小説 | ナノ


▼ 補習授業

■注意事項■
このシリーズは生徒中条×教師美柴を基本とした学園パロディーです。
中条くんは留年中の我侭で規則破りな問題児。
美柴センセーは学園OBで訳ありの無感心教師。
思いつくままに書いていますので、各話の時系列が定まっておりません。
なので中条くんと美柴センセーが急に仲良くなったり、仲悪くなったりします。
美柴シギや千夏さんが二人の過去回想に絡んできたり、久保時などの峰倉チルドレンが友情出演する場合もございます。
どうか寛大なお心で楽しんで頂ければと思います。




Reward



明日は土曜日だ。
進学や特別コースの生徒以外には授業がない。
自分はそれらの担当ではないから、明日明後日が休日だ。

トントン。
書類の端を机で整えて、腕時計を見た。
6時。

「美柴先生」
背後から掛けられた声に振り返ると、同僚の教師が人当たりの良い笑顔で立っていた。
「仕事、片付きましたか?」
「…はい、だいたいは」
要件が分からずに怪訝に思いながらそう頷くと、相手はまた一段と明るい笑顔で 美柴の肩に軽く手を置いた。
「今日これから何人かで飲みに出ようと思ってるんです。美柴先生もどうですか?」
「…。」
新任である自分を気遣っての誘いだろう。
けれど こうゆう飲み会はあまり気乗りがしない。
なんと言って断るべきか言葉を選んでいるうちに連れて行かれることもあるが、今日は誘いを断る理由が明確だった。

「……すみません。先約があって…」

思ってもみない返答に、教師は きょとんと小首を傾げる。
「先約、ですか。もしかして久保田先生?」
「……いえ、」
どうしてそこで久保田が出てくるのか。
どうやら自分はかなり久保田とは親密だと周囲に思われているらしい。
「…生徒の課題を、少し見ることになっていて…」
「え!」
美柴が最後まで言い終わらないうちに、教師は驚嘆の声を上げた。
そんなに驚かれるとは思わず 美柴が少し目を丸くすると、教師はいやはやと笑った。

「あぁ すみません。まさか美柴先生が勤務時間外で生徒と関わってるなんて、驚いてしまって」
「……。」
そう言われて、初めて気がついた。
確かに、金曜の放課後を生徒に充てるのは 教師になって以来初めてのことだ。

はてと黙ってしまった美柴に、教師が取り繕うように「変な事言ってすみません」と苦笑う。
「いやでも安心しました。先生もちゃんとこの学園に馴染んでこられてるんですね!」
誘いを断られたというのに その教師はそう安堵の表情を見せ、「じゃあまた今度、ご一緒しましょうね」と別れを告げていった。

「………。」
一人 教員室に残った美柴は 自分の机の上を整頓しながら、思う。
(…馴染んでる?)
それは少し違う気がする。
今でもこの学園のことは好きじゃない。
他の教師とも馴れ合えないし、生徒達も可愛いとはこれっぽっちも思わない。
けれど……、

(……気に掛かる…)


その日の昼休み。
美柴はいつも通り図書室で次の授業までの時間を潰していた。
斜め前の椅子に座るのは もう見慣れたサボリ癖のあるその生徒、中条伸人。
長机に広がっているのは 中条が持ってきたプリント類。
それは、土日明けに必ず提出しなければならない課題の山だった。
もし提出しなかったらペナルティーが課せられる。

中条の成績は決して悪くない。
けれどそれはテストの点が良いだけであって、こういった提出物に関しては全くもって評判が悪かった。

「……。」
案の定、広げられたそれらは真っ白である。
机に頬杖をついた中条は、ペンを持ってはいるが 器用にくるくると指先で回してばかり。
先程からやけに神妙に紙面を見てはいるが、回答はまったく進んでいない。
「………。」
本当は、どうでもいいのだ。
この中条がどんなペナルティーを受けようが、自分には関係ない。
……だがしかし、残念なことに 美柴は教師という職だった。

「……分からない所があるなら、教えるけど」

突然降って湧いた言葉に、ぼーっと紙面を見ていた中条はぽかんと美柴を凝視してしまった。

「…あ?なんだって?」
聞こえていたが、思わず聴き直してしまう。
「………だから、」
中条の唖然とした表情に 居心地が悪くなった美柴は ふいと顔を背けた。
「さっきから課題進んでいないだろ。分からないなら教える。」
「………。」
そのどこか憮然とした美柴の横顔を見て、中条は ようやく状況を飲み込んだ。
まさかこの教師からそんな教師らしい言葉が飛び出すなんて。
中条がニヤついた表情に変わったことに気がついた美柴は、微かに眉を顰める。

「何だ」
「いや、分かんねぇー所なんかねぇーけど夜アンタの部屋行く事にする」
「……何しに。」
「課題しに。」

ついさっきまで退屈そうだった中条が、今や頬杖の中でニヤニヤと楽しげにこちらを見てくる。
課題を進めるという現状は変わっていないのに、何が面白かったのかまったく理解出来ない。

