小説 | ナノ


▼ 自問他答

■曖昧な関係な頃の中鴇。中条さんがちょっと色々自覚する頃。性描写注意。




「…お前は、なんで家に来るんだ?」
中条が そんな不可解な話を始めたのは、湿った布団の上へ美柴を押し倒した直後だった。
ベッドの上、さっきまで散々舌を絡ませるキスに呼吸を奪われていた美柴は 突然の質問に一瞬目を丸くした。
はぁはぁと肩で息をして、一気に上がった体温を落ち着かせる。

「……………。」
これは、中条が好む意地悪な言葉遊びの前兆だろうか。
だとしたら自分が敵うわけがない。
美柴は何も言わず、少し強く中条を見返した。

「……………………」
押し黙って答えずにいれば、中条はいつものように愛撫に移るだろうと思ってた。
けれど、一向に動きがない。じっと測るような目で 見下ろしてくる。

何か、試されているような気分だ。
……何かは分からないけれど。

妙な沈黙で、どうしたらいいのか分からなくなった。
中条の意図が分からず 美柴は苦し紛れに うんざりとため息をついた。

「…じゃあなんであんたは俺を家に呼ぶんだ」

質問し返して、今度は美柴が中条の出方を待つ。
聞き返されると思わなかったらしい中条は、少し 冷めたように笑った。

「………まぁ 気まぐれ、だろうな?」
「だったら俺もそうだ。」
「………へぇ、そうなのか」
「…なんだ、さっきから」
「…別に?」
組み敷かれて強く睨む視線と 見下ろしてせせら笑う視線。
セックス前の空気とはとても思えない、不穏な探りあいだ。

「…………帰る。」
馬鹿らしくなってきた。
美柴は身体を起こそうとしたが、上にいる中条はそれを許さない。
どんと乱暴に肩を押されて また背中がシーツに落ちる。
ギシリとベッドが沈み、軋んだ。
「帰さねぇーよ…」
「っ…」
勝手に不機嫌をぶつけてくる中条に苛立って、抵抗した。

乾いた両手で頬を囲われて 無理矢理 顔を中条に向かせられる。
覆い重なる二人の間でぐっと濃くなる煙草の匂いに、キスをされると悟った。
引き剥がそうとしても外れない中条の腕に爪を立てて、ぎゅっと強く瞼を閉じた。

「ッ、…はッ」
きつく結んだ唇を撫でる中条の舌に 身体中がゾクゾクする。
絶対に侵入させてなるものかと思っているのに、堪えているのが息苦しくて結局受け入れてしまう。
顔を背けようとしても 両頬を手の平が抑えていて逃げ場がない。
器用に 指先で耳元を弄ばれる。くすぐったくて甘い感覚に妙な声を上げそうになった。
このまま流されていく自分が分かる。

「こうゆう事するって、分かってて来てるよな…?」
思い知らせるように ゆっくりとキスを中断して、低い声で囁く。

「…お前はなんで、俺の誘いにノるんだ?」

また、その質問。
ここまで人を翻弄しておいて、なんだってそんな事に拘るのか。
いい加減 身体も気持ちも焦れてくる。


「………別に理由なんか何だっていいだろ」
熱っぽい呼吸をしながらも、美柴はとても投げやりにそう言い 中条から視線を逸らした。
『どうでもいい』
その美柴の態度が、無性に気に入らなかった。

「俺とヤリたくて来てんなら、たまには誘ってみせろよ」

わざと、挑発する言い方をした。
息を上げて横たわる美柴は不満げに、そして徐々に怪訝そうに眉を寄せた。
何かに気がついたように ため息を吐く。

「………今の…俺にそれをさせたくてか?」
こっちから「欲しい」と言わせるが為の無理問答と強引なキスだったのか。
だとしたらなんて遠まわしな注文の仕方をしてくるのか。
もっと他の、穏便なやり方があるだろう。
………自分がその注文を承諾するかどうかは別にして。

「……まぁ、そんなとこだな」
むっと気に食わない顔で見上げてくる美柴に、中条は内心 苦笑していた。
本当は違うところに意図があるのだが、別に相手に知られなくてもいいことだ。

