小説 | ナノ


▼ アンラッキー

■ゲーム落書き。徐々に互いを掴みはじめた中条美柴。



このまま追いかけるのが正解なのかどうか。
美柴は今一人の敵を廊下で追い込みながら 一瞬だけそう思った。

裏手の監視を担当していた美柴は 案の定ゲーム開始早々には敵の一人を昏倒させていた。
表口は中条が担当している。
こちらから一人入ったということは、向こうが二人だったのかもしれない。
倒した相手を柱に括りつけてから携帯を見てみたが、中条からの連絡はまだない。
手こずっているのだろうか。
そう思って 表口に向かおうとしていた矢先に、暗い前方から不自然な物音が聞こえた。
明らかに、隠れていた人間が慌てて走り去った足音。
咄嗟に美柴はその足音を追いかけて駆け出していた。

逃げていく相手の姿はすぐに目視出来た。
どうやら二階に逃げるつもりらしい。そっちには斉藤が隠れている。出来れば別の道にそれてもらいたいが、追いかけている身ではどうしようもない。
相手の足はそう速くない。美柴がもう少し本気で走れば おそらくあっという間にその背中に手が届く。
このまま二階まで追い詰めるか、それともここで捕まえてしまうか。
その選択をしようとした瞬間、美柴はハッとした。

根拠はない。

けれど、敵が走っていく前方、階段前にあるその角を曲がった先に、中条がいると感じた。
そしてきっと中条はこちらの足音に気がついていて、わざと身を潜めていると。


このまま追い詰める。
美柴はそう判断し、少しだけ足を速めると 敵との距離を縮めた。
追われる男はグッと喉を詰めて 美柴を肩越しにちらと見る。
「チッ!」
追いつかれると焦った男が更にスピードを上げる。
前方の角は曲がらずに真っ直ぐ走り抜けようとした。その瞬間、

「―…!!」


角から突如繰り出された腕と拳。
男の鼻には、中条の裏拳が見事にヒットしていた。
「!」
追いかけていた美柴は 踏みとどまって後ろに軽く飛びのける。
男はスピードを上げた状態で衝突したせいか、反動で大きく後ろに吹っ飛ばされる。
ドサァ!と大きな音を立てて背中から倒れた男は、美柴の足元でヒクヒクと頬を痙攣させて失神していた。
「………。」
呆気ない勝利である。
角からゆらりと姿を現した中条が、鼻で笑う。
「前方不注意、だぜ?」
そう、いたく不敵に笑った。


「こいつでラストか?」
「あぁ。裏から入ってきた奴はディスクは持っていなかった」
「こっちもだ。つーことは、持ってるのはコイツだな」
中条が倒れている男の衣服を漁る。
美柴はそれを見て、腕時計を確認した。タイムアップまでまだ30分以上ある。

「それにしても俺達はくじ運がねぇーな」
ふいに中条がそう言う。手は男のジャケットを漁っている。
「…何が」
「三人の内ディスク持ってんのは一人だろ。今までにその一人を一番最初に倒したことあったか?」
「…………ない。」
確かに言われてみればそうだった。最初にディスク持ちを潰せればどれだけ楽な展開になるだろう。
どことなく不機嫌そうに肯定した美柴を、中条はふと笑う。

「三分の一の確率も当たらねぇーなんてなぁ。お前、宝くじは買わないほうが良いぜ」
「……買ったことない」
「そうなのか。あれこそまさに、一攫千金のチャンスじゃねぇーか」
「そうゆうのは俺には当たらない。」
美柴はやけにきっぱりと、そう断言した。

その言い草に何かあるように思えて、中条は一瞬だけピタリと手を止めた。
けれど それ以上深い質問をするような真似はしなかった。
下手な干渉はしない。このルールは絶対だ。
代わりに、わざとニヤついたリアクションを返す。

「へぇ?やっぱりくじ運悪ィってことか」
「…。」
なんとなく小馬鹿にするような相槌が気に入らず、美柴はむと中条を見る。
「あんたは当たったことあるのか」
「ねぇーな。つーか買ったこともねぇーよ。あーゆーのは俺には当たんねぇーからな」
そう、しれっと美柴と同じことを答える。
「……。」
美柴が据わった視線で中条を見やる。
中条は そんな美柴の冷ややかな視線に肩をすくめて 立ち上がる。
その指先には 敵のディスクが掴まれていた。
ディスクを口元に掲げた中条は 薄く笑う。

「ま、俺達に当たるのはせいぜい、違法なドッグファイトへのお誘いだな」
その乾いた笑みに、美柴は溜め息を吐いて頷く。
「…宝くじよりは確実な手段だと思いたい」

倒れた男を放置して、二人は階段を上がった。

(幸運なんて自分には巡ってこない)

それは、美柴と中条の間で最初に合致した考え方だった。





■I will go to at any price(NO NAME/TEAM「AAA」)

『私は行きましょう。いかなる代価を払っても』



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