小説(原作・パロ) | ナノ


▼ 傷と痣

■暗く重く。意味深な中条さんと 意味深さが腹立たしい美柴さん。



右の手首に 何かで斬りつけたような痕がある。
この痕について 詳しく話すつもりはない。

なぜならこの痕は 生まれつきこの手首に付いてきた痣にすぎないからだ。

だから別に隠すような素振りはしないし、見えていようがいまいが 気の留めることはない。
……ただ、たまにこの痣に気がついた人が 同情したような眼差しを見せる事がある。

あれは今でもあまり、良い気分はしない。

【傷と痣】

「なんだその痕。自殺でもしようとしたのか?」
あまりにも平然と問われて 呆気に取られてしまった。
こんな無神経な質問をする人間には出逢った事がない。

「………………」
見れば シャツの袖が折れて 痣が露わになっていた。
まるで この線に沿って斬れ と言わんばかりだ。
不機嫌な溜息を溢して、忌々しく手首を見る。

「…違う、これはただの痣だ。生まれた時からあった。」
感情が きっと声質になって表れていたのだろう。中条はくくと薄く笑った。煙草の煙を 天井へと吹かす。

「気に入らねぇーのか、それ」
「…………別に…」
言いながら、消えるはずが無いのに ゴシゴシと切り取り線を擦ってみた。

「いいじゃねーか。その線切れば、いつでもドロップアウト出来るって事だぜ?」
消そうとする仕草を見て、中条は薄く笑う。
その言葉の意味に内心 戸惑いを感じ、思わず顔を上げた。
中条は自分の発言を全く気にせず、軽く袖を引いて 自分の手首を眺めていた。

「俺には ねぇーなぁ。ドロップアウト不可能か」
……なんとなく 自虐的に笑っているような気がする。
冗談で言っているにしては 重い"何か"を感じた。

「これはただの痣だ。それ以外、なんでもない。」
その重い"何か"に反抗するように、中条を見据えた。

今までの この痣を同情した視線に、いつもそう言いたかった。
自殺しようとした人間だと暗にレッテルを貼るあの視線が、嫌だった。

そんな選択、自分は絶対にしない。

じっと視線が交差する。
ほんの少し 硬い空気が流れて、しかし中条が取り成すようにふと軽く笑った。

「確かに。考えてみりゃ、お前は途中でリタイヤするような人間じゃねぇーな」
ぐしゃぐしゃと前髪を掻き乱されて、視界が塞がれる。
ペイと手を振り払って顔を上げると 先程の神妙な空気は消えていた。

何と応えるのか試されたのか…。
それとも、中条の抱える"何か"が垣間見えたのか…。
灰を落とす相手の横顔を見ても、このやり取りの心意はまったく分からなかった。
心の奥の方に、もやもやと晴れないしこりが出来る。
もとから他人の心理を読むのは苦手だから、下手に考えるのは止めた。

「アンタだってそうだろ」
話題を流すようにそう言ったら、中条は どうだろうな、と笑った。

「めんどくさくなったら、適当に辞めるかもな」

その発言が、スイッチになった。

「そんな理由で棄権するのは、絶対に認めない」
軽口で笑いながらそんな事を言うのが、気に入らなかった。
驚いた中条が はてと目を丸くして振り返った。強くきつく見返す。
こちらが本気で言っていると気がつくと 呆れたと笑った。

「冗談だよ。本気にすんなバカ」
それは誤魔化すような笑い方だった。
気に入らなくて 何も応えず、視線を外した。

「………………。」
正体の掴めないしこりが心に留まって、発散できない苛立ちが残ってしまった。
中条が 何か考えるような間を空けて、見つめてくる。

「…お前、こうゆう話題には過敏だな」
「…………別に…」
こちらの機嫌が悪くなった事を悟って、そっと身体を寄せてくる。
被さった影に顔を上げると、額にキスをされる。
機嫌を損ねると大抵 中条はこうして宥めようとする。
おそらく次は そのくちづけは鼻頭に降ってくる。そうして唇に触れて、全部流してしまおうとするんだ。

「……………いつもそれで済むと思うな」
意地になって 顔を背けてそう言った。
痣の事で怒ってるわけじゃない。ただ……

「なんだ 今日はずいぶんご立腹だな?」
「…………アンタのせいだ」

どうゆう意味で "自分はドロップアウト出来ない"と笑ったのか、分からないのが 悔しかった。



■たまには、真意を知りたい



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