SS | ナノ


▼ 誰がなんと言おうが、これが僕の正義だ




「ちょっと顔貸せよ」
本当に ごく稀にそんな風に 三,四人に呼び出しを食らった。


誰かが何処かで自分の話を振り撒いて 騒ぎ立てる。それに角が立って 勝手に荒波が向かってくる。
身に覚えはない。 でも売られた喧嘩を流せるタチでもない。
自分が人より少し強いことも分かっていたから 拳を振るわれれば 面倒だと思いながらもやり返していた。


体が倒されて 襟を掴まれる。振り上げられた拳を見上げる。
避けられない。一撃を受ける覚悟をした。
しかし その瞬間、視界に全く別の物が飛び込んできた。

―ガンッ!!!

「!?」

飛び込んできたのは 鷸と剣道の竹刀だった。
その竹刀を振りかざす鷸が 自分を殴りつけようとしていた相手を 弾き飛ばしていた。
顔面にフルスイングを食らった相手は地面に突っ伏す。
周りにいた連中が 突然の乱入者に怒号と罵声を吐いた。暴力の標的は鷸に変わる。

鷸は軽く身をかわして木刀を振り上げ その残りの連中を殴り 叩きつけた。

何も言わず 見開いて相手を睨む目。そんな表情を見たのは 初めてだった。

相手がうずくまり 抵抗が無くなっても 鷸は横殴りにし続ける。

「鷸…!!」

半ば強引に腕を引っ張って 止めた。
ばっと振り返った鷸は鴇を見て 一瞬 我に返ったように瞬きをした。
それから持っていた竹刀を ポトリと落とした。

「鴇 大丈夫だった!?」
「………あぁ…」

心配そうに駆け寄る鷸は いつもと同じだった。 



―……



野次馬の生徒達の通報で 鷸も鴇も教師に連行された。
『リンチを受けていた兄を弟が助けた』という目撃情報に便乗した証言をしたら、特に何の処罰もなく片がついた。

ただやはり多少やりすぎたせいで 家に連絡がいった。
家に帰ると 玄関口で母親が待ち構えていた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

玄関で無言の重圧をかけられる。二人は靴も脱げずに立往生していた。
耐え切れず 鷸が鴇の背中を押す。鴇は意味を察してため息を吐いた。
それから 事の始まりから終わりまでを すべて鴇が白状した。


『何かの為に殴り合うなら 武器なんか使わずに自分の手で立ち向かいなさい』

夜になって 話を聞いた父親には厳しい声でそう説かれた。


やっと両親の説教から解放された二人は 同時に息を吐いて縁側に座った。
鷸は持ってきた救急箱を開ける。

「痛い?」
「別に」
「なんで鴇って呼び出し食らうとあっさり行くんだよ」
「……さぁ」
「行かなきゃいい話じゃん。こんな怪我して」
「……そうだな」

鷸は不機嫌そうに鴇の頬に絆創膏を貼る。

「鷸はなんで来たんだ」
「女の子達に聞いて」

腕の擦り傷に消毒液を塗る。

「仕返してやろうと思ってさ」
「……仕返し…」
「そう。だって鴇のこと傷つける奴らなんか許せないよ」


「そんな奴ら死んじゃえばいい。」


冷静で真実味を持った声だった。
心臓を鷲掴みされた気になった。
鴇は鷸を見る。でも鷸は自分の言った言葉には疑問は無く 救急箱を探っていた。

「……なぁ鷸」
「何?」
「それはあまり良い考え方じゃないと思う」
「…………………。」

鴇の言葉に、鷸は手を止める。
顔を上げて鴇を真直ぐに見返した。


「それでも俺は、そう思うよ」


行き交う視線が交わっても わずかに想いがすれ違う。

「鴇を傷つけるものなら何だって殺せる」


庭のけやきが 夜風にゆらりと葉を揺らしていた。
鷸の目の奥に 黒い海が見える……




06.5/30




[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -