小説(MSSP) | ナノ






▼ yy企画

Pixivでの企画へ参加させて頂きました。 



動画を投稿するたびに一日や二日で1万再生を達するようになったのは、一体いつの頃からだろうか。

過去には「どうやったら一万再生できるのか」なんて議題でくだらなく笑いあった時もあったというのに、今やそんな風に話し合う時間も無いほどに、自分達は多忙である。
それはまるで、4人で宇宙を突き進んでいるような感覚だ。
ぽんっと背中を誰かに軽く押されたと思ったら、いつの間にかブレーキの無いロケットに乗せられていた。

ニコニコ動画を宇宙に例えるならば、数十万人のリスナー達はそこかしこに散らばる星々に例えよう。
大きく連なる銀河もあれば、一月もせずに消えていってしまう流星もあるだろう。
4人のアストロノーツは自分達では制御できないほどのスピードで、その宇宙を猛進し始めた。
他の追随を許さないその速度に反感を買うこともあれば、他のどの星にもない輝かしさで賞賛を浴びることもある。
一度火のついたエンジンは決して絶やさず、引き返さず、立ち止まらず、出来る限りの明るい場所を目指して進む。
行き先はきっとどこまでだって続いていて、乗組員はどこまでもこの4人だ。

……なんて回りくどい言い方で自分達の事を悠々と語ったら、きっと我が混沌のメンバー達は口を揃えて、「FBお前何言ってんの」と呆れた笑い調子で言うのだろう。

現に今も、スカイプで続けられるきっくんとの曲作りの相談は、ギャグと真面目で押し問答の繰り返しである。

―――…

「神回」というタグが初めてついた日、MSSPを誇らしく思った。
どうだ俺達は面白いだろうと、してやったりな笑みを隠し切れなかった。
そうして動画の再生数に比例して徐々に作った曲も認知されていき、曲に対する評価も多く見られるようになった。
それがプレッシャーにならないといったら嘘になるだろう。

FBの曲にギターをつける時、手を抜いたことなんて一度も無い。
あくまでも作曲者はFB777だ。
だから送られたサンプルを聞き込んで、今回はどんな世界観を音にしようとしているのか理解するのが大切だ。
しかしFB777という男は極めてボキャブラリーが貧困で、「なんとかして」というお得意のざっくりとした指示しか頂けない。
毎度のことながら、この作曲家の宇宙構想に寄り添うのは一筋縄ではいかない。
それでも出来上がったものを聞くと(なるほどな)と納得せざるを得ないのだから、まったく困ったものである。
今回も、新曲製作は混迷を極めている。
そろそろもう一人の支援役が、スカイプにログインする頃だ。
彼もきっとどうして自分が呼ばれたのかを察して、自分と同じようにやれやれと呆れ笑って、FBを許すのだろうと思う。

―--…

「いやだからね、なんつーのかなぁ…なんかもっとこう、キャトルミューティレーションされる感じのー」
「は!?何それ、全然どんな感じか伝わってこないんですけど…!?」
「入っていきなり何の話?」
えおえおがスカイプに呼ばれてログインすると、ちょうどFBときっくんが新曲について構想を練っているところだった。
どうやら大筋のメロディーは既に組み立ててあり、あとはバランス調整ときっくんのギターを入れる段階のようだ。
となると、自分が呼ばれた理由はひとつしか思い当たらない。

「ちょっとさ、歌詞書いてくんない?」
ほらこれだ。
ついでにこのあとFBが何と言うのかも、えおえおには当てる自信がある。

「明日の朝までに」
「〜もーお前はまたそれだぁ…」
的中してしまった予感に、えおえおはパソコンの前で項垂れる。
「なんでもっと早く言わないの」
「な!だよな、俺も今それ言ってたの!」
きっくんがえおえおに同調して、笑いながらもツッコミを入れる。
「お前は締め切りの設定がおかしいんだって…!」
「だーって!思ったより時間掛かっちゃったんだもん」
おそらく今モニターの向こうにいるFBは、むぅと頬を膨らませているだろう。
誰も見ていないのに、きちんとリアクションを形にする彼はある意味律儀である。

「もうお前は本当に…。まぁなんとかするけどさぁ」
きっくんは溜息交じりにそう承諾してみせた。でも、その声色で本気で怒ったりはしていないと分かる。
FBの曲の構想を最後までしっかり汲み取ろうと、音楽的な質問を投げかける。

前にきっくんが何かの拍子で「FBの才能を認めている」と言っているのを聞いたことがある。
自分には音楽の知識なんてほとんどないし、曲を聴いて思うのは「好き」か「苦手」かだけで、専門的な感想や議論を交わすことは出来ない。
それでも、FBの曲は単純に「好き」だと思えるものが多く、こうして曲作りに参加することも新鮮だ。

自分は音楽のことは何も知らない素人だ。
「神曲」というタグの意味合いもその基準もよく分からない。凄いことなんだろうなとは思うけれど、どこか遠い世界の話だ。
でも、ただ、何も分からなくても、友人が精魂込めて作ってるものを支えてやりたいと思うのはきっと至極当然のことだろう。
こんなことを改めて口に出すこともないし、本人達に言うつもりもないのだけれど。

