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▼ バラ色の夢

■何の脈略も無く双子が殺し合う話。07.12/3


ステングレーのブーツが黴臭い廊下を歩む。

目指すのは 彼の部屋。
愛すべき片割れの 狂気の部屋。

いつからか、戻らなくなった二人の形。

白く神経質な指先でベルを鳴らす。
何の反応も無いノブに手を掛ければ、ガチャリとそのドアはトキを導く。

不気味なほど静かで だけど感じるシギの気配。
ベッドの上、縛り付けられている自分が見えて 一瞬その幻覚に思考が停止する。
違う 違う 自分は今此処に立っている。

見直せば そこにもう自分は見えない。
見えたのは 赤い液体。見知らぬ男。
ザックリと首元から血を吹き出す 男。
手にはナイフ。

自害のようで、それはきっと自害ではない。
あの 片割れの逃れられない狂気に触れた人間の末路。
恐らくは 自分も辿っていたはずの…。

ガチャリ。重い金属音。
何かを予測して振り返れば シギが笑っている。
その手に銃。銃口はこの胸を狙う。


シギが、笑いながら、泣いている。


ふいに自覚する右手の重量感。
そう、この手にも銃。
ゆっくりと引き上げて 狙うのは片割れの眉間。

「トキ」
「シギ」

突きつけ合う銃口。
互いの脳裏を過る 同じ過去。
たくさん泣いた。
たくさん笑った。
たくさん傷つけあい そしてそれと同じぐらい愛し合った。

最初から歪だった。それでも良かった。
その愛の形を、二人大事に抱えて生きてきた。


弾ける銃弾。
吹き飛ぶ血液。
へばりつく皮膚。

倒れた半身に 半身が歩み寄る。
事切れる寸前の視線。
命乞いは無く ただ 血を吹き出して見上げる。
ぼんやりと霞む視界。半身がもう一度自分に銃口を向ける姿が見える。

弾が尽きるまで、その身体に銃弾を。
撃ち込むたびに痙攣する半身の身体。
見下ろす顔に表情は無い。感情はもう擦り切れている。

ガウン。ガウン。ガウン。

同じ顔をした身体が 血を飛ばし死に絶えていく。
あぁまるで自害しているようだと頭の片隅で思う。

役目を果たした銃を 手から滑り落とす。
部屋をあとにする。
黴臭い廊下を歩んでいく。

黒いブーツが、エレベーターを降りた。


■刹那、迷ったのはトキの方。


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