小説(MSSP) | ナノ






▼ MSSP 3



「FBさん!」
食堂で会していたMSSPの面々のテーブルに、一人の人物が声を掛けてきた。
今まさにピザを頬張ろうと大口を開けていたFBは、「はい!?」と慌てて体勢を整えてその声に振り返る。
声の主は、眼鏡をかけた若い軍人だった。

「あ!あちゅさん!どうもどうも!」
FBは駆け寄ってくるその人物を立ち上がって迎え、会釈する。
「あっすみません、食事中でしたか…?」
「いえいえ、お気になさらず!」
申し訳なさそうに眉を下げる男に、FBは人当たりの良い笑顔で首を横に振った。

「実は先日FBさんに教えてもらった改良、俺も試してみたんですよ」
「ほお!どうでした?合いました?」
「はい、重心も落ち着いたし、これから演習で慣れていこうと思ってます」
「それは良かった!」

何やら盛り上がっているFBとその人物を、MSSPの他メンバーはピザを食べながら傍観していた。
会話の内容から察するに、FBと同じ狙撃手だろう。
しかしFBとは違って、物腰の柔らかい、実に優しそうな微笑みを見せる。
「FBさんのおかげです」
「いえいえ。私なんてもう、全然、新参兵ですから!」
FB777は、MSSPメンバー以外には一人称が「私」だ。
そして案外古株のくせに「新参兵」と名乗る。
それが謙虚さ故なのか ただのネタなのかは分からない。
FBのどこか他人行儀な笑顔を見やり、えおえおはやれやれと息を吐く。

「ねぇねぇ、それ誰ー?」
ずっと大人しく二人の顔を覗き込むように見ていたきっくんが、ついに会話に割って入った。
こうゆう時のきっくんの遠慮の無さには、メンバーも時々驚かされる。
しかしえおえおとあろまも同じ疑問を抱いていたので、咎めることはしなかった。
「FBの友達か?」
「お前に友達なんていたの?」
「ちょ、ヒドイ事さらっと言わないでよあろま」
三人からの質問に、FBはようやくコホンと取り直すように咳払いを一つした。
手の平で相手を示し、メンバーに紹介する。

「こちら、あちゅさん。先日のミッションでペアを組んだ人」
そして今度は MSSPメンバーを示し、あちゅに紹介する。
「あちゅさん、こちら、クソ共です」
清々しい笑顔で告げたFBに、きっくんとあろまがすかさず声を上げた。
「おいコラ!?」
「クソはてめぇーだろ!!」
「うるせぇ!お前らなんかこんな紹介で充分だわ!」
一気に騒々しくなるテーブルに、あちゅはクスクスと笑う。
その控えめな微笑みが、軍人らしくは見えなかった。

「あー、うるさくてすみません。これが通常なんで、お気になさらず」
騒々しい面々を前に、えおえおがあちゅを見上げてそう言うと、彼は微笑んだまま頷いた。
「MSSPはこの隊の中でも一番優秀なチームだと伺ってます。有名ですよ。面白い方々ばっかりなんですね」
「いや、……優秀ってのは…どうかな。個人プレーでゴリ押ししてるだけですよ」
褒められるのはどうも苦手だ。
えおえおが苦笑いで答えると、あちゅは「そんな事ないですよ」と首を横に振った。

「先日FBさんとご一緒出来て、本当に凄いんだって思い知りました!俺なんてFBさんの後についてくのが精一杯で…!」
あちゅの絶賛に、FBは大慌てで「いやいやいやいや!」と断って両手を振るう。
「そんな事ないですって!私なんて本当に、クソみたいなもんですから!!」
「そんな事言われたら、俺なんてクソ以下になっちゃいますよ。本当に、FBさんは凄いです!」
「いや、ほんと、そんな事は…っ」
普段一緒にいるメンバーからは、そんな風にキラキラとした表情で褒められることがない。
慣れない事態に、FBはたじろいでしまっていた。

