺マジ凄ぇー頑張ったもん!!」
「これは面白くなってきましたよぉ?ねぇあろまちゃん!」
「面白くなってきましたねぇ?あろまさん!!」
「うるせぇ」
イエーイ!とハイタッチをするきっくんとFB。そしてその真ん中で心底罰が悪げなあろま。
三人に、昨晩のピリピリとした空気は無い。
そのことにホッとしつつ、えおえおは演習場の外を示す。
「まぁ俺は何の話か知らないけど、お前らとりあえず早くここ引き渡すぞ。偉い人から怒られる前に退散しないと」
「はぁーい!もう遅いでーす!」
えおえおの忠告を遮って 背後に登場したのは、大佐だった。
パン!と聞こえの良い手拍子をして、にっこりと怖いほど穏やかに笑っている。
さながら収集のつかない生徒を取りまとめる教師のようであるが、彼の階級はそんな緩いものじゃない。
突然の大佐の登場に、メンバー達はそれぞれの反応を見せる。

「あれ!?ハムさんじゃん!」
「マジで!?えっ俺らそんなに悪いことしたの!?」
「あーもうほら、俺また怒られるー…もう掃除とかしたくないぞぉー…」
叱責を覚悟するきっくんとFB、そしてえおえおの横で、あろまは大佐の表情をじっと見やる。
「……。」
先刻この大佐に頼み込みに行った件に、何か進展があったのだろうと 察知してた。

「4人とも、僕の部屋に来てください」
大佐は笑みを崩すことなく、そう告げる。
「えっマジで叱られるの…!?」
怯え騒ぐFB達に対し、大佐は何の説明もなく付いてくるように言いつけ、演習場を出て行く。
「〜えっマジちょっと、えおえお怖い!助けて!」
「何なに、何なの、えっ隊長!俺らマジで即刻解散しろとかなの!?」
「…いや、俺も分からんけど。行くぞ……〜てか、ちょ、離せっ」
焦燥感から隊長に縋るきっくんとFBを引きずるように、えおえおも大佐に続いて歩み出す。
「おい、ちょっと、重いぞお前ら…!俺肩痛いんだから考慮してくれっ」
「〜だって、今のひげさんの笑顔マジちょっと怖かったじゃん…!」
「ホントにさ!きっくん何かやらかしたんじゃないの!?」
「は!?知らねぇーよっ何でも俺のせいにすんなよ!お前らが時間外利用とかするからっ」
「そんな事で呼び出し食らってたら俺ら何回呼び出しされなきゃなんないのよ!」
「―…お前らうるせぇ、さっさと行くぞ」
騒ぐ面々に悪ノリをせず、あろまは珍しくピシャリと言いつける。
はーい、と大人しく付いて来るきっくんとFBも、さすがに緊張の面持ちだ。
えおえおは大佐の背中をじぃと図るように見ているあろまに、そっと問う。
「…何?なんかあったの?」
えおえおからの問いかけに、あろまに微かに眉を寄せた。

「………何かあるなら、これからだ」



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