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▼ 傷口2



美柴は騎乗位が嫌いだ。

「…ッ、ん…!」
下からぐんと強く突き上げられて、美柴は中条の上で身体を揺らした。
人の身体に跨るという姿勢は、意外にも不安定だ。
気を抜けば 前か後ろに倒れてしまいそうだった。
「ん、ん、…!」
身体を支えられる場所を探して、中条の胸に両手をつく。
奥へ奥へと突き上がってくる硬さが苦しくも気持ちいい。
俯いた美柴の唇から、は、あ、と止めようもない吐息が溢れていく。

手の平が、汗で滑って中条の胸から落ちそうになる。
その度に美柴は 身体を起こしていようと手をつき直して、体勢を維持し続けていた。

「上は嫌だ…ッ」
喘ぎの合間にそう訴えたが、中条は笑う。
「じゃあバックにするか?」
俺はそれでもいいぜと 腰を揺らされる。
以前その体位になった際、両手首を後ろ手に掴まれて上体を引っ張り上げられ、容赦なく突かれた事が思い出された。
「…ッ違う、普通に」
「その背中で正常位はキツイと思うけどな?」
「〜…痛ッ!」
背中に伸ばされた中条の指が、傷の辺りを掠めた。
手当されたばかりのそこは そんな些細な衝撃でさえも痛みがあった。

「…な?」
驚くほど優しい声色で、しかしどこか勝ち誇った笑みで、中条はそう同意を求めてくる。
どうしてそんな余裕たっぷりの表情なのかは分かっている。
「はっ!…んあッ!」
腰は中条の両手でガシリと捕らえられていて、自分の両手は身体を支えるのに手一杯だ。
二人の間で勃ち上がっている性器も、理性を手放さまいと懸命で けれど快感に流されそうな表情も、何もかも見られている。
美柴はこの逃げ場のない体勢が嫌いなのだ。
「…そんなエロい視線 送ってくんなよお前」
そして美柴が嫌がっていると分かった上で、中条はにやりと言葉を投げかけてくる。
悔しくて 思わずきゅっと下唇を噛んだ。
それでも 鼻を抜けていく吐息は誤魔化せない。

「…なぁ、もっと力入れて、俺の締めてみろよ」
中条が挑発的にそう囁くと、美柴は切な気に眉を寄せた。
唇を噛んだまま、無理だと小さく首を振る。
「本当に、いつまでたっても覚えねぇーなぁ…」
どこか恍惚とした笑みを含んだ中条の声。
覚えてやるものかと思うのだが、それを言葉にしたら 強制的に仕込まれそうな気がした。

「まぁ…お前が覚えるまで教え込んでやるだけだな」
中条はふと笑んで、反応している美柴の性器に片手に握る。
「!な、か…ッ!」
それを嫌がって遮ろうとした仕草を無視して、透明な体液を軸に塗りたくるように扱いた。

「はっ、あ!…それや、め」
美柴はその体液溢れる先端を、中条の指で引っ掻くように弄られるのに弱い。
身体中に電気が流れたように ビクリと背筋が仰け反る。
背が反れれば自然と突き出される胸に、中条はもう片手を伸ばした。
薄い美柴の胸板は 中条の手でならば横から鷲掴み出来るほどだ。
ツンと微かに立っている乳首が、ちょうど親指に当たった。

「乳首が敏感だと、中も敏感な奴が多いらしいぜ」
今度はそう言って、執拗にそこをぐにぐにと押潰したり、爪で柔く弾いたりし始める。
どこから仕入れた情報かは知らないが、確かにその刺激はじわじわと効いていた。
声を上げるほどの快感ではない。けれど言い様のない焦れったい甘さが、胸から腰に降りてくる。
同時に、濡れる先端がくるくると指の腹で撫でられる。
美柴の腰は知れずその愛撫を求めて、中条の指先にすり寄せられる。