「機会があったら、是非またFBさんと組んでみたいです。勉強させてください!」
「いやいや!勉強になるのはこっちの方ですから…!」
困ったように笑っているFBと、憧れの眼差しを見せるあちゅを交互に見て、きっくんとあろまはわざとらしく首を捻る。
「えー、何この人?誰のこと言ってんのぉ?」
「人違いじゃない?俺らの知ってるFB777じゃないわ、それ」
「〜もー!お前らちょっと黙ってて!!」
FBは照れているのか、顔を真っ赤にして大声をあげる。
仲が良いのか悪いのか分からない掛け合いに、あちゅは楽しそうに笑っていた。

「じゃあ、俺、ミーティングがあるので」
ときっちりとお辞儀をして、あちゅは輪を抜けていく。
それを見送ってから、FBはようやく椅子に座り直した。
「ふぅ!」
後輩から憧れることによっぽど参っていたのか、大きく肩を撫でおろす。
そんなFBの様子が、他のメンバー達には物珍しい。

「何、懐かれてんじゃん。尊敬してるっぽかったぞ」
頬杖をついて、えおえおはFBを見る。
「いやー、そうかね?違うんじゃないかな」
苦笑いつつ ピザに手を伸ばすFBに、きっくんがビシ!と指を差す。
「FBが浮気してるー!」
「は?誰に対してだよ」
「俺らに決まってんじゃん」
ふざけた調子で言うきっくんに、FBは「やめてよ…」と本気で引いた反応を返す。
それに追い討ちをかけて、あろまはあちゅが去った方をそれとなく見て、ニヤリと悪い笑顔を見せる。
「まあ、愛にはいろんな形がありますから?余計なことは言いませんけども?」
「〜やめてってば!」
悲鳴に近い声をあげたFBは、疲れきった様子でピザを食べた。
ひと切れを二口ほどで飲み込んでしまう。
頬張る様子がまるで動物園の動物だと思いながら、えおえおは小さく笑う。
「ま、褒められてる分にはいいよ。隊の評判上がる分には構わない」
「それに比べて、きっくんときたら…」
「ちょっと!それを言うなよあろまー!」
あろまが告げ口した話題を、きっくんは慌てて口封じしようとする。
しかし聞き逃さなかったFBが、興味津々と二人を見やった。

「何なに?きっくん何かやらかしたの?」
「やらかしたよ。しかも他の隊での作戦行動で」
「やらかしたのは俺じゃないっつーの!」
ぷくーっと頬を膨らませるきっくんに、「お前に決まってる!」とあろまの怒号が刺さる。
その言い方からして、おそらくあろまにも何か被害があったのだろうと、FBは察した。

「もしやその怪我に関係あり?」
そう言って、FBがきっくんの左手首を指を差す。
きっくんは 長袖を着ていたが、袖口からチラリと包帯が巻かれているのが見えていた。
先程からの彼の動作を見るに、左肘も動きが鈍い。
左腕を全体的に負傷してるようだった。

「有り有り、大アリだよ」
FBの指摘を肯定したのはあろまだった。
はぁと溜め息を吐くあろまに、FBは問う。
「あろまも一緒だったの?」
「いや、俺はそこには居なかったけど」
きっくんはイタズラが見つかった子供のように小さくなる。
「でもコレ、そんな大怪我じゃねぇーもん」
「ざっくり撃たれてんじゃねぇーか!ショットガンだったら腕ブッ飛んでんぞバカ!」
あろまが怒ると、ムキになってきっくんまで口を尖らせる。
「だーって!後ろから急に撃ってきたんだもん!」
「どうせ俺らん時みたいに射線上に飛び出したんだろ!危ないからやめろっていつも言ってるべや!」
「違うよ!俺悪くないもん!」
「でも状況報告見たら、きっくんが隊列無視して飛び出したって書いてあったぞ」
言い合う二人の間で、ポツリとえおえおが真相を告げた。
それを聞いたあろまは「ほらやっぱり!」と叫ぶが、対してきっくんはストンと落ち着いた様子に一変する。

