小説 | ナノ


▼ 思い出。

■ちび優希+美柴さん+中条さん




「あ?何だこのファンシーなぬいぐるみ」

日当たり良好の暖かいアトリエ。
ソファーでごろり転がるアキラは本棚に手を伸ばした。
画集や専門誌が並ぶ本棚の上に、有名なクレイアニメの主人公であるペンギンが座っていた。

「こんなんあったっけ?」
年期が入っていそうなそれを ポイと優希に投げる。
両手でキャッチした優希は ぬいぐるみを見て くすりと笑った。

(ゲーセンで取ったの)
「お前が?つかお前ゲーセン行った事あんの?」
(中条さんが、だよ。僕がもっと小さい頃。)
「……へぇー…」

懐かしげにぬいぐるみを見つめる優希の横顔を見遣ってから、アキラは にししと意地悪を思い付いて笑う。

「てかお前今も小せぇーじゃん」
ちび、を意味するサインに 優希は むと眉を寄せる。

(いいの。背なんてすぐ伸びるんだから)
「どうだかねぇ〜」
(別に小さくても支障はないけどさ。せめて鴇よりは大きくなりたいなー)
「……おいお前それ何気に酷いぞ」

おいおい とツッコむアキラを軽く笑って、もう一度ぬいぐるみを傾げ見る。

(……でも、中条さんには届かないかなー)

そう笑う優希の手に動かされて、ぬいぐるみは小さく頷いた。





ー……………




それは、まだ小さい優希が 中条と美柴と三人で買い物に行った日のことだった。


「あー…煙草買い忘れた。戻るの面倒くせぇーな」
「……じゃあ禁煙すれば。」
「お前はなんでいつもそう極論なんだよ。……しょうがねぇな、優希に買いに行かせるか」
「しょうがなくない。行かせない。」

大通りを歩く中条と美柴は、いつものように軽口を交わす。
優希はその随分と後方で はてと立ち止まっていた。

「んだよ、初めてのお遣いにはちょうど良いじゃねぇーか」
「良くない。だいたい優希じゃ煙草なんて」
「はいはい。おい優希………ってあいつどこ行った?」
「!?」

美柴の反論を無視して、中条が優希を呼んだ。
二人はそこでようやく真ん中に優希が居ないことに気がついた。

慌てて美柴が振り返ると、優希は後ろでビルを見つめたまま立ち止まっている。

「……何見てんだ?」
安堵に息をつく美柴の横で、中条がそう眉を寄せる。

二人が道を戻り 優希に近づくと、優希も二人をはっと振り返る。
ちゃんと傍にいろ、と諭す美柴に、しかし優希は必死にビルを指差した。

あのね、あのね、と息巻いて引っ張る優希について行けば、そこはゲームセンター。

(あのね、おっきい箱の中にね、ペングーがいっぱい居るの!)
「……あ?」
「……箱?」

ほら!と小さな指が示す先を見て、中条も美柴も あぁと納得した。


「UFOキャッチャーじゃねぇーか」
(??)
見覚えのない中条の口の動きに、優希は目を丸くする。

隣の機体では 若いカップルがちょうどクレーンを操作し遊んでいるところだった。
それに気がついた優希は、その様子を美柴の影から首を伸ばしてこっそり見つめる。

意気込む男の子が 色んな角度から箱の中を吟味して、意を決してボタンを押す。
箱の中でアームが滑らかに動いて、狙われたぬいぐるみが持ち上げられた。
同時に、二人は歓喜に飛び上がって両手を叩きあう。
アームからポロッとぬいぐるみが穴の中に落とされて、意気揚々と男の子がそれを取り上げた。
受け取った女の子はとても嬉しそうに ぬいぐるみを抱える。
ぎゅーっと抱きしめると、女の子も男の子も幸せそうに笑った。

(……………??)
不思議そうな表情で 優希がじぃっと見つめるのも気付かずに、目移りするカップルは ゲームセンターの奥へと進んでいった。


「…すげぇ食いついてんな。やった事ねぇーのか?」
「……ゲームセンターなんて来ない」
幼い真ん丸な目が 興味津々と機体を見上げる様子を、中条と美柴は見下ろす。

(……わー…!)
見渡せば、あちらこちらで箱の中のアームが動いている。
みんな楽しそうに その動きに一喜一憂している。

どれも優希にとっては見たことのない華やかな光景だった。

そして何よりも、

(僕も!僕もペングー欲しいっ)

この場所の意味を理解して、優希は手を挙げる。
キラキラと輝かしい瞳と笑顔で、小さな兎の王子様はそうぴょんと跳びはねた。

「…………………………。」
「……………………まぁ…言うと思ったけどな。」


その期待と希望に満ち溢れた幼い眼差しに、出来ないなんて、言えなかった。



■いつか最後まで書きたいお話。
落書きはいつも尻尾切れです;;


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