小説(MSSP) | ナノ






▼ MSSP(Let's go to a hospital!! )



「あれ。何?どこ行くの?」
FBが助手席からそう尋ねても、運転手のあろまは完全に聞こえてない振りをした。
「ええ!ちょっと、この距離で聞こえないとかないでしょ!?」
「うるせーな、黙って乗ってろハゲ」
「出たよ出たよ、あろまさんの暴言が」

四人で初めての小旅行。
本当はもっと遠くに行きたかったのだけれど、社会人の男4人がこうして3泊4日の予定を合わせることが出来ただけでも奇跡だろう。
4人揃って美味しいものをいっぱい食べて、気持ち癒される温泉に入って。
宿泊先からの車内ニコ生放送は回線が不安定でラグがあったようだが、自分達はそれなりに楽しんで遊ぶことが出来た。
ここ最近は仕事以外の時間をすべてCD制作にあてていて、本当にヒキコモリと言わざるを得ない生活をしていただけに、開放的に楽しめた。
こちらの多忙さや負傷している肋骨なんて気にもせず、いつものように騒いで笑ってくれるメンバー達が、うるさくも心地良い。
やっぱり、この4人で旅行に行けて良かった。

あろまが借りたレンタカーの返却期限は今日の夕刻だ。
現在午後2時。車はすでに都内に到着している。
すべての予定を終えて、あとは帰路を残すのみ。
それなのに一体このフリーダムな運転手はどこに寄るつもりなのか。
後部座席を振り返ってみたが、えおえおときっくんはこの進路変更に特に気にした様子もなく、握った両手を突きつけ合って「いっせっそ」に夢中である。

「……あれ?」
あまり都内でも遠出をしない自分には正確な地理は分からないが、それでも車窓の景色が自宅付近であることだけは分かった。
「何?まだ車返しに行かねぇーの?」
もう一度運転手に意図を尋ねると、今度は返答があった。
「先に寄るとこあんだよ」
「どこ?」
「…。」
「え。ちょっと、何。怖いんだけど」
肝心な部分を答えないあろまの無表情を見て、FBは悪い予感に苦笑う。
後部座席ではきっくんとえおえおが何やら騒がしい。
「あれ。えおえおー、ティッシュどこ行ったー?」
「え?知らん。前じゃないの?」
「えー?俺さっき使ったからこの辺にあると思うんだけどー」
「ちょっと!荷物ガサゴソすんな!重い重い!ちょっと、きっくん、荷物俺に乗ってる…!俺の背中に誰かの荷物乗ってる!」
「ティッシュどこー?ねぇティッシュはー?」
「なんだ重いなこのバッグ!誰だよコレ…!!」
「もー!お前ら最後までうるさいな後ろで!ティッシュなら此処だよ此処!」
振り返って二人に目当てのティッシュ箱を投げつける。
「ほらきっくん、やっぱり前にあったじゃん」
「あ。さんきゅーえふびー!」
はいはいと頷きながら、今の会話であろまの目的に思い当たった。
手荷物は少ない男ばかりとは言え、さすがに4人分の3泊4日の荷物は大量だ。個々に購入したお土産だってある。

ふと、出発時に交わした会話を思い出す。

「もー。荷物重いわー。肋骨痛いわー」
「えおえおがこっち来る時に車借りてくれば良かったんじゃね?」
「えー。やだよ、事故ったら怖いじゃん」
「この距離で事故るとかクズだろ」
「ペーパーなめんなよ!」
「なんで威張るんだよ!」
「えおえおが運転出来たらもっとラク出来たのに!」
「免許持ってねぇー奴が言うんじゃねぇーよ」

駅から自宅まで荷物を運ぶことの煩わしさは、あの時散々思い知っていた。
脳内を過ぎった回想シーンに、「あぁ」と納得したFBはあろまに頷く。
「あ、なるほど。先にウチに荷物降ろしに行くのね」
「……。」
お前頭良いな、と喋り続けるFBを、あろまはチラと横目に見た。
車窓を眺めるFBの手は、脇腹の辺りを軽く庇うように摩っていた。
その手つきを見たあろまが微かに顔をしかめて舌打ったことに、FBは気がつかない。


