小説 | ナノ


▼ 落書き(優希アキラ・学園黙示録ぱろ)

■学園黙示録パロ。
少年ズ(優希アキラまちゃ)と大人ズ(鴇中条アキラママ)が合流後、偶然に奈緒ちゃんを発見。
7人はとりあえず落ち着く為に人様のお宅に篭城しました。





三日ぶりの風呂。
先に女性陣が使って、深夜になってから男性陣が順番に。
雅紀の次にシャワーを使ったアキラは肩にタオルをかけて、パタリと洗面所のドアを閉めた。

万全にバリケードを築いた玄関を見る。しんと静まり返っている薄暗さが逆に気味が悪かった。
「……………」
ここがどこの誰の家かは知らないが、奴らに侵入を防ぎやすそうな高台の立地だった。
おそらく今、優希がベランダで見張りをしている。

まだライフラインが使えるうちに風呂に入れたのは幸いだ。
なんとか鴇、中条、母親と合流することも出来た。
このエリアを抜ける際に偶然、奈緒とも合流した。
アキラは内心奈緒の生存を心配していた。でも連絡手段のない中、その心配を口にすることはなかった。

(…………八雲さん達は)

そこまで考えて止めた。
ちょうどキッチンの方から奈緒が出てきたからだ。
さっきまで着ていた服とは変わって、スポーティーなTシャツとホットパンツ姿。
奈緒も風呂上りだと思うと内心ドキリとした。

「……よ。何、着替えたの?」
「あ、うん…二階に女の子の部屋があって……そこから…」
奈緒は複雑な笑みを見せた。
誰かも知らない女の子のクローゼットを漁る。そこに罪悪感が沸かないほど奈緒は頑丈じゃない…。
けど、奈緒の服は奴らの返り血や転んだ泥で汚れていたのだ。致し方ないことだ。

「ま、ちょうど良いのあって良かったんじゃね?…あー、俺も着替え探してみっかな」
どこかぎこちないアキラの気遣いに、奈緒は少し笑った。
「さっき雅紀くんも服探してたみたいだから、聞いてみるといいよ」
「おォ…つか何それ」
奈緒は両手に茶碗を持っていた。中身は暖かそうな煮物だった。
「煮物、アキラ君のお母さんと作ったの。明日お弁当にも入れられるし」
にこりと笑って 「食べてみて」と差し出された。
「…弁当って……遠足かよ」
苦笑いで 摘んだ人参を口に放る。味が染みていて美味かった。
「美味しい?」
「ん。まぁまぁ」
「まぁまぁ?」
「ふつーに美味いって意味だよ」
少し不安げに聞いてくる奈緒に 悟った。

「―…優希なら多分、ベランダで見張りしてる。」

「え、あ…!うん…皆に味見てもらってきてって…言われたから…うん、」
気恥ずかしそうに笑う奈緒を見て ああと思う。
チクチクと小さく痛む胸を無視して、アキラは笑って 奈緒に道を開けた。

「サボって寝てたらぶっ飛ばしていいからな」

ふふと笑った奈緒は、足早に階段を上がっていった。




―ーー……





座り込んだベランダの柵から両足をブラブラと投げ出して、優希は息を吐く。
コツリと額を柵にぶつけ、家の前を見張る。
閑静な住宅街。どの家も電気は消えていて、街灯がチカチカと瞬きながらアスファルトを点々と照らしていた。
たまに ゆらゆらとおぼつかない足取りの奴らが一匹二匹通りかかるが、こちらに気づくこともなく街中に消えていく。

「…………」
傍らに置いてある日本刀に触れる。
途中に飛び込んだ骨董店で盗んできたものだ。これで一体どれだけの奴らを斬っただろう。数えている暇もない。

「…優希くん」
カラリと窓の開く音と奈緒の声に振り返った。
少し戸惑っている様子の奈緒に、優希はそっと微笑む。
「どうしたの?風邪ひくよ」
「大丈夫。これ」
奈緒が手に持った茶碗を見せてベランダに出てくると、ちょこんと隣に座った。

「アキラ君のお母さんと作ったんだ。味、どうかなって思って…」
差し出された茶碗の中からじゃがいもを摘んで 口に運んだ。
「美味しいよ、食べちゃってもいいの?」
「うん、…優希くん、さっきあんまりご飯食べなかったでしょ?」
バリケードを築いた後、全員で腰を据えて明日からの行動を決めながら 食事をしたのだ。
けれどあの時はまだ優希は斬った奴らに気が高ぶっていて 食欲が湧かなかった。
鴇にはそっと背を撫でられて心配されたが、まさか他の人にも見抜かれていたとは思わなかった。

「…ありがと。もう大丈夫だよ」
安心させるように微笑んで、優希は茶碗を受け取った。
遣いを終えたはずの奈緒は立ち上がらず、そのまま優希の隣で同じように街を見ていた。
そうして、優希が煮物を空にするまで 二人はしんしんと静かな眼差しで外を見ていた。



―――………



「……あっちは、騒がしいね…」
不意に奈緒がそう呟いた。
あっち、とは遠方に見える明るいエリアのことだ。この地区から出る為に欠かせない橋。その辺りだ。
おそらくまだ生きている人々と、奴らと、攻防している軍や警察の喧騒だ。
先ほど、鴇と中条がリビングでテレビを見ていた。生中継で放映されていたそこの光景は、まるでゾンビ映画のようだった。

