小説 | ナノ


▼ 眠り姫センセー

■注意事項■
このシリーズは生徒中条×教師美柴を基本とした学園パロディーです。
中条くんは留年中の我侭で規則破りな問題児。
美柴センセーは学園OBで訳ありの無感心教師。
思いつくままに書いていますので、各話の時系列が定まっておりません。
なので中条くんと美柴センセーが急に仲良くなったり、仲悪くなったりします。
美柴シギや千夏さんが二人の過去回想に絡んできたり、久保時などの峰倉チルドレンが友情出演する場合もございます。
どうか寛大なお心で楽しんで頂ければと思います。



Sleeping Beauty



「サボリ見ーっけ!!」
裏庭の木陰でそう大袈裟に叫んだのは 中条の後輩、稔だった。
「…〜うるせぇーな、人が寝てんだからちったぁ小声で喋れよ」
顔に雑誌を被せて芝生に寝転がっていた中条は、渋々と目を開けて 脇に立つ後輩を見上げた。
「驚いただろ!」
そう偉そうに両手を腰に当てて先輩を見下ろすのは アーモンドのような瞳と、明るく生意気な笑み。
中条と同じようにサボリ癖のあるこの後輩は、気が付けば中条と同じ隠れ場所を使うようになっていた。
稔曰く、「あんたが使ってる所はセンセーに見つかりにくいから!」らしい。

よっこらしょ、と中条の脇に胡座をかいた稔は、持ってきた購買の惣菜パンの袋をパン!と勢い良く開けて 頬張る。

「なんだお前、3限は出るって言ってたじゃねぇーか」
突然の目覚ましのおかげで眠気が飛んだ中条は、やれやれと身を起こす。
腹いせに、稔がもう一つ持ってきていたパンを奪い取って 封を切った。
「あ!おい!なにすんだ!人様のもん勝手に!!」
稔が懸命に奪い返そうとする。が、中条はその腕を振り払ってお構いなしに食ってやった。

「先輩を敬わねぇーからだ。で?授業は?」
この時間の稔たちのクラスは確か、美柴の授業のはずだ。
稔は生徒の中でも珍しく、教師と仲が良い。
特に久保田とは互いに部屋を行き来したり、学食で飯を共にするほど親密だ。
その久保田と、美柴は何故だかよく一緒にいるのを 中条はたまに見掛ける。
「仲良し」なわけではない…とは思うが、だからなのか、稔も美柴とは屈託なく接していて、美柴の授業はサボらない。

「あー、出ようと思ってたんだけどさー、自習になっちまったんだー」
留年してる奴敬うかよ!と舌を出してみせてから、稔はコロッケを頬張る。
「なんか、美柴センセー今日朝から体調悪いんだって。明日も自習らしいぜ。アンタの学年でも自習になるんじゃね?」
「…明日もか?」
ただの体調不良で二日も休むほど、あの教師は自分に甘くない。何か引っ掛かりを覚えた。
「うん、明日も美柴センセーの授業は自習だって、さっき教室に来た先公が言ってた。風邪かな?久保ちゃん朝なんにも言ってなかったけどなー」
「学食にも来てたしな…」
朝食の時間、あの広い食堂の中で 中条は美柴を見掛けていた。
ワンブロックを占拠している教師勢の中に、確かに美柴もいたはずだ。
「………。」
声を掛けたりはしなかったが、遠目に見たその姿は体調が悪いようには見えなかった。
いつも通り 整った身なりと容姿で、背筋の伸びた綺麗な姿でそこに居た。
しかしあの教師は素があの無表情だ。他人が見た目で体調を見極めるのは難しい。

「あれ?どこ行くの?」
すと立ち上がった中条を見上げ、稔はゴクンと口の中のパンを飲み込む。
「別にー」と適当な声を返した中条は、教師棟に向かって歩きだした。

「…なーんでお前がついて来んだよ」
「美柴センセーんトコ行くんだろ?心配じゃん、やっぱ!」
「俺は別に心配してるわけじゃねーよ」
「ふ〜ん?じゃあ何しに行くんだよ」
「「授業サボって寝てるなんてセンセーは良いご身分だな」って言いに行くんだよ」
「何だそれ。わざわざからかいに行くのかよ。てゆーか、サボってるのは俺らじゃん」
「うるせー、文句あんなら帰れノラ猫が」
「ノラ猫!?」
「そうだろーが。お前なんかな、久保田に気まぐれに飼われてるノラ猫だ」
「ふざけんな!!あのな!俺様が!久保ちゃんを飼ってやってんだよ!!」
「……そうゆう反論でいいのか、お前」

さすがに平日の午前中。教師棟は人っ子一人いない静寂の館だった。
その廊下を 中条と稔はやいやい言い合いながら進んでいく。

中条は本当は内心 稔がついてくる事にどこか安堵していた。
昨日美柴と図書館で妙な空気になってしまっていた。
『だから留年なんかするんだ』
いつもの軽口だと分かっていた。
そのぐらいの事なら 稔だって冗談で言ってくることもあるし、本来ならそこまで気に障ることはない。
なのに……美柴に言われたあの瞬間、何故か無性にショックだった。
だからイラついて、思わずキツイ態度をとってしまった。