「あ、そうなの?じゃあ、そうだったかもしれないわ」
打って変わって平然と納得するきっくんに、あろまは呆気にとられしまう。
「すげぇーなきっくん。自分が撃たれててその感じは、むしろ尊敬するわ」
もし自分だったら、敵味方など関係なく撃ってきた相手にありとあらゆる罵声を浴びせるだろう。
でもきっくんは、そうゆう事を根に持ったり、愚痴を言ったりしない。
器が大きいと言うのか、ただ単にバカなだけなのか。
きっくんの謎の生態に、あろまは観念して笑った。

きっくんの戦闘スタイルは実に単純だ。とにかく接近して討ち滅ぼす。
しかしその動きは実に変則的で、慣れない人が彼と共闘すると どちらかが負傷してしまうケースが多い。
敵からも味方からも、少し悪い意味で恐れられているのが、KIKKUN-MK-Uという兵士だった。
『彼を上手く取り入れるのは至難の技だ』
当時、えおえおは上司にそう念を押されたが、気にせずにきっくんを自分の隊に迎え入れた。
面白い戦い方をする奴だと、内心一目置いていたのだ。
最初こそ息を合わせるのに苦労したが、今ではきっくんの思い切りの良さはMSSPに必要な戦力だ。
あろまとこうやって言い合ってはいるが、何だかんだで一番馬が合っているのはこの二人だろうと、えおえおは考えている。

「まぁでも、きっくんはそうゆう読めない動きが強みなんだけどな。やっぱあの動きに反射でついていくのは難しいよな」
えおえおの言葉にうんうんと頷いて、FBは真面目な顔できっくんを見る。
「俺らだってたまに危ない時あるんだからな?きっくんマジで気をつけてよ?」
「はいはーい」
FBの忠告にも軽い調子で手を上げるきっくんに、面々は仕方がないと笑う。
そうは言っても飛び出してくるのが、きっくんなのだ。
でも、今まできっくんが原因で負傷したメンバーは一人もいない。一人も欠けてなどいない。
それが、MSSPの自慢でもある。

「きっくんは他の隊では使えねぇーな」
ふんと鼻で笑ったあろまに、きっくんは「お?」と挑発的に笑う。
「あろまお前、そんな事言ってると お前の射線上に出てやるからな?」
「いいよ?だってそれ、撃たれるのきっくんじゃん」
「あ!そうだったー!」
華麗に揚げ足を取られ、きっくんが「うがー!」と頭を抱える。
「バーカバーカ」
あろまはそう言って勝ち誇ったように高笑う。
「お前らは小学生か!」
FBはそのやり取りに呆れ笑い、そして浮かんが疑問に首を傾げる。

「あれ?じゃあ あろまは何してたの?」
「俺はお前らと違ってちゃんと働いてたんだよクソが」
「え!?なんで唐突に罵られるの俺!?」
理不尽な返答にFBが衝撃を受けていると、きっくんが自分の左腕を指差す。
「あ、俺ね、あろまに手当てしてもらったのさ」

ここ数日で、大規模な掃討作戦があった。
えおえおの隊には出動要請はなかったが、その作戦には大量の負傷者が想定され、あろまは医療班のメンバーから助太刀を頼まれていた。
医療班は、特攻班から外れたあろまにとって急場しのぎの居場所ではあったが、自分を充分に信頼してくれた古巣だった。
こうゆう時に頼ってもらえるのは、まだ彼らが自分を仲間と思ってくれている証拠だ。
あろまからその要請を聞いたえおえおは、即答でOKを出した。
そしてその間、手持ちぶたさのないように、FBときっくんも手が足りない部隊に応援に行かせていたのだ。

「てんやわんやしてる中で「次の怪我人来た」と思ったらきっくんなんだもん。ビックリしたわ」
「俺も俺も。「やべー超痛ぇー!」って入ってったら担当があろまなんだもん。「あ、コレ俺死んだ」と思ったわ」
「ふざけんなや、俺の処置でどれだけお前の生命が保たれたと思ってんのよ」
「でも俺だってどうせ怪我したなら、もっと可愛くて優しい看護婦さんが良かったの!」
「残念でしたー、ここには男の医師しかいませーん!」
「最悪だ…!俺は何の為に撃たれたんだ…!」
「だーから、撃たれてんじゃねぇーよ!!」
「あろま先生!」
言い合うきっくんとあろまのやり取りの中に、違う声が飛んできた。
小走りにあろまの元に駆けてきたのは、まだ若い軍医だった。
「おー、どうした?」
あろまは彼のほうを振り返る。
「お聞きしたいことがあって、」
そう言われて差し出されたカルテを見て、あろまは色々と指南しながら何か書き込んでいく。
専門用語が飛び交っているその会話を、他のメンバー達は呆けた顔で見るだけだ。
何を言っているのか、さっぱり分からない。

