小説 | ナノ


▼ ウサビッチパロ

■脱獄パロな優希アキラの落書きを2つ。


■出会い編。



たった一日だ。
俺のすべてが奪われたのは たった一度の愚行…仕事をサボったせいだった。


この世界は徹底した過度な社会主義に支配されている。
清く、正しく、美しく。
一般市民は些細な事で監獄行きだ。

そんな世の中だ。俺は今まで一度も仕事を休んだことはない。
学の無い俺には肉体労働しかできない。周囲の社会人よりガキなせいで、散々なめられてる。
だから、熱が40度あろうが 車にぶつけられようが、言い訳も文句も飲み込んで意地になって働いてきた。
俺にだって家族がいる。……母親しかいないけれど、それでも今のご時世でシングルマザーを貫いてくれた母ちゃんを守るのは、今や社会に出た俺の使命だ。


…………分かっていたはずなのに。


上から押さえ込まれる生活に鬱憤が腹に据えかねて、深酒をしてしまった。
そして、人を数人殴り飛ばしてしまった。
警察に追われて酔いが覚めて、しかし身体には酔いが回って 派手に転んで………

「………………最悪だ…」
翌朝、目を覚ましたら 立派な監獄の中だった。



「〜だから!!酔ってたんだって…!!」
「はいはい」
「悪かったと思ってるよ、頼むから出してくれよ!!」
「はいはい」
「母ちゃんがいんだよ、俺、働かないと…!!」
「とにかく囚人番号541、お前は懲役3年だそうだ。働くんならこの中でも出来るからな、頑張れよ」
「3年!!?酔って人殴っただけじゃねぇーか!!」
「お前未成年だろ。どっちも重罪だアホ。」
「っじゃ、じゃあせめて母ちゃんに伝えてくれよ…!!俺の名前は木村アキラっつって、五番街の」
「じゃーなー」
俺の必死の抗議を笑い飛ばして、看守は パタンとドアの監視窓を閉じた。
「っちょ!?待てよ、おいオッサン…!!!」
ガン!ガン!と何度もドアを叩いて叫んだが、分厚く冷たい鉄のドアは微動だにしなかった。

「……〜くそ…ッ」
ドアを蹴飛ばす。苛立ちのまま 備え付けのテーブルや椅子をドアに向けて叩きつけた。
バラバラと舞い散る紙屑もがむしゃらに握りしめて 四方八方に投げる。
「〜〜〜〜ぁああくそっ!」
力の限りに暴れた後、虚しさと非力さに途方に暮れた。

「っうお!?」
そこで初めて、先住民に気がついた。
もう一人の囚人は奥のベッドの上で清々しく本を読んでいた。
ネームプレートは04。囚人とは思えないぐらい小綺麗な容貌と空気感だった。
まるで都会のカフェテラスで優雅にお茶でも飲んでるかのようだ。
こっちはこんなに切羽詰まってるってのに。

「!」
はっと自分の服を見下ろした。
彼と同じようにネームプレートが付けられていた。番号は、541。

「………………」
本当に、囚人として収容されてしまっている。
3年……覆すことは不可能だ。
「マジかよ…」
急激に冷たい現実が身体を捕らえて、絶望感に その場ガクリと膝から崩れ落ちた。

「…………終わった?」
散々暴れ叫び へたり込んだ541番を見て、04番はようやく顔を上げた。
じっと本の上からその様子を見つめる。
「……ねぇ、気が済んだ?」
「っせーな黙れよ…」
「……………。」
04番は、うなだれて灰になるアキラの前に ゆっくりしゃがみ込む。
虫も殺さないような細い手を差し出した。

「初めまして、アキラくん」
「黙れっつってんだろ殺すぞてめぇ!」
アキラは掛けられる声に 敵意を持って睨み上げた。
けれど、04番はものともせず ケラケラと笑った。

「えー?君が僕を殺すのー?」
「ぁあ!!?」
完全に馬鹿にした口調だった。思わずアキラは相手の胸倉を乱暴に掴んだ。

「無理に決まってるでしょ」

すぅと目元に凍りを張らせ しかし清々しく笑んだまま、04番はそう言い放った。




■以下、脱獄編。


薄暗い地下廊。
ついに追い込まれた二人の囚人に、レーザー銃が突き付けられていた。

「あーあ、大人しく3年我慢してれば良かったのにね〜?」
若い看守がせせら笑いながら、アキラに迫る。
背後から押さえられ 振り払おうとしても、鍛え上げられた看守達には敵わなかった。
ガチャと額に当たる銃口に観念し、アキラは覚悟を持って瞳を閉じた。