「〜な、あッ!も…!」
「…だからほら、俺のが抜ける時に力入れるんだよ…」
根を上げる美柴に思い知らせるように、中条はすべての愛撫を中止して、ゆっくりと腰を引く。
「〜…!」
すぐそこまで来ていた絶頂を焦らされて、美柴は声にならない声を零す。
中だけに与えられる快感に身を震わせて、天井を振り仰ぐ。
言われた通り、下肢に力を入れようとする。
「…ア、…あッ!」
けれど引き抜かれる中条の性器に釣られて、ふちが めくれるような感覚に襲われる。
「イクなって」
ガクガクと細い太腿が震えたのを見て、中条は美柴の限界を悟り、けれど果てることは許さなかった。爆発しそうな熱の根元を、ぎゅっと握った。
「!」
行き場を失った絶頂の波は 美柴を内側から苦しめた。
襲ってきた感覚は、今までのどの射精よりも激しかった。
「〜!っ…!っ!ッは!」
息が出来ない。
天井を仰いだまま、美柴は打ち上げられた魚のように何度もビクン!と強く身体を仰け反らせた。

「っく…!」
急激に収縮した内壁に、中条は危うく弾けそうになった。
体液が爆発する感覚を 息を詰めてやり過ごした。
イクなと言った手前、自分が先に果てるのは示しがつかない。
「く…!…〜クソ」
危なかったと息を吐いてから 上を見上げれば、美柴は限界まで緊張していた身体をようやく脱力させ始めた。
きゅうきゅう締め付けていた内壁も 少しずつ緩くなっていく。
あ、と淡い声をこぼしながら息を上げて、切なげに眉を寄せて余韻に震えていた。
下から見るその姿は、いやらしいにも程がある。
思わず くくと口元が笑ってしまった。

「なんだよ美柴、イったのかよ」
出してねぇーけど?とわざと根元を握り締めたまま、先端をグチグチと音を立てて弄ってみる。
「!?〜や、だ…んアッ!!」
美柴は息を飲んで、中条の手首をきゅっと握った。
どうやらかなり敏感になっているらしい。うぁと溢れる声が、どこか泣いているように聞こえた。
「…〜く、るし…ッ」
そう発せられた縋るような 熱っぽい声色に、今度は中条が息を飲んだ。

「…チッ」
舌打ちを一つして、中条は上体を起こした。
背中の傷に触れないように 注意深く美柴を胸に抱き寄せる。
そうして、その身体からいきり立った性器が抜けないように しっかりと腰を打つ。
「…うあッ!」
また一段と深く杭打たれた美柴は、咄嗟に中条の首に両腕を回した。伸ばされた足が中条の腰に絡むように組まれる。

しがみついてきた美柴の首筋に、中条は顔を埋めた。汗を流すその肌に噛みついて 吸い上げる。
ああこんなに強く噛んだらいくらなんでも歯型が残るかもしれない。そう思ったのは、一瞬だけだった。
「あ、っ」
耳元で 美柴が小さく鳴いたのが聞こえた。
背中にしがみついてくる腕が、より深く中条を抱きとめようとする。
「……中条さん…」
吐息混じりの甘い声で呼ばれたのは、初めてだった。
それ以降、中条は何も考えずに 美柴を突き上げ続けた。

「あ!…は、は、〜ッふ、あ!!」
美柴は自身の腫れ上がった熱を 中条の腹に擦りつけるように腰を揺らす。
自分で触ろうとすると それに気がついた中条がその手を捕まえた。

「…中だけでも、平気だろ?」
さっきとは打って変わって、余裕のない息を上げた中条の声。
けれど、その表情はやはりどこか笑んでいる。
そして美柴はやはり悔しくて、けれど今度は下唇を噛めなかった。

深く合わさる唇に呼吸も声も奪われていた。
もうどこが痛いのかなんて、判別できない。
はふと解放されてはまた深く奪われる唇の端から、つーと唾液が伝った。
熱くて、気持ちよくて、苦しくて、たまらない。

「、ア…!〜ヤブ医者の…ッくせに…んあッ」
「ははっ 良く効く注射、持ってるだろ?」

殴ってやりたくてたまらないのに、手も足も出なかった。


■だからね、ほらね、覚悟して。 (え?あぁ、そう。)



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