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▼ ケンカ

■優希アキラの喧嘩。脈略なしの説明なしです あしからずー(ぺこり)



美柴宅。リビングで、今、少年二人が厳しい表情で睨み合っている。

優希とアキラが喧嘩するのは 格段珍しい事でも何でもない。
幼い頃から一緒にいる二人は いっそ兄弟のような関係で、殴り合いとまではいかないが 小さい揉め事なんてしょっちゅうあることだ。

しかしたまに お互いが傷つくような大きな喧嘩をすることがある。
それが、今だ。


「……おい、なんとかしろよ。俺は飯を食いに帰ってきたんだぞ」
「……分かってる」
ダイニングに向かい合って座った中条と美柴は こそこそと小さな声で、子供達を見やる。
中条の隣には 強い目で優希を睨み付けて 今にも飛び掛りそうなアキラが仁王立ち。
美柴の隣には 冷めた目でアキラを見下すように睨み付ける 優希が仁王立ち。

(殴りたければどうぞ)とでも言う様な、そんな相手の神経を逆撫でするような態度をとる優希に アキラはキレる。

「〜いい加減にしろよ!お前なんかには分かんねぇーんだよ!!」
原因が何なのかは、中条も美柴も分かっていない。
二人が夕飯に帰ってきたかと思ったら、本当に急に始まったのだ。

(そうやって 何でも自分ばっかり不幸みたいな言い方、しないでよ)
「自分だってそうだろ、人の事言えんのか!?」
(僕は自分を不幸だと思ったことは一度もない!)
「だったら声に出してしゃべってみろよ!!出来ねぇーだろーが!!」
(!!)

多分それが、優希の起爆スイッチだった。

テーブルの上、美柴の前に コーヒーを汲んだばかりのマグカップがあった。
優希の手がそれをあっという間にさらったかと思ったら、思い切り振り払って 中身をアキラにぶちまけたのだ。

「熱っ…!!」
「ぶっ!?」
「な、!?」

コーヒーは勢いあまって アキラの隣に座る中条にもぶちまけられた。
というより、どちらかと言えば 中条のほうが被害大だ。
シャツはコーヒーまみれで、咥えていたタバコもしゅんと萎んで消えてしまった。
「〜〜!!おい優希てめぇ!!」
「優希やめ、」
怒鳴る中条を片手で抑えつつ、慌てて美柴が優希からカップを取ろうとしたが、ほんの一瞬遅かった。
コーヒーを撒いた次の瞬間には、優希は綺麗なフォームで マグカップをアキラに向けて 投げつけていた。
ヒュン!とまるで野球ボールのように空気を切って投げつけられたマグカップは、アキラの額に直撃した。

「痛!…〜〜っ!!」
ゴン!と嫌な音をさせて、カップはアキラにぶつかり 落ちる。
アキラは激痛に額を押さえて よろけた。
くっと唇を噛んで、しかし負けずと優希を睨み付ける。

「てめぇ!!…、!?」
しかし、罵詈雑言は続かなかった。

「…優希、っ…………」
叱ろうとした美柴も、
「優希お前な、………」
批難しようとした中条も、

(〜〜〜〜!!!!!)

優希の牙剥き出しの表情に、圧倒された。
本当に、本当に怒っている人間というのは、他の人間をただ視線だけで黙らせる迫力があるらしい。

「…っ」
さすがのアキラも そんな怒り絶頂の優希の気迫に圧され、言葉を飲んでしまった。

誰も何も言わず、優希の棘ばった空気に押し黙る。

(アキラ、死ね!!!)
「!?」
「ぁあ!?」
焼き切るような鋭い睨みを効かせた優希は、しばらくするとそう指で吐き捨てた。
まさかな言葉に 美柴が目を見張る。しかしそれ以上に アキラが噛み付く。
「待てよ てめ、」
引きとめようとしたアキラを 思い切り突き飛ばし、優希はリビングを出て行った。
バン!ガシャン!と乱暴に 自室のドアが閉ざされて、周囲は一気に静まり返った。


「…………………くそっ!」
額を押さえたアキラが 忌々しげに舌を打って テーブルの足を蹴飛ばした。
そうして、微かに しゅんと背中を丸くして 落胆した。
……言い過ぎたと、分かっているのだ。
美柴がその俯いている額にそっと手を伸ばした。

「……大丈夫かアキラ…」
「おい俺にもかかったぞ」
自分を素通りした美柴に、間髪いれず中条がそうぼやく。
美柴は「アンタはどうでもいい」とでも言うように 手近にあったタオルを中条に投げた。
適当に扱われた中条は む、と不機嫌に顔をしかめたが 大きく溜息を吐いて 濡れたシャツを拭く。

「アキラ、手どけろ…」
「………別に、平気だって。痛くねぇーよ…」
「いいから。」
美柴の本当に心配している声色に、アキラはゆっくりと渋々手を退ける。
酷く赤くなってはいたが、切れてはいないようだ。
出血がないのを確認して、美柴は一旦胸を撫で下ろす。

「……悪いな…」

そしてそれが、アキラの起爆スイッチだった。

「っ!なんで鴇さんが謝んだよ!!ふざけんな!!!」
「!?」
急に爆発したアキラに 美柴はきょとんと目を丸くする。
次いで中条が やれやれと呆れた。
「おい、当たる相手間違えてんじゃねぇーか?」
「っるせぇーよ!!黙ってろ!!!」
「黙ってて欲しかったら くだらねぇー八つ当たりすんじゃねぇーぞガキが」
誰彼構わず噛みつくアキラに、中条は低いドスの入った声で静かに説く。
「……〜〜〜!」
行き場のない苛立ちで、アキラが顔を歪める。ぎゅっと強く握った拳が震えていた。
「〜〜〜〜〜ッ!!!!」
そして耐え切れなくなったのか、ダッと駆け出して そのまま乱雑に玄関から家を出て行った。


「………………」
「………………」
玄関のドアが 閉まる音を聞いてから、中条と美柴は目を見合わせる。


「…………困った。」
「………ま、ガキの喧嘩に大人が首突っ込むなんて野暮だしな。ほっとけ」
「………優希があんな事言うとは思わなかった」
「俺もまさかコーヒーぶっかけられるとは思わなかった」
「それは運が悪かっただけだろ」
「どうだかな、もし此処に座ってるのがお前だったら あいつ絶対器用にアキラにだけコーヒーかけてたぜ」
「……………………………そんなことない」
「長い間だったな今の」

確かに自分だったら、と内心思いつつ 美柴は床に転がったマグカップを拾い上げる。
持ち手が バックリと割れてもげてしまっていた。

「………………………………」


二人が仲直りをしたら、買いに行かせよう。

そう思いながら、そっとテーブルにマグカップを置いた。



■ほんと、何が原因で喧嘩してるのこの子達……笑”
ただ単に とばっちりに遭う中条さんと 美柴さんに八つ当たりされて怒る中条さんを書きたかった。笑





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