「ありがとうございました…!!」
あろまから一通りのアドバイスを受けた若い軍医は、またも小走りに駆け戻っていく。
「忙しそうだなぁ…」
と、えおえおは思わず呟いた。
彼に受け答えをするあろまの毒気が少なかった。
きっとまだまだ医療班は言葉遊びをしている場合ではないのだろう。
あろまは、んーと大きく天井に伸びをする。
「ほんとよ。お前らは作戦が終われば終わりだろうけど、こっちはそれからが忙しいんだよ」
「へぇ、大変そうだな。頑張って」
「きっくんも患者の一人じゃねぇーか、ふざけんな自力で治せ」
「無理でーす」
きっくんとあろまの会話をふむふむと聞き流しながら、FBはえおえおの方を見た。
あろまが何をしていたのか把握出来たところで、今度は違う疑問が浮かぶ。

「てことは、隊長も別件の仕事してたってこと?」
さすがに隊長クラスの人間が他の隊に応援に行けば、噂ぐらいは耳にするはずだ。
でも、えおえおが他の隊に同行した話は聞いていない。
何かデスクワークでもあったのだろうか。
「ん?俺?」
話題の矛先が自分に向き、えおえおはゆったりと答える。
「俺はー、…寝てたな」
それは実に簡潔で、FBときっくんには思ってもみない返答だった。
「え!何それ!?えおえおズルいぞお前!」
「何一人だけ休暇を謳歌してんの!?」
「悪い悪い、お前ら居ないから俺ヒマになっちゃってさ」
非難してくる二人に笑いつつ、えおえおは「それより、」と話題を変えた。

「久々に4人集まったってことで、今日の午後はエリア4の演習場借りてあるぞ」
えおえおのその言葉で、三人は目を子供のように輝かせる。
「マジか!隊長ナイス!」
「エリア4ってことは、俺以外全員敵だな!?」
「よーし覚えてろよ、全員ぶっ殺してやるからな!」
そこはチームの連携ではなく、個人スキルを上げる為に構築されている演習場だ。
互いの力量をぶつけ合えるこの演習場での対戦練習が、MSSPは大好きだった。
「はしゃぎすぎでしょお前ら」
呆れつつも、えおえおはいつも通りのメンバー達にどこか安心していた。



白熱した演習は、夜になってようやくお開きになった。
各々のスキルデーターを見比べながら、簡単な反省会を行う。
「あー、あそこで俺ときっくん、連携しときゃ良かったな」
「だなー。そしたらFB殺れたのになぁ」
「ぇえ!?物騒な事を本人目の前にして言わないでよ!?」
「きっくんが前に飛び出して来るんだもん。きっくんを先に撃っちゃうんだよなぁ」
「そうゆう時はちゃんと慎重にFBだけを狙え!」
「隊長この二人怖いんですけど…!」
「まぁ、結局あろまときっくんが出て行かないから俺がFB殺ったんだけど」
「そうでした!」
次に繋がるとは言えない雑談めいた反省会に笑って、4人は演習場をあとにした。