「………」
所詮、脱獄なんて夢のまた夢だった。
この監獄だけじゃない。
この世の中自体から 逃げ出すなんてこと、おそらく誰にも出来ない絵空事なのだ。

「…………」
でも、それでもこの数時間、自分は実に生き生きと走り 笑ったと思う。


「はっ、何その目?お前も諦めが悪いね。親が親なら、子も子ってやつ〜?」
看守の声は 優希に投げられているのだろう。
今、隣でも同じように銃口を向けられているであろう優希を想う。


『どうせ死ぬなら、誰かの為に何かしたいんだ。これはただの…僕のエゴだよ』

元から死刑囚だった優希は、そう言ってアキラに死を顧みず力を貸してくれた。

「そうやって無駄死にしたがる家系なの?」
優希が収容された理由を、アキラは知らない。知る必要は無かった。
でも……優希も一緒に逃げ出せたらいい。本当にそう思っていた。

アキラは今、自分の命の終焉よりも ただ友達の願いを叶えられなかった事を悔やんでいた。


「はい、じゃ〜、死刑!」
楽しそうな若い看守の声。
引き金が引かれる気配がした。
「ーっ」
恐怖に固く目を閉じ、唇を噛む。
心臓が 飛び出しそうなほど鼓動を鳴らした。


「ーぐ…っ」
「て、め!?」
「なっ!!?」
しかし次の瞬間聞こえたのはレーザー音ではなく、周囲の驚愕や苦悶のうめき声だった。

「撃て!早く!」
「ぎゃあっ」
「…くそ!」
気配や怒号が入り乱れる。
何事かと目を開けようとした瞬間、

「ーっ!?」
空気がひび割れるような殺意を感じ、アキラはより一層身体を強張らせる。
再び強く瞼を閉じて、死を覚悟した。


…………………。


しかしいくら待っても、痛みも衝撃もやってこなかった。


「え…?」
恐る恐る、アキラは目を開けた。

今の今まで 額を狙い定めていた銃は無く、看守達の屈強な姿も一変していた。
この光景を一言で表すならば、全滅。
圧倒的な優勢だったはずの看守全員が、死んだように地面に突っ伏していた。

「…な、何だこれ…」
呆然と膝をついたままのアキラに、ふと手が差し出される。
見上げれば、頬や服に血を走らせた優希が 小さく笑っていた。

「早く行こうアキラ」
そう引っ張り上げて、優希は足早に逃げ道へと進み出す。
「……っ、おう」
戸惑いながら、なんとか頷いて 優希の背中を追う。
駆け出しながらも、気になって 倒れている看守達を振り返った。
あの若い看守だけが居ない。逃げ果せたのだろうか。

「…誰も死んでないよ」
察した優希は前を見据えたままそれだけ言う。
その静かな声に、アキラは複雑な気持ちを持て余す。

「………………」
凄まじい空気だった。
そしてアキラの感覚が間違っていなければ、あれは優希が笑っていた若い看守に向けた殺気だったように思う。

『親が親なら、子も子ってやつ〜?』

タタタと軽く走り抜く優希の背中を、見つめる。

「……優希お前さ、強かったんだな?」
「えーなにそれ。今更だね」
いつもの軽口の調子が返ってきた。

「…なぁ、何で収容されてんだ、お前」
「…………死刑囚なんて、皆同じような罪なんじゃないかな」
口調は穏やかで世間話をするようなものだった。
でも、おそらく優希はアキラが踏み込んでくる事を警戒し、緊張している。
それを悟りながらも、アキラはそっと息をついて聞いた。

「……違ぇーよ。俺が聞いてんのは、"お前のこと"だよ」
「………さぁ?」
駆けながら、優希は肩越しにアキラを振り返った。

「…………何でだろうね…」
そう言って、ひどく悲しそうに 笑った。



■若い看守は、BUG純ちゃん。
美柴さんが何かしら重大なことに巻き込まれた設定、のはず(笑)



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