「てか、あろまは?」
「やってるよとはチャットしてあるけど、多分来ないでしょあの人」
「来ないなぁー」
「だって「興味ない」って言ったらもうそこで終わりだもん」
「そうだな。まぁ来たら来たでビックリするけどな」
「何か悪いものでも食ったのかと思うわ」
「もしくは天変地異の前触れとかな!やっべー明日槍降ってくるぜー!みたいなさ」
「槍降らせるのがあろまなんでしょ、雲に乗ってさ」
「オラオラオラァー!って?」
「うわ怖っ!刺さるわ絶対、俺に!」
「うん、お前には絶対刺さるように投げてくるよ奴は」
けらけらと笑う二人の会話に、えおえおもふはと笑いを零す。
ひどい言われようだが、想像に容易いことが彼の役どころだ。
……まぁおそらくこのスカイプに参加しないその残る一人も、自分と同じことを思っているのではないかとえおえおは思っている。

―--…

「神曲」なんて、そんなもの結局は信者の盲信だ。
物事の良し悪しなんて人それぞれで、100パーセントの賞賛を得るなんて無理に決まっている。
そんな事が出来るとしたら、それはただの宗教と変わらない。
だから自分はどれだけ多くの賞賛を受けても、どれほど手酷い批判を受けても、斜に構えて一笑に付す。
そんなひねくれた己のスタイルを、「まぁアンタはそうでしょうね」と笑って諦めるメンバー達は、稀に見ぬ馬鹿の集まりだと思う。

昨日はFBが新曲を投稿した日だ。
朝、あろまほっとは目を覚まして真っ先にツイッターを開く。
「興味ない」なんて言ってはみたものの、やはり評価が気になるのはネット民の性である。
タイムラインは曲を聞いたファンの反応で溢れ返っていた。
前向きな評価が多く見受けられて、中には『MSSP』という集まりの人間性にまで掘り下げるような感想を述べている者もいた。
(たった4分か5分の音で、そんなに人の中身が分かるもんなのかね?)と、どこか他人事のように思う。
音楽や動画から英雄が生まれるなんて、そんな絵空事がこんなちっぽけなツールの中で起こるわけがない。

作った側を否定する気持ちは微塵もない。
どうせまた寝る時間が無かっただの指示が適当すぎるだのと騒ぎながら、ひとつの音を作るのに尽力したのだろう。
……文句を言うくせにやってのけるのだから、…ほら、やっぱり馬鹿の集まりだ。
心に燻るのは、受け取った側への疑心。
好き勝手言ってくれて構わない。好きも嫌いもどうぞご自由に、だ。
……けれど本当に伝えたい言葉は、そうして賞賛しているリスナーにはきちんと届いているのだろうか?
受け取っているのだろうか?

ミーハーな賞賛の綴りを流し読みながら、自分がどんどん引いた気持ちになっていくのを自覚する。
誰のせいでもないもやもやとした気持ちの中で、けれどひとつのツイートに、ふと目が惹かれた。


[俺もMSSPみたいに、音楽で有名になりたい]


それは、音楽から「夢」を受け取ったリスナーの言葉だった。


「……へぇ…」
正直、驚いた。
FBが曲を作り、きっくんがギターを弾き、えおえおが作詞をした曲。
それが自分たちなんかよりも10個以上年下の誰かに夢を与え、羨望を与えていた。
かつてFBやきっくんがそうなりたいと夢を描いた時のように…誰かに目指される存在になっている。
「……いやでも俺らみたいになっちゃダメだと思うけどな」
ふと笑ってしまう。でも、その笑みからはもやもやとした疑いは晴れていた。

これは所詮、ネットの中の動画サイトで繰り返されているループ。
宇宙の中ではなんともちっぽけな、神すら与り知らぬ森羅万象だ。

「…あ。」
思い立って、自分のタイムラインをキャプチャーして撮影した。
ツイッターを閉じて、スカイプにログインする。
〔興味なくてもいいけどさ!曲上げたら、せめて感想ぐらいくれ!!〕
FBから来ているチャットは何時間も前のもので、きっとこの曲を作っている最中のメッセージだろう。

「うるせぇーよ」
ふはと笑いながら、そこにあろまは何の返事も打ち込まず、今しがた撮影した自分のタイムラインの画像を貼り付ける。
画像の中に並んでいるのは、MSSPから「夢」を受け取ったと綴るツイート達だ。
自分からの感想なんかより、作った連中にはこっちのほうが効き目があるに決まっている。
一つ一つのコメントはちっぽけな星にしかならないけれど、その小さな星が集まって、きっとまた次の曲へと繋がるのだ。
そうやって何度も何度も、この作り手と受け取り手のループは続く。
神なんてちっとも目指しちゃいない4人組と、それを盛り立てる星々を散りばめた、混沌の宇宙が出来上がる。

4人で進んだ末に得られたものの価値は、充分すぎるぐらいじゃないか。

今日も誰かの音楽で、誰かの言葉で、誰かの夢が救われる。
この動画サイトの中に「夢への軌跡」があるのかもしれないと思うと、自分達のやっている事も悪くはないのかもしれない。

「……起きるかー」
あろまはベッドの上で一つ大きく伸びをして、「よし」と少し大げさに天井を仰ぐ。
(悪くないかもしれない)だなんて少しでも思った自分を、自分でも頭がおかしいんじゃないかと呆れて笑ってしまう。
それでも、こうして気合を入れて、お布団さんから抜け出して立ち上がるのだ。
だって今日も明日も明後日も、もしかしたら四十路になっても、MSSPのあろまほっととして、般若顔を装備せねばならないのだから。



■企画参加させて頂き、有難うございました!!


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