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『WINNER チームAAA』

待ち望んでいた勝利のアナウンスが聞こえたのは、目前の敵をようやく気絶させた直後だった。
ゲーム中にこんなに息が上がったのは久しぶりだ。
息を吐いた美柴が、バタリと倒れた相手を見下ろし、次いで傍らで同じく意識を飛ばし転がっているもう一人の敵を見た。
まさかこのステージのこのタイミングで 二対一を強いられるとは思わなかった。
なんとかラストまで持ちこたえた安堵感に溜息が漏れる。

「うわー!怖かったぁー!!」
振り返ると、斉藤がそう声を上げて へたり込んでいた。

確かに 今回はスタート時から相手の手強さを感じていた。
そんな一人とやり合っていたはずが、どこでどう間違ったのか 逃げ回る斉藤を視界の端で捉えてしまった。
(!?)
お前は隠れてたんじゃないのかとかなり驚いたあげくに どう考えてもディスク持ちの斉藤を守るのが最優先だ。

望んでもいないのに 二対一。しかも全く弱っていない二人相手だった。

結果はこうして勝利だったから良かったものの……


「てか鴇さんやっぱ強ェー!俺こっち走ってきて良かったぁ〜…!!」
「……………………。」
この目を輝かせる大型犬に 多少イラッとしても許されるだろう。
中条さんならきっと”多少”どころの話じゃない。

「……隠れてたんじゃないのか」
「え!いや、あの、」
急に口ごもる斉藤の様子を 美柴がじーっと見る。
無言の重圧に観念した斉藤は へらりと引き攣った笑顔。

「あそこ、狭くて。」
「……………………。」
「ち!ちょっとだけ!ちょっと外の空気が吸いたかっただけなんスよ!」
「……お前は一時間も我慢できないのか」
「〜だってさ、この猛暑であんな所に一時間も篭ってたら死んじゃいますよ…!」
「それでも篭ってろ。」
「ちょ!それ遠まわしに死ねって言ってますよ鴇さん…!」

衝撃を隠さない斉藤を無視して、美柴は足早に出口へと歩き出す。
スタスタ去っていく美柴に納得いかないのか、斉藤は慌てて追いかけて食い下がった。

「〜でもでも!俺が死んでたら こうしてディスク守れなかったかも知れなくないっすか!?」
「……そうだな。でも斉藤の心配はしてない」
「えー!俺 いっつも中条さんと鴇さんのこと超心配しながら毎回隠れるのにー」

「だったら最後まで大人しくしてろ」
そう言い返そうと思ったところで、ヘコんでいた斉藤の表情がまたパッと変わる。

「あ!中条さんだ!」
前方、煙草を吹かす長身を見つけ 斉藤が大きく手を振る。
「中条さんもどこも怪我してなさそーッスね!良かったぁ〜」
そして、今度は何か思いついて勢いよく美柴を振り返る。
「そーだ!ねぇ鴇さん 中条さんにも聞いてみましょーよ!」
「…?何を」
「絶対あそこに篭ってたまんまじゃ俺が死んで、ゲーム不利だったって…!」
「……………。」

(……それは墓穴掘るんじゃないか…)
絶対の自信を持って提案してきた斉藤に、美柴は思った事を言わずに 「…好きにしろ」と放棄した。
自分がこれだけ言っても効かないのだ。中条さんに蹴られてしまえばいい。


案の定。


「ぁあ!?斉藤てめぇ1時間も大人しくしてらんねぇーのか!?」
「痛ーっ!」
「余計な事しねぇーで隠れてりゃいいだけだろうが…!いっそ俺が沈めてから押し込んでやったっていいんだぞ」
「そ、それはヤダ…!なんか中条さんに沈められたらもう目が覚めない気がする…!」
「だったら美柴にやってもらうか?なぁ?」
「分かった。首を折ればいいんだな」
「〜〜やだ!どっちもやだ!ごめんなさい…!」


そして。


「美柴ももっとちゃんとアイツの行動見てろよ?一番近くにいたんだろーが」
中条と美柴が帰る方向が重なり 道すがら反省会。

「……ゲーム中に自分から出てくるなんて思わなかった」
「あのバカが規格外なのは分かりきってんだろ」

…確かに。散々蹴られても 別れ際にはケロリとしていた。
笑顔で「またメールしますねー!」なんて恐ろしい発言まで残して…。

「だいたい美柴もなんであんな方に居たんだ?」
何気ない中条の問いに 内心 まずいと思った。

「裏から回るはずだったろ。こっちから回っても居ないからまた迷子になったかと思ったじゃねーか」
「……物音が聞こえたから、敵だと思って」
「それが斉藤と相手だったのか?だったら俺と合流するまで待ったって良かったんだぞ」


「……………ネコだった。」
「……………………お前はよ…」



■ネコだと分かった時のショックといったらなかっただろうね。笑


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