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▼ 鮭の素晴らしさについて

■美柴鴇はなぜ鮭が好きなのか。



鮭が好きだ。


子供の頃テレビで見た鮭の川登りは、とても衝撃的だった。
轟々と流れる川を頑として逆流して登っていく魚は、なんて反抗的で なんて意固地なのだろうと。
何度も何度も身体を跳ね上げながら 激流の段差を乗り越えようとする姿には、なんとしても故郷に帰らんとする強い意思が感じられて、圧倒された。

その番組の中では 跳ねる鮭の何尾かが 待ち構えていた月の輪熊に鷲掴まれて喰われてしまう映像もあった。
激流の中で仁王立つ大きな月の輪熊。
きっとあの獣にはどんな受身をとっても張り倒されて殺されてしまう。
そんな力強い熊の手が 水しぶきを上げて川の水面を叩き割って、両腕で締め上げるように鮭を捕まえる。
捕まった鮭はそれでも負けまいと身体いっぱいに抵抗する。
運の悪かった一尾が喰われる下で、生き延びた群れが今だ我先にと懸命に遡上を繰り返す。


大きな流れに逆らうのはきっと疲れるだろう。
待ち構える強大で凶悪な敵に立ち向かうのは きっと恐ろしいだろう。
それでも、彼らは一心に我が家を目指すのだ。
鮭は川で生まれたのに 生きにくい海を泳ぎ、成長する。
その海で自分の命を守り抜き、そしていずれ生まれた川へ帰ってきた。
傷ついてむき出しになった腹や背を動かし、呼吸出来ない空に向かって飛び跳ねて。
そうしてようやくたどり着いた故郷で 彼らはどれだけ達成感や感動を得るのだろう。

健気で、一生懸命で、強い。
鮭はどんなヒーローよりも身近で かっこよかった。
あんな風に自分の傷を諸共しない強さが欲しい。

その番組を見たあと、ポツリと居間でそう言うと いつもはどこか厳しい表情をしている父が珍しくふと笑って、「鴇は物の見方が面白いな」と言った。
母は「そうね」と笑い、シギは「鴇ってたまに変!」と笑った。
俺はその時どんな顔をしただろう。もう覚えてはいないけれど。


鮭が、好きだ。


「お前の趣味はてんで分かんねぇ」と中条さんは笑い、「確かに美味いっスけど!」と斉藤は笑う。
俺は今どんな顔をしているだろう。
…きっと、鮭みたいに無愛想に、むくれているのかもしれない。



■誰がなんと言ったって!


最初の一文を打ち込んだ瞬間(…私は何を書こうとしているんだwww)となりましたが、なんとか着地して(?)良かったです。笑





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