「……。」
図書室を出てから、(何してるんだ俺は)と自分に呆れた。
中条から厳しい視線を受けたあの時の美柴は、ほんの少し動揺していたように見えた。
当たり前だ。
おそらく美柴は中条の留年の真相を知らない。向こうはいつもの言葉遊びのつもりだったのだ。
そんな相手にムキになって、気まずい思いをさせてしまった。

「あ。此処だぜ、美柴センセーの部屋」
稔がそう言って あるドアの前に立って 中条を振り返った。
「起きてるかな?」
ノックする稔の横で、中条は一度息をつく。
出来るだけいつも通りに話せばいい。それで多分向こうもあの話題には触れずに流せるはずだ。
「反応無しだなぁー。やっぱ寝てんじゃねぇーかな」
そう言った稔が ドアノブを握った。

「あ。」
「あ?」

握ったノブを軽く捻ると、ドアはすんなりと開いてしまった。
その開いた隙間を見てから、思わず中条と稔は パチと目を見合わせる。

「…開いてんぞ?」
「見りゃ分かる。なんだ、戸締りしねぇーのかあのセンセーは」
中条はドアを開けて 室内に踏み込んだ。
「えー!?入んのかよ!?」と小声で批難しつつも、稔もあとに続く。

「美柴センセー!俺ー!稔だけどー!」
稔は、入口からすぐのドア、浴室に向かってそう声を掛けた。
そちらから、シャワーがタイルを叩く音が漏れ聞こえていたからだ。

中条はそんな稔に構わずに部屋の奥へと進む。
「………。」
部屋の中は生徒棟と同じ造りになっていた。
備え付けのベッド、机、椅子、クローゼット。
生徒の部屋を違うのは それが相部屋ではなく一人部屋であること。
そして立派なソファーとテーブルが備わっていることだった。
「…?」
朝 美柴を見掛けた時に来ていたはずのシャツやジャケット、そしてスラックスが、無造作にソファーに投げ置かれていた。
それが、また中条の中で妙な引っ掛かりになった。
稔は今だに浴室に声を掛けている。どうやら返答がないらしい。

ゆっくりと、けれど早急に、中条はこの部屋を見渡す。
書類。CD。衣服。ベッドのシーツや毛布。そのどれもが、整然と整えられている。
唯一乱雑なのは、先ほど脱いだらしい 衣服だけ。
「センセー!勝手に部屋にいるけど怒んなよなー!」
稔の声は、まだ続いている。返事は聞こえない。
「…。」
一つの推測を見出した中条の足は、浴室に向かった。

「退け、稔」
「へ?…え!?」
慌てて引き止める稔を無視して、中条は浴室のドアを全開にした。
「!!」
「わ!!」
シャワーカーテンの向こう。猫脚のバスタブの中、美柴はぐったりと 糸が切られた人形のように、沈んでいた。




「不眠症なんだよ」
保健医の悟浄が、細い美柴の腕に注射を施し そう言った。

倒れている美柴を発見した中条と稔は 慌てて美柴をバスタブから引き上げ、ベッドに運んだ。
意識がない美柴は 二人がどれだけ声を掛けても目を開けなかった。
まるで本当に死んでいるかのような美柴の様子。
稔が備え付けの電話から内線で医務室を呼び出そうとしたところで、ちょうど良くこの保健医が部屋にやって来たのだ。

「さっき教員室で突然倒れてな。自分じゃ平気だなんて言ってたが 無理矢理部屋に戻らせて、授業は自習にしてもらったんだよ」

血相を変えている生徒達を見て、悟浄は逆にやれやれと溜め息を吐いてみせた。
そうして、気を失っている美柴に手際よく部屋着を着せると 一本だけ注射を打った。

「んで、「あとで部屋にクスリやら何やら持っていってやるから、とりあえず横になってろ」って言っておいたんだ。まさか風呂に入ろうとするとはなー」
バスタブに栓がしてあったら溺死しててもおかしくない。
「困ったもんだ、相変わらず」と悟浄はガシガシと頭をかいて、中条と稔を軽く笑って見やる。

「おめーら授業サボってるのは褒められた事じゃねぇーけどな。ま、今回は人助けってことで黙っててやるよ。悪ィーな、助かった」
言われた二人は 半ば茫然とその話を聞いていた。
「……じゃ、じゃあ美柴センセー寝てるだけってこと?」
稔は恐る恐るベッドに目を向けながらそう問う。悟浄は あぁと頷いてやる。

「俺はコイツが学生だった頃から知ってる。その頃から一睡もしねぇーで深夜に寮内フラつき回ってたらしいんだよ。今でもその癖は治ってねぇーらしーな」
「え!そうなのか!?」
稔は至極驚いていたが、中条はむしろ合点がいっていた。
美柴に初めて会ったのは、深夜の寮の廊下だった。
あの時間、見回りをしている教師はいないはずだ。
だとしたら美柴はあんな時間にあんな暗い寮内で何をしていたのか。
不眠症。それは美柴が抱えている何かの副作用に思えた。