「…自分の部屋でやればいいだろ」
「自分の部屋だとなんかモチベーション下がんだよ」
お前にモチベーションが高い時なんてあるのか。と美柴が言い返す前に、中条はプリントを乱暴にかき集めると 席を立った。
「?どこ行く」
「今のうちに寝とく」
つまりサボるということだ。いよいよ心底呆れる。

「ついでに分かんねぇーところがもしあったら、一応聞いてやるからお勉強しておけよ、センセー?」
中条は余裕綽々と美柴の額を指差してそう言った。
「……。」
それが教わる立場の人間の言い草か?
美柴の据わった視線をものともせず、中条は図書室を抜けていく。

「6時半な。ちゃんと部屋で待っててくれよ」

そうして、思わぬ形で生徒の補習授業を請け負ってしまったのである。



「課題終わらせたらご褒美くれよ」
そして夕刻の美柴の部屋。
テーブルに課題を広げた中条の最初の一言がコレだった。
コーヒーを置いて向かいに腰を下ろした美柴は、冷ややかに返す。

「生徒として当然のことだろ」
「んだよ、つれねぇーなぁ」
くくと笑った中条は、それでもそこからは真剣に課題に取り組んだ。

時計の針が時間を刻む音と、紙面をペン先が滑る音。
美柴は読みかけの本を開きつつ 中条の様子も気にかけていた。
「………。」
どうやら回答は思った以上に順調に進んでいる。
ちらと見れば、難問に取り組む真面目な表情。
そんなきちんとした一面もあるのかと、思わず少し感心していた。

半分まで終えると、答え合わせを求められた。
『どんな人間にも取り柄の一つはある』というのは、どうやら本当らしい。

「問題ないな」
八割の問題が正解で、間違ったものもケアレスミスだった。
添削した課題を改めて見やりながら、美柴は息をつく。

「やれば出来るんだから日頃もこれぐらいこなせばいいだろ」
「何の得にもならねぇーじゃねぇーか、こんなの日頃やっても」
んーと背筋を伸ばした中条は 息抜きとばかりに立ち上がって、室内を見歩き始めた。

「成績で認められるっていうのは、その得にならないことを怠らなかった という努力が認められているんだ」
「…たまには教師らしいこと言うじゃねぇーの」
笑みを含んだ声色に、「教師だ」と反論しつつ 美柴も空になったコーヒーカップを持って立ち上がる。
二杯目を注ぎに カウンターに立つ。

「でも俺は貰えるものなら貰いたいぜ?」
「何を?」
言いながら振り返ると、中条は真後ろに居た。
にやりと笑んだ表情は 悪戯を思いついた子供。
もしくは、ハロウィーンで菓子を強請る子供だ。

「ご褒美。」
「……子供か」
「いいから何かくれよ」
そうして ゆっくりと美柴を挟むようにカウンターに両手を掛ける。
覗き込むように首を傾げる。
妖しい空気を放って 間近に迫る中条の笑みに、美柴は動揺を見せることはなく 静かに見上げ返した。

「…何かって?」
「アンタからしか貰えないもんがいい」
「……。」
ゆっくりと近づく唇と唇。
二人の間に今までのような不穏さや険悪さはない。
中条の頬に添えられるかのように、美柴の片手がふと挙げられた。
同時に中条もくちづけようと 首を伸ばした。


ナデナデ。


挙げられた美柴の手は、中条の頬をではなく、その頭をよしよしと撫でていた。


「………。」
「………。」

今まさに唇を奪おうとしていた中条は、頭部を撫でられる感触に ピタリと動きを止めた。
目前には、じっと大人しくこちらを見ている美柴の無表情。

「……何してんだよ」
「褒めてる。」
そう、まるで「よしよし、いい子だね」と幼い子供をあやすように。

「…………。」
「褒めろと言ったのはそっちだろ」
「……あのな、俺が言っ」
「今日は頑張ってた。…正直、あんなに出来るとは思わなかったからビックリした」
「…あ?」
「続きは明日にしろ。付き合ってやるから」
「…………明日って…」
反論を遮った教師の言葉に、中条は唖然としていた。
本当に 今日のこの教師は変だ。

「…なんだよ、明日も来ていいのかよ…?」
どこか疑ってかかっているような中条の表情と声。
その問いかけに、美柴はほんの少しだけ首を傾げて 中条を見つめる。
はてと 自分でも驚いていた。
今自分はごく自然に この生徒と明日の約束をしようとしていた。
そんなのは初めてのことだ。

「………。」
改めて考えてみても、それをあまり嫌だとは思わない。
だから、静かに告げた。

「……あぁ、別に…お前の好きな時に来ればいい」
「………。」
キスしそこねた唇を噛んで誤魔化す中条は、恨めしく美柴を見た。
この教師、一体どこまで分かって言っているのかまったく掴めない。
けれどそうやって許されることが嬉しくて、知らずに口角は上がってしまう。

「あんた、やっぱ教師っぽくねぇーな」
「そっちこそ、生徒らしくない」

大嫌いな生徒や教師、学園という組織の中で、目の前の存在は何か違うと 感じ始めていた。


■ちょっと仲良くなった中条くんと美柴センセー。でもキスもえちィもしてないの!(笑)



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