「いつも俺がご奉仕してやってんだからよ、たまにはそっちからってのもアリじゃねぇーの」
「……俺は中条さんに奉仕してもらった記憶は無い。」
「じゃあ何回俺でイッてるか、最初から数えてやろうか?」

本当に指折り数えだす中条に観念して、美柴は「分かった」とその手を遮る。

「…………。」
そうして 自分なりに『誘う』という行動を考えてみた。
しかし何をするのが正解なのか分からない。
美柴が悩んでいる様子に、中条はふと笑う。

「ひとまず、お前からキスしてこいよ」
「!」
思いがけないヒントに 美柴は少しギクリと肩を揺らした。
今、中条は美柴に覆いかぶさっている状態だ。それでこちらから身体を起こしてキスするとなると、本当に……欲しがっているみたいだ。

「触れるだけのじゃねぇーぞ。ちゃんと、舌もお前から、だ」
「っ…」
「出来ないのか?」
中条は美柴が躊躇している様子に、ここぞとばかりに意地悪く笑む。
美柴の性格で そんな事が簡単にできるとは思っていない。
ちょっとからかっているつもりだった。

しかし予想に反して、美柴は一瞬、覚悟を決めるように息を飲んだ。
思い切って中条の首に両腕を回してくる。
「………………。」
「………………。」
もう少し美柴が首を伸ばせば唇が触れる距離で、じっと視線が交差した。
中条は微動だにせず、美柴を待った。

「………………。」
「…おい早くしてくれ。お前は俺の首を攣らせるつもりか」
「…〜ッ」

しかしやはり くちづけは、やって来なかった。
ははっと軽く笑って 中条は美柴の腕をそっと解く。
美柴は身体をシーツに沈めて はぁと息を吐く。

「………思ったより、難しいな」
枕に甘えて、そう悔しげに呟く。

恥ずかしさを誤魔化すようなその仕草に、不覚にも欲情を煽られた。





自分がどうして美柴を誘うのか、分からない。
ヤリたいから…?
…少し違う。そこまで欲求不満ではない。
ただの気まぐれ…?
……気まぐれでこんなに関係が続くものだろうか…。


「ッ…んンッ」
美柴が悦ぶ場所は もう全部知り尽くしているように思う。
なのに、もっと溺れさせたくて 執拗に指で中を探っていく。
喘ぎを必死に堪える唇を看破して、二人分の唾液を混ぜ合わせる。



一緒にいて会話が弾む仲ではないし、心の底から信頼を置いている関係でも決してない。
なのになぜ、こうして誘って、誘われるのか……
なぜ、『どうでもいい』と言われると あんなにも腹が立つのか……



「…ッ中条さ、ん」
暗に(もっと)と強請る呼び声と表情が 満足感を満たす。
美柴の膝裏を抱えて、ぴたりと挿れる寸でで止める。
「あ、」
微かに欲しがって揺れる腰がたまらなくて、額にキスを落とした。


一夜限りなんて淡いものでもなく、セフレと言うにはあまりに納得できず、恋人と呼ぶには程遠い関係。
今まで関係をもったどの女の部類にも分けられない、奇妙な存在。


………こいつは俺の何なのか…。


「ッ…」
いつも、額にキスをすると 美柴が小さくほっと息を零す。
(安心している)そんな吐息に 存分に煽られる。
成長した熱を、少し強引に狭い中へ送り込む。
すべて収まるまで ぐっと苦しそうに堪え、奥まで届くと ゆっくり力が抜けていく。
ギシギシとベッドの軋む音の間で 小さな声が聞こえ始めた。


最初 美柴は……それこそ大勢の中の一人、ぐらいだったように思う。
それがいつの間にか この声が一番中条を夢中にさせている。
なら、対して美柴は他の誰かでこうやって乱れることがあるのだろうか。