「ったく、久保田にもよく見といてくれって言っておいたのによぉ」
「…久保田?」
思わずといった調子で漏れた悟浄の愚痴を、中条は聞き逃さなかった。
「なんで久保田なんだ?」
「あれ。もしかして知らねぇーの?」
それには 稔が応えた。
「久保ちゃんも美柴センセーもここのOBなのな。んで、美柴センセーは久保ちゃんの一個下の後輩なんだよ。この悟浄センセーも、久保ちゃんと同期のOBなんだぜ」
悟浄がそれに続く。
「ま、話すようになったのは教師として戻ってきてからだけどな。美柴が赴任してきた時はビックリしたぜー?なんせコイツは、」

「ビックリするほど美人になって帰ってきたからねぇー」

悟浄の言葉を遮ったのは、久保田だった。

「久保田!?」
「久保ちゃん!?」
ふいに背後に立たれていた時任は 驚いて久保田を振り返る。
中条も驚いて 振り返っていた。
久保田は「どーも」と気の抜けた声で応える。

「なんだ久保田、お前も結局授業サボって来たのか」
悟浄は医療器具を一通り片付けて、久保田を見た。
「まぁーね。美柴センセーが心配だったっていうのと、」
一度言葉を区切ったその一瞬、すぅと久保田の視線が ほんの少し冷ややかに変わった。

「おしゃべりな保健医が介抱そっちのけで世間話してるんじゃないかと思ってねぇ?」
「……言ってくれるじゃねぇーの」

それを受けた悟浄も同じく、一瞬だけ真撃な表情で迎え撃った。
けれど すぐにケロリと強気に笑う。
「心配いらねぇーよ」
はぁと盛大に溜め息を吐いて、眠ったままの美柴を見下ろす。

「不眠症っつってもそこまで酷いもんじゃねぇーからな。今日明日ゆっくり寝かせてやればいい話だ」
そうして、もう用はないと部屋を横切っていく。
その姿を見送る中条達に、最後、振り返るとピシ!と指を差した。
「夜中にまたフラフラ出歩かねぇーように、ちゃんと見張っててくれよ」
そう言いつけて、悟浄はドアを締めて出ていった。


「…見張りって言われてもなぁ?久保ちゃん」
「そうねー」
残された時任と久保田が はてと顔を見合わせる。

「……。」
中条は久保田と悟浄のやりとりについて、考え込んでいた。
明らかに、何かある。
美柴について、久保田も悟浄も何か知っているのだ。
そしてその『何か』が 美柴の不眠症と寮内を歩き回ることに繋がる。

ぽん。

「てなわけで中条くん、よろしくね」
肩に置かれたのは、久保田の手だった。
その手から視線を上げると、久保田が薄く笑みを浮かべている。
その横で、時任もにんまり笑った。
「…は?」
「見張り、よろしくな!」
「は!?」
「だって中条くん、今日も明日も授業出ないでしょ?」
「決めつけんじゃねーよ、つーか教師の言い草かそれ?」
中条は眉を渋く寄せて 嫌々と久保田を見る。

「なんで俺なんだよ。アンタがやればいいだろーが。いつもそうなんだろ?」
悟浄の台詞から考えるに、おそらく美柴の奇行を 久保田はいつも監視する立場にあるのだろう。……原因を知っているからこそ。

「…。」
中条の不機嫌そうな様子を見て、ふと久保田は笑った。
「見張りなんてしたことないよ。美柴センセーが不眠症だなんて、初めて知った。」
「………性格悪ィーよな、この学校の教師は尽く」
「その生徒も充分、口の利き方が悪いけどね?」
「……わーったよ。無茶しねぇーように見てりゃいいんだろ」

はぁあと盛大に溜め息を吐き出した中条は、ドカとソファーに腰を据えた。
それを見た時任と久保田は 「よろしくー」と無責任に手を振って 部屋を出ていく。

「あ、おい、代わりに出席名簿付けろよ久保田」
「はいはい」
「あ!ズリ―!!久保ちゃん、俺も俺も!!」
「はいはい」
「は?おい久保田お前それ贔屓だろ!」
「はいはい。じゃーね」

久保田は生徒二人を受け流しながら、ドアを締めた。
脇から 出席名簿の改ざんを懇願してくる生徒に腕を引っ張られる。
見やると、稔は打って変わって随分深刻な顔をしていた。

「ん?どしたの?」
「……なぁ久保ちゃん。不眠症って、なんでなるんだ?」
「…………さぁ?」
久保田はふと窓の外を見た。生徒の寮棟が、日差しを浴びてそびえ立っている。


『……神隠しって知ってる…?』
久保田の脳内で流れる、一瞬の過去の噂話。



「まぁ…問題はそっちじゃなくて、夜中に出歩くほうなんだけどね」
「は?眠れないから出歩くんだろ?」
時任が 目をまん丸にして そう久保田を見つめる。

けれど久保田は ほんの少し微笑んだだけで、何も応えはしなかった。



■悟空と時任で迷ったけど、やっぱり久保田には時任がいいと思いました。


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