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■拍手ログ(中条が美柴に興味を持ったきっかけ)



それはAAAがビズゲームに参戦して一年ほど経った頃だった。

夜も更けようかと慌ただしい新宿の街。
中条は都庁前から帰路に歩いているところだった。

新宿二丁目は、徐々にメインストリートの仲通りを中心にゲイバーの看板が明かりを点らせ始めている。

仲通交差点の脇にある新宿公園は、日中はただのサラリーマンや野良ネコのたまり場だ。
しかしこの時間になると"そうゆう趣味"の男達が 待ち合わせに集まっていて、いかにもな雰囲気を漂わせている。

携帯片手に公園入口のポールに座ってる人影。
赤ワインのような髪色が視界に入った瞬間に 美柴だと直感した。
そのまま気付かない振りで通り過ぎる事も出来たのだが、素知らぬ顔をする前に はてと目が合ってしまった。
美柴も中条に気がついて 、む、と表情に戸惑いが出る。

「何してんだお前?」
新宿公園といえば有名なゲイの待ち合わせ場所。
中条はそれを汲んで、わざといやらしくニヤリと笑んだ。

「待ち合わせ、か?」
(……………。)
美柴は新宿公園の異名を知らない。
彼はただ、バイト先の店長と買い出しの待ち合わせをしているだけなのだ。
(………………。)
中条との"AAA"という奇妙な間柄。
それ故に正直に理由を話すことさえも何だか躊躇われた。

「……教えない。」
「………へぇ?」
けしかけた中条は 真っ先に否定されるだろうと踏んでいた。
冗談だよ、と鼻で軽く笑い飛ばしてやる気でいたのだ。
が、まさかの意味深な返答に 思わず妙な興味が沸いた。

(……斉藤じゃああるまいし)
下手な質問は出来ないな、と思案しているうちに 新宿公園を通り抜けて 美柴に近寄ってくる男が現れた。
「見っけーた」
年は30代手前だろうか。
あまりサラリーマンらしくはない身なりと声色で にこり笑う。
後ろから ぽんっと気軽に美柴の背を叩く様子に呆気にとられてしまった。

美柴にそんな態度をとる人間が無事に生きてるなんて信じられない。

「んん?友達?」
中条に気付いた男が美柴の隣で小首を傾げた。
「あ、ナンパ?」
そして先刻の中条のように にやんと笑む。
「どっちも違う」
美柴の低く厳しい口癖の即答に、男が笑う。
「なんで怒るんだよー 冗談だよ」
「……別に怒ってない」
あからさまに不機嫌な美柴の様子に、「んー」と苦笑いを返す男は それでも不思議そうに中条を見返す。

なら誰だ、と間柄を質問されても困る。
中条は先手を打って、美柴に頷いてみせた。

「あぁデートだったのか。そりゃあ邪魔したな美柴」
「ッ…うるさい」
「あコラ。そんな態度とるなよ、友達にー」
「〜違うって言った…ッ」
「はいはい」
心外だとキリリ睨む美柴を そう軽くあしらって、男は柔らかく笑った。

「悪いね、こんな奴だけど仲良くしてやって」
と、中条にも笑いかける。
美柴の知り合いとは思えないほど おおらかで人当たりの良い雰囲気だった。

(…仲良くっつわれてもな、そもそも友達じゃねーし)
何と答えていいものか。
中条は含み笑いで、適当に「あー…」と態度を濁らす。
「〜…ッ」
そんなやり取りを見た美柴は、途端にザッ!と踵を返すと ずんずん去って行ってしまった。

「あ!こら鴇ー?」
「……………。」
美柴の背中は むーと不機嫌で、頑として振り向かなかった。

「まったくもう、…悪いね」
困ったように笑う男が 中条に「じゃあ」と軽く手を振って、美柴のあとを追う。

「ずいぶん年上の友達だな?」
「…〜友達じゃない」
微かに聞こえた会話に、内心(2つしか違わねーだろ、まずそこ否定しろよ)と突っ込む。

「……………。」
二丁目に向かって 肩を並べ歩く二人を、奇妙な心地で見送る。


(……………へぇ?)
名前で呼んでいる人間がいることにも驚きだ。
あれだけ「名前で呼ぶな」と主張しているくせに。
しかも相手はやけに親しげで、美柴を大層可愛がっているように見えた。

そして美柴も それを根っから邪険にしている様子はない。
どちらかといえば、他人に恋人を見られるのが照れくさくて ついつっけんどんな態度をとっているようだった。

(…美柴がそっち側の人間だったとはなー)
事情を知る由もない中条には、二人は"カップル"としか思えなかった。
そして何よりも驚いたのは、

(…………意外だ)

『ッ…うるさい』
美柴があんな可愛い不機嫌顔をするなんて、知らなかった。





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