「……皆あそこに集中してるんだろうからね…」
たまに聞こえる 拡声器越しのような割れた声のようなもの。重機が動いているような音。
たった三日で地獄絵図。自分達のように、こうして篭城している人達も居るだろうが、きっと絶望しているだろう。
しかし自分は意外に冷静だ。鴇達と合流したことで幾分気持ちに余裕も出てきたように思う。
奴らを”人間”だと思う気持ちが、完全に薄れてきている。アレを殺す罪悪感が…達成感に成り変ろうとしている。
もしかしたらもう頭がおかしいのかもしれない。

「…………お兄ちゃん達は、」
思案に耽る優希の耳に、奈緒の声が入ってきた。
震えている、掠れた声。
見れば、奈緒は真っ青な顔で自分の肩を抱いていた。

「…明日、大学の近くを抜けるから…その時に見つかるかもしれないよ」
出来るだけ柔らかい声で、優希は奈緒を見た。
けれど奈緒はぎゅっと唇を噛む。
「………生きてる、かな…」
「…………………。」
きっと、その不安を口に出したのは初めてだったのだろう。
奈緒は途端、ぽろぽろと涙を零して、俯いた。
「お兄ちゃんも、晴香ちゃんも……誰にも…連絡とれないし、私、ずっと…っずっと独りで…!」
小さくなる奈緒の背中が痛々しくて、優希はその背中を何度も優しく擦った。
約三日間、奈緒はどんな想いで逃げ回っていただろう…。見つけた時には既に服に返り血が染み付いていた…。
自分は鴇と中条と早々に連絡がとれ、こうして行動を共にできている。そんな身分で、奈緒に 大丈夫だよとは安易に言えなかった。けど、それでも、

「今は、独りじゃないよ」

例え八雲達がどうなっていたとしても、奈緒はもう独りじゃない。
優希は嗚咽する奈緒の頭をくしゃりと撫でた。
ゆっくり、奈緒は涙顔を上げる。
女性の泣いた顔は苦手だ。どうしても胸を締め付けられる。悲しい思いを、してほしくない…。

なんて言葉を掛ければいいのか戸惑った。
けれど静かに赤い目元を見つめ返していると、奈緒が一瞬苦しそうな吐息を零して、胸に飛び込んできた。
予期せぬ強い勢いに、優希は「わ」と後ろに倒れる。
「…あ、え、…!?」
薄着姿で密着している。押し倒された体勢にさすがに動揺した。
それでも奈緒は退かず、優希の上で声を殺して泣く。顔を隠すように肩口に埋めて、ううと苦しげに…。
「……………」
我慢、していたんだろうな…。そう思うと、動揺は消えて 切なく静かな気持ちに変わった。
ぎゅっと両肩にしがみつく奈緒の指先を感じて、優希は小さく息を零す。

夜風に晒されて冷えていた体温は 触れ合ってる所だけが上昇して、けれどそこにやましい熱は生まれなかった。
まるで子供を寝かしつけるような…そう記憶にある、鴇が自分を抱きとめる時のような慈しむ感情で、優希は奈緒の背中と頭をそっと抱いた。
奈緒の嗚咽が落ち着くまで、優希は何もせず、奈緒を抱きしめていた。

「……っ…優希くん…っ」
重なっていた奈緒は 意を決したように顔を上げた。上半身を起こして、優希の胸に手を置く。
倒れたままの優希を見つめて、でも気持ちが苦しくて、涙は止まらない。
優希は起き上がろうとせず、そんな苦しむ奈緒をじっと見ていた。

「っ優希くん…もし…!」
「……うん?」
「もしも、…お兄ちゃんが奴らになってたら……っ!」

その例え話は、奈緒の中で絶対にあって欲しくないことだ。
でも、………考えずにはいられない。
もしもこの世で唯一の血縁者が、人間ではないものに成り変って…生きた人間を喰うようなモノになってたとしたら……。

苦しくて堪らず、優希のシャツを両手で強く強く握り締める。
優希を、まるで睨むように、涙を溜めた眼差しで鬼気迫る表情で見た。

「すぐに殺して……!!」


悲痛な掠れた悲鳴のような声。
自分が発した言葉の重さに、奈緒は息を詰める。

「嫌だよ…っ…お、お兄ちゃんがあんな風になってたら…!嫌…お兄ちゃんが…!!」
嫌と何度も言う。ふるふると首を振って、優希の胸を床に押さえつけるように叫ぶ。

「…………………」
優希は、しがみつく奈緒の両手を包むように握った。
身体を起こして、奈緒を真正面に見据える。
濡れきった奈緒の頬に指先を沿えた。

平静を失った奈緒は泣きながらふぅふぅと荒く呼吸を繰り返す。
それでも一生懸命に、優希を見つめ返す。懇願するような瞳が、優希に縋る。

「…………………」
奈緒の下まつ毛の隙間から、涙が零れていくのを見た。
優希は落ちていくそれを親指の腹で拭った。

「……分かった。もし、八雲さん達がそうなってたら、僕が殺す。」

目を反らすことなく、そう宣言した。

「だから、安心して…」

自分でも可笑しな言葉だと思う。
大切な人を殺す前提で、それで安心をしろと言うのだ。狂ってる。

「……っ優希くん…」
奈緒はぎゅっと瞼を強く閉じて、うん…うん…と何度も頷いた。まるでこれで大丈夫だと自分に言い聞かせるように…何度も、何度も。

「…………奈緒ちゃん……」
握り締め合っている手の平は熱く、けれど心はどこか冷えていく。
自分の優しい声が、心底恐ろしくなった。 


「……大丈夫だよ…」



何が?






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