そうしてあろまの運転する車は、しかしFBの予想に反した場所で停車した。
「……え?え、何なに?」
その駐車場に入った段階で、FBはかなり狼狽していた。
「お。あろま着いたー?」
「着いた着いた」
「此処か。いいじゃん、近い近い」
後部座席の二人がそれぞれに後ろから前の席に腕を乗せ、身を乗り出す。
あろまは駐車を終え、ふぅと一息ついてシートベルトを外した。
そしてFBを見て、クイっと顎で目の前の建物を示す。
「おら。降りろハゲ」
「え!?」
その指令に驚いて見やると、あろまだけでなく、えおえおときっくんも「降りろ降りろー」と促してきた。
当然のように告げてくる三人に、FBは戸惑う。
「え!?え、何、どうゆうこと!?ここドコ!?」
「何ってお前、前に建物見えてんじゃねぇーか」
きっくんはFBの驚いた表情を見て、ケラケラと笑った。
そうして、ビシ!と目の前の建物を指差す。

「病院に決まってんだろ!」

そう、入口には確かに外科内科を扱う病院であることが記されている。

「え…?え、マジ?」
困惑とするFBに、えおえおは「早く降りろ」と肩を押して促し、あろまはもう興味がないような素振りで伸びをする。

「ここならお前の家からでも通えんだろ。ほら、降りろって」
「とりあえず肋骨ヒビ入ってるかもって電話してあっから。さっさと行け」
三人からの一斉催促に、けれどFBは「いやいやいやいや!」と手と首を横に振って抗った。

こんな所に黙って連れてこられた理由は、考えなくとも検討がつく。

「いやいや!大丈夫だって!別にそんな、病院行ってすぐ治るわけでもないんだし!」
「でもお前マジ何回も「肋骨痛ぇー」ってぼそぼそ言ってたじゃん!あれマジ地味に気になってウザイの!だからもういいから病院行けって話!」
きっくんの発言に同意して、えおえおもFBに言い聞かせる。
「そうそう、夜とかなんか一人でんーんーとか唸ってるし、マジあれね、凄い迷惑。病院行ってくれって思うわ」
「しょうがないでしょ、地味に痛いんだって!」
「だから、痛いなら痛み止めとか貰ってこいよ」
「いやでも、薬とかそんな効かないじゃん?」
「もー!お前なぁ!」
思わず、きっくんは座席の頭をぽんぽん叩いてFBを説得にかかる。

「心配してんのは俺らじゃなくて、ファンの人達なの!「早くFBさん病院に連れてってあげてー」とか「FBさんも心配でー」とか、めっちゃリプとか来てんの!生放送のコメントも見ただろ!皆お前のこと心配してんだよ!」
「〜いや、いや…!うん、それは分かってるけどさぁ!」

『FBはよ病院行け』
『FB肋骨大丈夫か』 
『FB病院行ってないのかよ』

放送にラグがあっても流れた彼を想うコメントの数々は、FBにも届いている。
心苦しい所を突かれ、FBはたじたじになる。
でも、それでも言葉は無理をしてしまう。

「〜いやでも本当に、大丈夫だから!痛いけど別に我慢できないほどじゃないから!今病院にかかったら時間取られるし、多分2週間もすれば骨もくっついて、」
「うぜぇーな!!」
FBの言い訳をぶった切ったのは、あろまだった。

「〜いいから早く降りろや!電話してあるっつってんだろ、降りねぇーならその肋骨叩き潰して殺すぞハゲ!!」

平気だと言い張るFBにしびれを切らしたあろまの発言は、清々しいほどに乱暴だった。

「おいコイツ降ろせ!何としてでも此処で蹴り下ろせ!!」
あろまの怒号を皮切りに、きっくんは「よし!」と助手席に向かって上半身を乗り出してきた。
「ちょ!何、きっくん!?何、何してんのアンタ!」
「シートベルト外しやがれー!このっ!このー!!」
「止めなさいよ!子供か…!ちょーっときっくん!?」
なんとも楽しそうに襲いかかってくる30歳児を退かそうと、FBは必死で両腕で振り払う。
「〜えおえお手伝って!シートベルト外して!」
FBの両腕に掴みかかったきっくんは、隣のえおえおに「早くしろ!」と連携を求める。
「はいよー」
えおえおは反対側から身を乗り出すと、ガチャとFBのシートベルトを解除した。
「よし、よくやったえおえお!」
特に苦労もなく作業を終えたえおえおに、きっくんが親指を突き立てて笑う。
対してFBは 大げさにショックを受けたと息を飲んで、えおえおを見やった。
「えおえおが俺を裏切った…!裏切りのえおえおだ…!」
「いや俺、別に最初からお前の味方じゃねぇーし」
サラリと告げたえおえおは、FBに一つ溜め息をつく。

「いいから早く行け。本当にあろまに肋骨蹴られても知らないぞ?」
「〜えー…だってさぁー…」
諭すえおえおの言葉に、FBは駄々を捏ねる子供のように口を尖らす。
FBの何かに遠慮した様子を見たあろまは、いよいよ最終手段に出ることにした。
「………。」
多少乱暴ではあるが、こうして脅しでもしないと、この男はいつまで経っても「平気だから」とバカみたいに言い張るのだ。
すぅっと片足を上げて、その靴底をFBに向けた。
「3秒待ってやる」
「ええ!?」
あろまの攻撃態勢に目を剥いたFBは、ついに観念し、ぎゃー!と叫んだ。

「3、2、」
「〜ちょおおっと!分かった分かった分かった…!!行く!行ってきます…!!」

その悲鳴に近い承諾を、きっくんは待ってましたと言わんばかりに大笑う。
「はーい!じゃあFB君はここで検診に行かれると言うことで!」
「〜もー!何コレ!ただの脅しじゃねぇーか…!」
嘆くFBは、しかししょぼんと肩を落とす。
「〜でも俺本当に苦手なんだよなぁ…病院とかさぁ…」
「お前まだ言うか」
いじいじと渋るFBに、えおえおは苦笑う。
こうゆう踏ん切りを付けられないところは、10代の頃から変わらない。
「…ったく、面倒くせぇーなぁ…」
仕方がない。
ドアを開け、外に降りたえおえおは助手席のドアを開けた。
「ほれ。降りろ」
病院の入口を軽く指差す。
「すぐそこだろ。行くぞ」
「え、ちょっ、」
突然開かれたドアに狼狽えるFBの行動を待たずして、えおえおは一人で先に病院へと向かって歩き出す。

「〜ちょっとぉ!?えおえお!?」
その背中を呼び止めても、えおえおは振り向かなかった。
「お前が行ってどうすんの!?」
怪我人はえおえおではない。自分なのだ。
きっとえおえおは受付に「電話してた者なんスけど」などと告げてしまうのだろう。
「〜もー!なんで勝手に行っちゃうの!?」
こうなっては、行くしかない。

FBは覚悟して 車から降りる。
振り返ると、車内に残るきっくんとあろまは 悪戯めいた笑みで笑っていた。
「いってらっしゃーい」
「さっさと行けバーカ」
暢気に手を振ってくる二人に、FBは観念して盛大に息をつく。
「もう本当に、お前ら揃いも揃って勝手な奴ばっかりだな…!」
そう言い残して、バム!と思い切りドアを締めた。

「勝手に我慢してんのはお前だろ!」
「本当よ!死ねハゲ!」
締まる直前に聞こえた二人の反論が、グーの音も出ないほど正論なのが悔しい。

「〜ちょっと、えおえお待ってってば」
「おい走んな、響くぞ」
入口前で待っていたえおえおは、走ろうとしたFBを呆れ顔で咎める。
「平気平気、これでも一応旅行乗り切ったから」
「乗り切れてねぇーよ全然」
「あー、うん、ごめんな。なんか…遠回りさせたわ」
3人も引き連れて病院に来るなんて、思ってもみなかった。
思わず神妙に謝罪の言葉を口にしてしまう。
あんな散々な言動で扱われたが、心配してくれていた事は分かっているのだ。

「あ、じゃ、俺行ってくるわ。俺の名前で電話してあるんだよね?」
「おう。じゃ俺ら車で待ってっからな」
「はーい」
ぎこちなく受付に声を掛けに行くFBの姿を入口から見送りながら、えおえおはやれやれと苦笑う。

「……別に、謝って欲しくて連れてきたわけじゃねぇーっての…」
そうゆう変なところで気を遣ってしまうところも、昔から変わらない。
えおえおが一人で車に戻ってくると、あろまときっくんも同じように「手を焼いた」と笑っていた。

「あのハゲ、ちゃんと行った?」
「行った行った」
「まったく。手のかかる奴だぜ!」
「マジね。いい歳して何遠慮してんだかな」
「まぁーしょうがないんじゃない?」

俺達は、それがFB777だと知っているのだから。




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