………こいつにとって俺は何なのか…。


「!」
ぐいと急に強く襟元を引き寄せられた。
見やれば、どこか責めるような眼差しとぶつかった。
驚いて 腰を止める。

「なんだよ。もっとヨくしろってか?」
「……何か、考えてる…だろ。さっきから、ずっと…」
「…だとしたら何だ?」

「余計なこと、考えるな」

美柴は強く、中条を見てそう見た。

「…………………。」
それは、(自分だけを見ろ)という意味なのか。
どう捉えればいいのか、分からない。しかし…


「…お前は卑怯だな」
「ッん!な、」
一気に 腰を強く打ちつけた。
こうして身体を攻め立てているのは中条のほうなのに、口説き落とされているような気がしてならない。
美柴にはそんなつもりはきっと微塵も無いだろう。
それが、少し気に入らない。
けど、『どうでもいい』と言われるよりもずっと駆り立てられた。


「っ!ん、あ、〜っ!!」
加減もなく 良い場所を力任せに貫く。
急なペースに 美柴がもがく様に背中にしがみついてきた。
二人の間で起ち上がって震えている美柴の熱を、握り込む。
「〜ッ、ンんッ…それ、や、め、」
中も外も弄られて 嫌々と必死に美柴がかぶりを振る。
限界が近いのは、中の熱さと収縮でよく分かる。
中条は膝が胸に突きそうなほど 美柴の足を深く抱えて、腰を撃った。

「は…ッん、んぁ」
「…ッ…」
余計なことは何一つ考えていない。
ただ身体に返ってくる火傷しそうな摩擦と 言葉になっていない控えめな嬌声を追った。

「っや…ぁ!」
腫れ上がった先端を親指でぐりぐりと苛めると、美柴が息を詰まらせた。
中条に押さえられて自由に出来ない足が、強い快感から逃げようとバタバタ暴れる。
構わず もっと奥へ、もっと奥へ、限界まで昇りつめる。
そうして、

「くぁ、…!!!」」
美柴がビクンと背筋を反らせ、二人の間が白い体液で濡れた。
指と腹のぬめる感触に 中条が満足げに笑んで、同じように ん、と息を詰まらせ ラストを迎えた。



気だるさと疾走感を纏い、身体と呼吸を整える時間。
あーと力尽きて 枕に突っ伏す中条は、ふと隣の美柴を見る。
目を閉じて ゆっくりと深い呼吸を何度もしている横顔。
単純に、綺麗だと感じる。
そっと紅い髪を流して 頬に触れてみた。
羽で沿うようなこそばゆい感触に ん、と美柴は薄く目を開けた。

「……美柴」
「…………。」
呼べば 眠気と戦いながらも こちらに視線だけ向ける。

「…美柴」
「……聞こえてる…」
ぼんやりと不思議そうな目をする美柴に、中条はそっと笑った。

「なぁお前、試しに好きって言ってみな?」

静かで意地悪な声に、瞬間、惚けていた美柴は目を瞬かせる。

「……??なんて…?」
「俺に、好きって、言ってみろ」
聞き間違えかと怪訝な美柴に、中条はもう一度よく聞き取れるよう 言葉を区切って同じ事を言う。
今度こそ、美柴ははっきりと目が覚めて 眉を寄せた。

「…なんで。」
「試しにだよ」
「……………」

馬鹿じゃないのか、そう言い放って寝ようとした。
けど、中条の様子は いつものからかい半分ではないように思えた。

「……そんなこと言って、どうにかなるのか」
「それを知りてぇーんだよ」
「………………。」

もしかしたら、今日一日 中条の思考がループしていたのはコレなのだろうか…。

仕方ないと溜息をついてから、中条の方に寝返った。
受け止めるように 中条が腕を柔く広げて、美柴を抱く。
珍しく、甘えるように紅い髪に擦り寄って顔を埋めてきた。

「……、」
今日の中条は何か変だ。
どうかしたのかと 思ったままに尋ねられない自分が、少し歯がゆい。


「……一回、だけだ…」
「あぁ…一回でいい」

『誘ってみろ』と言われた時と同じだ。
何もしてやれないし、何をすればいいのかも分からない。
だから、中条の注文を 受け入れてみることにした。



「……好きだ…」



内緒話のように、少し掠れた声で そう言った。


「……………」
中条は何も言わず、ただ息をひそめて 美柴を抱きしめた。


「……………」
けれど、これで何かが変わったのか、美柴には分からなかった。




■この二人は、こうゆうちぐはぐな時間が長かったんじゃないかと思う。
中条さんは、肝心なことを言わなかった人のように思う。

………なぜ過去形?笑”



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