SS | ナノ


▼ 告白




トキと初めて『そうゆう事』をした時、俺は少し強引だったかもしれない。



「………、」
意外と冷静に、自分がしたいと思ったことを行動に移していた。

静まり返っている部屋の中で 眠っている鴇に 鷸はそっとキスをした。鴇に起きる気配はない。
迷いなんか微塵も感じなかった。
ほんの僅かな唇の隙間に舌を進めていく。思っていたよりもすぐに舌に触れた。
触れた瞬間に じりじりと 体なのか頭なのか 自分のずっと奥の方が 疼くのを感じた。
たまらなくて 手を頬に添え もう少し深く中を探ろうとした。

途端 鴇が顔を背けた。柔い感触が離れる。
すぐ近くで目が合う。妙な間があった。
「……何…した…?」
「何って…キス」
まだ寝呆け眼な鴇に 鷸は 当然のように応える。
「………………何…?」
鴇は とりあえず起き上がろうとする。それを抑えつけて 鷸はもう一度唇を寄せた。
ドンッと突き飛ばされて 鷸は起き上がる。鴇も体を起こした。
「な…にして」
「だからキスだってば」
「…は?」
訳が分からない鴇を鷸は真っすぐに見て笑った。

「鴇のコト大好き。だからしたいって思ったんだ。」

次はとても長い間があった。鴇は言葉の意味がまだよく理解できていない。応える言葉は何も思いつけなかった。

「トキ 大好き」

微笑んで 鷸はまた唇を寄せる。鴇の体は咄嗟に横に逃げていた。鷸が不思議そうに首を傾げる。

「意味が分からない。ふざけるな」
「ふざけてないよ。何で逃げるの?」
「当たり前だろ 何考えてんだ」
「俺の事 嫌い?」
「そうじゃない」
「じゃぁ 好き?」
「そうゆう話じゃない。ふざけるな」
「そうゆう話だよ。好きだからキスしたい。鴇は俺の事 好き?」

鴇は困惑してしまう。今まで 二人の間でこんなにも会話が成立しないことなんてなかった。冗談にしては空気が違いすぎた。

「……鷸…お前…何考えてんだ」
「鴇こそ何考えてんの。聞かれた事にはちゃんと答えなきゃ駄目だよ。鴇は俺の事 好き?」

異様なまでに言い寄る鷸に 鴇は言葉を探した。

「…鷸…家族への好きと……キスをする好きは…違うものだろ…」
「違わない。」
鷸は即答して ぐいと距離を縮める。鴇は離れようとしたが ベッドの上では限界があった。壁に背中が当たる。

「ねぇ…ちゃんと答えて。鴇は俺の事 好き?」

足と足の間に体を入れて 鷸は目の前まで顔を寄せた。
触れそうな唇に鴇は顔を背ける。何故かもう一度突き飛ばすことができない。

「トキが好き」
「…鷸…だから」
「トキが好き」
「だから、それはこうゆう事をする好きじゃない」
「違う。こうゆう事したい好き だよ」
「何で…」
「すれば判るよ きっと鴇も」

耳元に息がかかる程の距離だった。

「キスしたら じりじりするんだ。凄くどきどきして たまらなくなるから。」

ゆったりと言葉をぬり込んでいく。

「もっとしていたくなるんだ。もっともっと、欲しくなるよ。 鴇は何もしなくていい。何もしなくていいから、だから……」

言葉を切って 背けたままの頬に手を添える。身を竦める鴇をこちらに向かせた。

「感じてて…」

その一言で 鷸は空気をすべて自分のものにした。
ねっとりとした 絡みつく空気。反論する言葉も見当たらず 身を退こうとする鴇に にじり寄るようにキスをした。

緊張している唇をそぅと指でなぞり 開かせて 舌を進めた。
ぴと と触れると狭い口内を逃げていく。追えばすぐに捕まる。舌先が触れる度に 鴇が鷸の肩を手で押しやろうとした。

「ねぇ…じりじりするでしょ…?」

一旦解放して 覗き込む。鴇は小さく声をあげるだけ。まだ言葉が思いつけなかった。

「もっともっと欲しくない…?」

迷いなのか、恐怖なのか、潤んだ瞳。互いにこんな風に人と深く触れ合うのは初めてで もう息があがっていた。

「……し…ぎ…」

何か言おうとした鴇を無視して 鷸はまた深いキスを送る。
逃げ惑う隙間をなくし 絡み合う。合間を縫って 息をした。熱っぽい呼吸。これが吐息。
その甘くて しびれる感覚にどうにかなりそうなほどだった。 余裕なんて簡単に奪われた。




もう直接肌に触れたくて 鷸は 手をすぅと鴇のシャツの中に潜り込ませた。 腰をなぞる。
ビクンッと鴇が反応して 小さな声が漏れた。唇が離れてしまい 手も外に出される。

鴇の濡れた唇を指でぬぐう。自分の唇についた唾液は舌なめずりで味わった。

「トキ 大好きだよ」

荒い息を飲んで抱き締めると 強張った身体がさらに竦み上がる。

「……鷸…だめだ…こんなの」

鴇は肩で息をしながら俯いて そう言った。

「こんなこと…だめだ……」

鷸は 身体が冷えていくのを感じる。
恐いぐらい 心と身体が冷たくなっていく。

それ以上言わないで。
何も言わないで。

「鴇」

声が自分のものではないような気がした。冷たくて それでいて熱っぽい。
もう今更、どうしようもなかった。

鴇は鷸の異変に敏感に気付いて 顔を上げた。

「…鷸…?」
「何も言わないで」

少し 強引だったかもしれない。
壁に押しつけた。もっともっと欲しくて もっともっと感じたくて。
じりじりと沸き上がってくる感覚に溺れて 角度を変えて何度もキスを送る。
鴇も同じようにじりじりとしているのが 吐息や舌先、身体すべてで伝わってくる。

それでもまだ受け入れきれない心があがらおうとする。
鷸はそれを許さなかった。拒絶なんかさせない。

「ねぇ…答えて鴇。鴇は俺の事 好き……?」

見据えた。鴇はまだ苦しそうな表情だった。

「……そんなの…判らない…」

それが鴇にとってはとても正直な返答だった。しかし鷸が満足する答えではない。

「じゃあ 判るまでキスしよう」

そう言って また抑えつけて長い長いくちづけを続けた。



深いキスが音を鳴らす中、何かが壊れていく。

それがたまらなく、気持ち良かった。



06,5/6




[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -