小説 | ナノ


▼ 仄暗い夢の先で

■物凄い短絡的な脈略無視の落書き。笑



美柴鴇は、驚くほど真っ暗な空間に居た。

「…………」
何が起こっているのか分からず、しばし呆然とその場に立ち尽くす。
自分は確か、先程までビズゲームで敵を応戦中だったはずだ。
足場が不安定な場所で、………そう、確か…

階下に落下した記憶が甦り、美柴はふと足元を見る。痛みは無い。
次いで 上を仰ぎ見る。あるはずの二階は無く、音も無い。

ぽっかりと浮かんでいる黒い空間に、立っていた。

「………………」
まさか自分は死んだのかと思う。
だが、これではあまりに実感がない。
どうしたらいいのか分からず、とにかく一歩足を踏み出そうとした瞬間、背後に人の気配がした。

「!」
思わず警戒露わに振り返る。
少し離れたところに 見覚えのない子供が一人、こちらを見ていた。
その子の周りだけ、ぽぅとほのかに明かりが灯っている。

「…っ」
誰だと問おうとして気がつく。声が出ない。
焦る美柴をよそに、子供は小首を傾げた。そっと笑う。

「こんにちわ」
「っ」
ゾクリと背筋が震えた。
声はまるで耳元で囁かれたかのようだった。子供の唇は動かない。けれど声は続く。

「僕は案内人。あなたは今、この世とあの世の境界線上にいる」
子供は ぺこりと可愛らしい一礼をしてみせ、美柴を見上げる。
「僕はあなたのように迷子になった魂に道案内をしています。いつまでも此処には居られない。生きるか死ぬか、あなたの魂はどちらの側のモノですか?」
「…………………」
言っている意味がよく分からない。
つまり、この子供が俗に言う死神というものなのか。

「大丈夫。もう声は出せるはず。僕が問いかけたら、それに答える術は与えられる」
「…………俺は、死んだのか…?」
「それを今から決めるんだ」
唖然と子供を見返す。けれど子供は じっと美柴を見据えたまま微笑む。
そのまま吸い込まれそうになって、はと我に返る。

「っ…今は、まだ死ねない」
「どうして?」
「………やるべき事がある」
「大丈夫、もう苦しまなくていいんだよ」
試されているのだと分かる。そんな不穏な笑みと言葉だった。
美柴は揺るがなかった。

苦しまなくていい?
苦しまなければ取り戻せないものだと覚悟している。
自分を守る為の道は、絶対に選ばない。

選ぶのは 鴫の為の道。

「俺は、自分の為には生きていない。」
自分は、鴫の為に苦しまなくてはいけないのだ。生きていなければならない。
「だから自分から死を選ぶことはしない。悪いが、今は死ねない。帰してくれ」
そうして、子供を強く見据えた。


「………………あなたの命は、あなたのモノだよ…」
子供は 少しだけ切なげに笑う。
「でもどんな理由であれ 生きていたいと思うなら、僕はそのお手伝いをする。」
ほっと安堵の息を零す美柴に 子供は一歩近づいた。
「だけど一つだけ条件があるんだ」
「………………」
代償を求める眼差しに 思わず怯んでしまう。
余命か、それとも大病を背負わされるのか。
ただならぬ子供の威圧感に、知れず指先が冷たくなった。

「あなたは未来、もう一度僕に出会う。その時、僕を全身全霊で愛すると誓って。」

突きつけられた条件は、思ってもみない誓いだった。

「……?それは、また死に際にお前と会うってことか…?」
「それがいつなのかは言えない。ただあなたは今ここで僕と誓えばいい。」
「……………」
困惑で眉を寄せる美柴に、子供は ふんわりと華やいで片手を差し出す。

「もう一度僕に出逢ったとき、あなたは僕の為に生きるんだ。」
確信をもって続けられる言葉に、美柴はますます不可解げに首を傾げる。
子供は そんな美柴を気にもせずに「さぁ」と誓いを促す。

「此処には長くは居られない。長居をしたら戻れなくなってしまうよ。さぁ、未来を誓って」
差し出された手は幼く 今にも消えてしまいそうに儚い。
もう一度子供の顔を見る。胸のどこかで 感じたことのない暖かさが灯る。不思議な感覚がした。

「………誓う。」

そうして、美柴は子供の手を握った。
自分の未来に何かを誓ったのは、思えば 初めてのことだった。
子供は嬉しそうに、頷いた。

「約束したよ。必ずだよ……鴇」
「!」

呼ばれた名前にビクリと反応してしまった。
なぜ知っているのかと聞き返す間もなく、突然暗闇は向こうから勢い良く光に弾き飛ばされていく。
超高速でトンネルを抜けていくようだ。息つく暇もなく、あっという間に光が目前に迫ってくる。
握っていたはずの子供の手は無くなっていた。

「ー…っつ!!」
眩暈がしそうなほどの眩い光に、顔を背けてぎゅっと目を閉じた。


「ねぇやっぱ救急車呼んだほうがいいんじゃないっスか!?」
「あ?……面倒くせぇーな」
「いやそこ面倒くさがっちゃダメですからぁ!」
聞こえてきた声に 覚醒した。
閉じていた瞼を ゆっくりと開けてみる。

「…………」

廃れた天井と傍らで言い合うチームメイトが見えた。
全身に鈍い痛みがあって、そういえば二階から落下したのだと思い出す。

「つーかいざとなったらコレ放置でいいんじゃねーの」
「ダメ!それダメ!絶対!」
「…………斉藤、うるさい」

痛みを押して 身体を起こした。
どうやら気を失っていたようだ。軽い眩暈に額を抑える。
隣に屈みこんでいた二人が 驚いて美柴を見た。

「わ!?生きてた!良かったぁ!」
「歩けるか?とりあえず勝ったからズラかるぞ」
「…っ…一人で立てる、から、いい」

乱暴に中条に腕を持ち上げられて 立たされる。
まだ頭が重く 視界が不安定だった。吐きそうになって 中条を振り払う。
………急な明かりに目が眩んだような、そんな感じだ。

「……?」
でも見渡しても、周囲は意識を飛ばす前と変わらず 薄暗い廃墟だ。

「…パトの音がすんな。行くぞ。美柴、お前歩けんなら早く来い」
「鴇さん大丈夫っすか??顔真っ青なんすけど…」
掛けられる言葉を無視して、美柴は自分の手を見つめた。
何かを握った感触が、残っている……。

「…………??」

自分で自分の身に起こっている事が分からず、美柴は一人 むーと眉を潜めていた。
斉藤は ひと足早く出ていってしまった中条を追おうとして、はてと美柴を覗き込む。

「鴇さん?え、ホント大丈夫ですか?頭打ったとか、どっか痛いとか」
「…うるさい。」
「えー!?心配してるのに!?」
「頼んでない。」
「ちょっとそれヒドくない!?」
「〜てめぇら喋ってねぇーで さっさとしろ!」

中条に怒鳴られて、二人はようやくそこから抜け出した。


この時、未来を誓った記憶なんて、美柴鴇には微塵も残っていなかった。



■自分の為がダメならば、あなたは僕の為に生きればいい。 11,9/28

……優希、かもしれないね!って話。笑



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