小説 | ナノ


▼ 夫婦

■未来捏造中鴇落書き。自分が分かればいいって書き方してます 悪しからずー(ぺこり)




〆切が近いからと向こうの家に篭っている中条から電話がきたのは、夕方前のことだった。
要件は「そっちの家に忘れ物をしたから持ってきてほしい」という事。

「どこにある?」
「プリンターの上か デスクの下にあると思うんだけどな」
携帯を耳にあてたまま、美柴は言われた通り リビングのパソコンデスク周辺を見渡す。
プリンターの上に重なっているファイルを二つ見つけた。
「二つある」
「あー…どっちだ…まぁいいか。どっちも持ってきてくれ」
「分かった。すぐの方がいいか?」
「いや、ちょっと休憩がてら仮眠する。そっちの手が空いたら来てくれればいい」
「じゃあ少ししたら行く」
「おう 頼んだ」
中条の声は どこかガラガラと掠れていた。
きっと徹夜続きなのだろうと 美柴は少し眉をひそめて携帯を切る。

中条がこちらの家で原稿を上げない時は、裏絡みの記事である場合が多い。
このファイルも、くれぐれも中は見ないようにと念を押されて 少し不安に思う。
けれど、お互いに仕事には妙な干渉はしないのが暗黙のルールだった。
もう若くないし、今は身を案じる存在があるのだから、あまり無茶はしないで欲しい。
そう思っても、なかなか上手く言えないものだ。


「……………。」
中条の家に来たのは、本当に久しぶりだ。
キーケースの中から 持ち慣れないそこの鍵を引っ張り出す。
一緒に暮らすようになってからも、中条は自分が住んでいた部屋を引き払わずに 書斎として利用している。
此処に美柴が出向く理由なんて、こうやって忘れ物を届ける時ぐらいしかない。
静香に「他に部屋があるなんて、いかがわしいとか思わない?」と言われた事があるが、美柴は逆にそうゆう部屋があったほうが良いと思っている。
………喧嘩した時や落ち込んでいる時など距離を置いたほうがいい時だってあるのだ。一緒に暮らしているからこそ…。
それに……これは他人には絶対に言わないが、……信頼している。一応。


カチャリ。鍵の回る音に、何故か少しそわそわした。
相手が中条とはいえ、他人の家に合鍵を使って入るなんて 久方ぶりだ。
仮眠をとると言っていたから、チャイムは鳴らさずに そっとドアを開けた。
案の定、もう夕暮れ過ぎだが家の中は薄く暗く 電気は点いていなかった。
「…。」
足を踏み入れる前から 煙草の匂いがむわんと鼻をつく。
玄関から続く薄暗い台所には 丸まったコンビニ袋がいくつも垣間見えた。
その先にある室内も相当散らかっていることが予想できて 若干頭が痛い…。

転がっているペットボトルや空き缶を拾い上げ、積み重なっている雑誌や新聞を跨ぎながら 美柴はようやく奥のワンルームへと到達した。

「………。」
台所と同じような光景は、やはり部屋の中にも続いていた。
汚い。ここまで来ると いっそ感心してしまう。

閉め切ったカーテン。備え付けのパソコンデスク。
薄暗い室内で、パソコンの画面だけがぼんやりと光っている。
壁際のスチール棚に乱雑に並ぶファイル帳。ペタペタ重ね貼りされているメモ。
部屋の真ん中には 湿気っていそうな布団が敷かれていて、その上でゴロリと中条が転がっていた。

「……ん…」
人の気配で既に目が覚めていた中条は、それでも起き上がらずに美柴にひらりと片手を上げただけだった。枕に顔を埋めて、まだ眠そうに愚図る。
美柴はそれに溜息で応え、静かに持ってきたものをデスクの上に置いた。
「……少し、片付けるけど。ゴミだけでも捨てる」
布団の中に向かって小さい声でそう声を掛けると、中条はやはり愚図った声で「頼む」と呟いて寝入ってしまった。

気力のない中条に やれやれと息をついて、美柴はベランダの窓を開ける。
どんよりと淀んだ汚い空気の中に さらさらと新鮮な空気が流れ込んできて、思わず深呼吸をしてしまった。
さて、と心の中で気持ちを切り替え、美柴の出張お掃除は まずは転がっているコンビニ袋の回収から始まった。




「……おぉ」
中条が目を覚ますと 部屋の中は床も空気もすっきりとしていた。
深く眠ったからか 身体も眠る前に比べるとずいぶん軽くなったように感じる。
起き上がる中条の元に、台所からちょうど美柴が戻ってきた。

「…とりあえず、捨てられそうなゴミだけ捨てた」
何が仕事に必要なものか分からない以上 下手に手を出せなかった。
美柴の性格としては もう少し整頓したいところではあるが、中条は満足げに頷く。
「ファイルはデスクに置いておいた」
「おぉ」
中を確認しようとデスクに立つと、ファイルの他に 小ぶりの紙袋も置いてあるのが目にとまった。
中を覗くと、白いタッパーと三角に握られた白飯が二つ、それと栄養ドリンクが並んでいる。

「……昨日の残り、だけど…」
どこか気恥ずかしげに呟く美柴に 中条はふと笑う。
からかう笑みではない。ほっと和らいだ静かな笑みだった。
「悪いな、助かる。正直、コンビニの弁当は食い飽きたし美味くない」
ちょうど腹減ったし、と言えば 温める と言って美柴がタッパーも持ってレンジに向かう。
「…そういえばこの家、テーブルがない…」
「あぁ、そこのダンボール台にして食ってる」
「…………ダンボール…」
「たいしたもん食うわけじゃねぇーし別にいいだろ。…あぁでも今度ちゃんとしたの買っとくか」
ほかほかと湯気をたてるおかずと おにぎり。
潰れそうなダンボールを囲んで 他愛もない会話を一つ二つ交わす。
こんな穏やかな空気が流れる時、互いに(良かった)と思う。
何がというわけではないが、とにかく、こいつで良かったと。

「お前また弁当持ってこいよ」
「……気が向いたら。」
こんな風に気兼ねなく甘えたり甘えられたりするのは、互いに自分だけなのだと そう 分かっている。だから、

「いつ帰ってくる…?」
「明後日には終わる、な。帰る前に連絡する」
「……分かった。待ってる」

待ってる、なんて 甘い言葉が言えるんだ。



■ただ日常の夫婦をやりたかっただけの落書き。笑



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