「んじゃ、隊長もあろまも、おやすみなさーい」
寮棟の異なるFBときっくんとは、そこで道を別れる。
「よーし、じゃあお前ら明日もガッツリ鍛えてやるから、そのつもりで良い夢見ろよ!!」
就寝の挨拶をするFBの横で、きっくんがそう自信満々に笑う。
「きっくんに鍛えてもらうことなんか一個もねぇーよ!」
「なんだと!」
すかさず答えるあろまに何か言い返そうと、きっくんは意気揚々と構えた。
騒がしくなりそうな展開に先手を打って、「はいはい、帰るよきっくん」とFBがきっくんを連れいく。
「なんで止めるんだよFB!?」
「アンタ放っておいたらずっと騒いでるでしょうが!」
「俺は騒いでなんぼだろ!?」
「知らないよ!何そのアンデンテテー!?」
きっくんの名残惜しそうな声と それを叱咤するFBの声を聞きながら、あろまとえおえおは呆れ笑う。
「は?アイデンティティだろ、噛んでんじゃねぇーよアイツ」
「てゆーか、FBも充分騒がしいぞ」
廊下を渡っていく二人を見送り、自分達も棟への帰り道を辿り始める。

窓から見えた月が満月だ。
(あ、前もこんな月をあろまと見た気がする)とえおえおは心の中で呟く。
階段を上がる足音が二人分、吹き抜けに反響していた。
「ていうかよ、」
「ん?」
窓の方を見ながらぼうっと歩いていたえおえおは、隣のあろまの静かな声に 首を向けた。
あろまは前を向いたまま、足を止めずに続ける。

「なーにが「寝てた」だ。もっとマシな嘘考えろやバカかお前」
その言葉に、えおえおは苦笑う。
昼間の食堂でFBの質問に答えた時、あろまの据わった視線が怖かった。
今も、あろまが発する空気は少し刺があって痛い。
「でも間違っちゃいないっしょ?」
確かに間違いではない。
だが、ただ寝ていたわけではない。

「………、」
えおえおは少し考えて、そっと足を止めた。

「…あろま」
背後からの神妙な呼び声に、あろまも足を止めてえおえおを振り返った。
「何よ」
真正面に向き合ったえおえおの表情は、硬く冷たい。

「……あいつらに、言うなよ…」
声色はいつも通りどこか眠そうなのに、目はじっと深く睨んでくる。
お願いというよりは、命令に近い気がした。
「………。」
珍しく高圧的に覇気をぶつけてくるえおえおの姿勢に、あろまは反論しなかった。
どうせそう言われると思っていたのだ。
やれやれと肩の力を抜いて、諦め半分に頷いた。

「言わねぇーよ」
「本当か?」
えおえおはすぐにそう聞き直してきた。
「…あ?」
「なんかいまいち信用ならないんだよな」
と、あろまに疑心の眼差しを向けてくる。
「はぁ?」
その疑いに機嫌を損ねたあろまは、盛大に顔を苦く歪めた。
「ふざけんな、てめぇ誰のおかげでこっそり出来てると思ってんだ今すぐバラすぞ」
驚く程流暢な脅しに、えおえおは緊迫していた表情を緩めた。
「いや、冗談冗談。冗談です」
そう降参して ふふと笑う。
元の空気に戻った隊長に対し、あろまはフンと鼻を鳴らし、踵を返して歩みを再開させる。

「だいたい頼まれたって言わねぇーよ。アイツ等めんどくせーもん」
「はは、めんどくせーか。なるほど」
実にあろまらしい言い分だ。
そうだねと納得して、えおえおも踏み出す。
あろまの隣に追いつくと、チラリと少し手厳しい視線が向けられた。

「つーか、お前こそ、ちゃんとしろよ」
あろまは『何を』とまでは言わなかった。
「…うん、分かってる」
言われなくても、重々承知している。

えおえおが小さく頷くのを横目に、あろまは黙って微かに眉を寄せた。

しばらく奇妙な沈黙の中を二人で歩き、先にあろまの部屋にたどり着く。
じゃあね、とえおえおはヒラヒラと手を振って、自室のほうへ帰っていく。
「おう、じゃあな」とドアを開け、けれどあろまはふと足を止めて中に入らなかった。
「………、」
一人、廊下の奥へと消えていくえおえおの後ろ姿を見る。
月明かりだけで陰げる道を進んでいくその姿が、無性に頼りなく見えた。

そのまま暗闇に吸い込まれて、ここから消えてしまってもおかしくないぐらいに。


(…信用ならねぇーのはお前のほうだっつーの)

そんな小さな危惧は誰にも聞こえず、あろまほっとの心の中だけにそっと積もった。





[ BACK ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -