小説(原作・パロ) | ナノ


▼ 失態

■微糖中鴇。自分の行動に戸惑う美柴さん と そんな美柴さんが面白い中条さん



トントン。
美柴鴇は 履いたばかりの靴先で軽く地面をノックしてから、そのドアノブに手をかけた。
ガチャリ。
安い賃貸アパートに相応しい金属音で開けたドア。と同時に入り込んでくる風。
背後では「…寒ィな」などと小言を漏らしてる 家主。
玄関に座り、ブーツの紐を手繰り 履き始める中条伸人。

「………………。」
「……寒いっつってんだろ 閉めろよ」
「閉めたら 玄関狭い」
「んじゃあ、お前、先出てろ」
「………………。」
「……おい なんで 更に開けんだよ。いやがらせか」
「別に。」
「…………………。」

中条には据わった目で見上げられたが 無視をして ふい と外へ視線を変えた。
中条は「…お前は子供か」と渋々 寒い風を甘受して、またブーツの紐を手繰り寄せる。

(嫌がらせ…というか……)

事あるごとに 昨晩自分が犯した失態を思い出してしまって気に入らないのだ。だから、これは単なる八つ当たりだ。

………眠っている時、自分はあまり良い夢を見るタイプではない。
過去を何度もリープしたり、見たくないものばかり見る。
そんな嫌な夢から 一気に目が覚めた後、心臓が重くなって 喉の奥が苦しくなる。
自分の、怯えるような乱れた呼吸が響く。
暗い部屋に不安が押し寄せてきて、何でもいいから強く握りしめ 自分の中のバランスを保とうとした。

それが ちょうど昨晩は中条伸人の手だった。

「…………………。」
意外にも その手は自分を振り払ったりはしなかった。
微かに顔を覗いて「…どうした」と小さく問われた。
奇妙な震えで何も答えられない自分を見下ろして、二人の間で妙な沈黙があった。

自分は、一体どんな顔で中条を見上げていたのだろう…。
中条は少しカサカサとした手の平で 前髪を退かすと、額に一度だけキスをした。

…たったそれだけで、震えは引いていった。
ゆっくりと落ち着いた気持ちで見上げると、中条は少し笑って こちらを抱き寄せた。愛撫は、無かった。


「……………。」
そんな妙に穏やかな抱擁を、今日は事あるごとに思い出す。
今だってそうだ。ただ空を見上げただけなのに。

振り返れば、中条はまだ靴紐を結んでいる。
そぅと近寄ってみた。被さる影で自分だと気がつき、中条は顔を上げる。

「?なんだよ」
「……………。」

これは、中条が屈んでいる時しか思いつかない行動だと思う。
昨日と同じことを、今度は自分から……。
意図を察した相手は逃げずに、ただじっとこちらを見上げている。
少しだけその前髪を退かして 唇を寄せた。

静かに離れて ふと目が合う。

「……………。」
「………なんだよ」
「……別に。」
そうとだけ言って、またドアを開ける。
今度は中条を待たずに 外に出た。
「おい」と名前を呼ばれたが、振り返らずにドアを閉めて 会話は遮断した。

『……落ち着いたか…?』

あの抱擁で 中条の暖かい体温にまどろんだ頃、そう囁かれた。
眠さもあって うっかり、コクンと頷いてしまったような気がする。

「……………。」
しかし自分からだと全くもって落ち着かない。逆に妙に居心地が悪い。
「……………。」
怒っているのか 戸惑っているのか、はっきりしない自分自身に眉を寄せた。なんて説明すればいいのか分からない。いやに身体がそわそわする。

「…………ったく…」
そうして遮断されたドアの向こう。
ブーツを履いた中条は 立ち上がり、「何照れてんだか。」と呟いて ドアを開ける。
向こうにいた美柴は 出てきた中条に気がついても振り返らず、足早に先を歩き始める。

その ぎこちなく固まった美柴の背中に、中条は込み上げる笑いを隠さなかった。




■本当は、きっと無表情なんかじゃない。



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