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▼ 例えばの話

想像してみてほしい。


この世界にアンタと全く同じ顔をした人間が存在し そいつがアンタに柔く温かい肌をすり寄せてくることを。

そう アンタがもし俺達みたいな双子だったらって話だ。


双子には その二人を繋ぐホットラインがあるものだと 世間ではよく言われてる。だけど 俺達みたいな双子のホットラインは そんな可愛いものでも神秘的なものでもない。
もっと生臭くてねっとりと絡み付く異質なものだ


アンタはこの地球に生まれ落ちる時の悲しみと苦しみを そいつと共に迎える。
両親からの愛情を 平等に注がれて育ち 同じ教育を受け その先の生活も そいつと過ごす。
成長すれば顔も同じで才能も同程度。兄は無愛想で 弟は人懐っこい。互いに隣にいることは当たり前で 何だって二人で一つになっていく。

ほとんどの双子は成長するにつれてホットラインが薄れ 自立した個々の生活リズムを築いていき あの頃一緒に遊んだり昼寝したりしたことなんか忘れてしまうものだろう。
でも そいつはそうゆう事実を決して忘れない。常にアンタの為にと行動し アンタにくっついて歩く。
学校に行くのも 習い事をするにも 休日部屋でのんびり音楽を聞いてる時 真夜中のベッドにだって。

ここまできたらアンタだって うっとおしいと思うだろうな。


でも俺達は…俺は…その深い海に溺れてしまったんだ。


同じ顔をした双子の弟は 濡れた瞳で見上げて こう言う。

「愛してるよ 鴇」

何度も 何度も そう言う。
そのうち気がおかしくなるだろう。
でもその時 アンタもそいつと同じ言葉を呟いているんだ。
同じ顔をした二人が同じ言葉を囁き合う。
互いの存在を確認するように強く抱き締め合う度に
呼吸すら許さない深いキスをする度に
愛撫すればいくらだって溢れてくる体液を奪い合う度に
そいつが持っている純粋な黒い愛情が いつも傍にいるアンタにまで溢れてきて 互いを蝕んでいく。
アンタはそいつの歪んだ想いを注ぎ込まれ しびれるような熱い熱に揺らぐ。
そうやって 心の奥底まで染められてしまうんだ


でもある時 突然に独りでこのカビ臭い世界に放り込まれてしまう。

その時 アンタならどう思う?

解放されたと安心してのびのび暮らしていく?
孤独に耐え切れず 別の誰かの熱い体液を飲み干す?

答えはこうだ。
別の誰かの熱じゃアンタは絶対に満たされない。
だから解放されたなんて微塵も思わない。
欲しいのは 綺麗な真水じゃない。泥水なんだ。

そうやって自虐的に身悶えるアンタを アイツはきっと微笑んで見ている。
アンタが愛しくて憎くて 壊したくて壊せなくて。
アイツもそうやって身悶えて笑ってる。

終わらない自虐的愛情の応酬。

「ねぇ…気持ちいい?」

意地悪で愛しい甘い声が聞こえてくるだろう?

これは例え話。
アンタが俺だったらって話だ………



06.1/26




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