小説 | ナノ


▼ 変わりゆく未来


■凱旋イベントネタバレ有。個人的解釈にて公式違い、解釈違いはご了承くださいませ。


「・・・・また人がいっぱい集まるのか・・・欝だ・・・」
姫宮の提案で決定した流星隊とfineのドリフェスは、公式戦ではないがかなり学内で話題になっていた。
この対決に自分の今後の運命をも賭けている姫宮は、ステージだけでなく宣伝にも力を入れているようだ。
fineがフルメンバーではないと知っても、流星隊は手を抜くようなユニットではない。
どちらのユニットも、来たる対戦に本気で挑もうとレッスンを重ねていた。

守沢は近頃、ライブの演出についても一年生から意見を拾うことが多くなっている。
演出なんて右も左も分からない一年生の為に、レッスンの前後に勉強会を開くことも多かった。
でも勉強と称して特撮を見るぐらいなら実際に身体を動かしてフォーメーションを確認したほうがいいのでは。
そんな風に考えてしまう自分は、この一年でかなりこの流星隊に侵食されている。

もう本番も近い。スタジオリハーサルの脇で、出来上がった衣装に袖を通す。
「高峯殿は背が高いから、やっぱりこうゆうマントが映えるでござるなぁ〜」
「無駄にデカイだけだよ・・・」
キラキラと羨望の眼差しで見上げてくる忍に、翠は肩を落とす。こんなにひらひらと翻る衣装は、ステージで目立ってしまいそうで恐ろしい。
「・・・?」
ふと隣を見ると、鏡と向かい合う鉄虎の表情が少し落ち込んでいるように見えた。
「どうしたの?」
「衣装が苦しいでござるか?」
ひょっこり上下から覗き込んだ二人に、鉄虎はうーんと唸って腕を組む。
「やっぱり・・・俺はまだまだレッドに相応しくないってことなんスかね・・・」
「へ?」
「何の話?」
思い悩む鉄虎の視線は、チラと鏡越しに守沢を見る。
衣装スタッフと懇談する守沢も、同じコンセプトの衣装に身を包んでいる。その姿は、一年生三人から見るとただ立っているだけでも『隊長』らしさに溢れている。


流星隊はこの夢ノ咲で最も伝統あるユニットだ。
リーダーである守沢千秋と、三奇人の一人として名を馳せる深海奏汰。この二人の存在は今の流星隊でかなり大きい。
当初、姫宮はその二人を抜かした、流星隊一年生三人との対決を要望した。
「会長がいなくても戦えるようになりたい」
そう吐露した姫宮に、守沢は「敬意を示してフルメンバーで挑もう」と人の話を聞かない返事をした。
でも、それは「だからこそ」という想いもあるのではないかと翠はひっそりと考えている。
熱血脳筋バカと言われるあの流星隊隊長は、ああ見えて案外しっかり考えている人なのだ。まだまだ拙い下級生達に、適度な壁と適度な休息を用意してくれる。

『ボクと弓弦だけで、流星隊の一年生と対決したい』
突然何の前触れも無く挑戦を叩きつけてきた姫宮に、翠達は守沢と深海の後ろで目を丸くしていた。
三人だけでステージにあがったことなんて、今まで一度も無い。
『たとえ非公式でも、勝てれば自信になる』
『会長がいなくでもfineは最強だってこと、おまえたちに証明してやる』
愛らしく小柄な姫宮が、にこやかに応える隊長と対峙している。
あの深海の挙動にペースを乱されながらも、強い決意を持って3年生相手に直談判する姿勢は、純粋に尊敬できるものだった。


「・・・結局、俺らになら2対3でも勝てるって思われたってことッスよね」
鉄虎の言葉には一理ある。自分達はナメられたのだ。
「で、でも、姫宮殿も拙者たちと同じ一年であるからして・・・」
忍が少し困ったように笑いながらそうフォローする。
確かに、自分達を完全に格下だと思ったわけではないだろう。
勝てる可能性がある。守沢と深海さえいなければ、fineは二人でも勝負が出来る。そう思われたということだ。
「…………。」
姫宮に悪気はないと思う。
彼も「次期皇帝」という未来を背負っている。fineという名高い強豪ユニットを、今後は彼が引き継いでいかなければならないのだ。

でも、それは自分達流星隊も同じだ。
「……まぁ、もうすぐ卒業だしね・・・」
翠も、鏡越しの守沢と深海をチラと見やる。あと少しで、守沢と深海は卒業してしまう。
UNDEADのようなユニットはもしかすると3年生が卒業してもメンバーを継続して活動を続けるかもしれない。実際、UNDEADは学園外での仕事を他のユニットよりも多く請け負っている。
でも、knightや流星隊は脈々と学院で受け継がれていくユニットだ。メンバーには卒業と継承が付きまとう。

守沢もそれは重々承知しているのだろう。近頃は卒業を視野に入れた発言が多い。
『南雲になら流星レッドを託すことが出来る』
イヴイヴライブでの鉄虎へのあの発言は、今までレッドを譲らなかった守沢がほぼ初めて見せた『継承の意思』だった。
翠はそれを遠巻きに見ていただけだったが、(あぁこの人も…この人達も、卒業してしまうのだ)と感じていた。
『立派な男になって、流星レッドを引き継げるようになるッスよ!!』
鉄虎は面と向かって守沢にそう宣言してから、より一層レッスンに励んできた。
守沢がオフだと伝えても、鉄虎は自主レッスンをしていたり、今までのユニットのライブ映像などを見ていた。

でも、その努力は第三者に目に見える成果にならなければ意味が無い。

「たまに自分が本当に成長できているのか、不安になるッスよ・・・」
「〜そんな弱気なこと言わないで欲しいでござる…っ。拙者も頑張るからして、元気を出してほしいでござるっ」
弱く俯く鉄虎に、忍が慌てて名乗りをあげる。こうゆう時の忍の懸命さは、沈みそうな心の救いだ。
「気持ちで弱くなってたら、本当に負けちゃうかもしれないよ。特撮とかでよくそうゆう展開あるし・・・」
あまり上手くは言えないが、翠もそう声をかけてみる。
「欝だ死にたいって言ってると本当に鬱で死にたくなるから、あんまりオススメしない・・・かも」
「高峯殿が言うと説得力があるでござる…!」
「それに関しては任して」
「いやそれは任せられないッス…!」
翠と忍のやり取りに、鉄虎は思わずツッコミを入れて呆れたように笑った。
そうして三人で笑いあっていれば、少しでも不安な心に立ち向かえる気がした。




姫宮の宣伝が功を奏したのか、成績に関わらない非公式戦にも関わらず客席は満員となった。
客席が近いステージの構造は、ヒーローショウに似ている。
学外でのイベントにも多く参加してきた『流星隊』は、完璧なパフォーマンスで『fine』にバトンを渡した。
勝敗なんて関係ない。この舞台は、幼かった雛が飛び立つ瞬間を皆で見届けるものだったのだ。
最後、沸き立つ客席に全身全霊で応える姫宮の笑顔は、自信と凛々しさでキラキラ輝いていた。

「お前たち、よくやった!!俺は感動したぞ!!」
大歓声を浴びて舞台袖に戻ると、守沢はメンバー一人ひとりを褒め称えて抱きしめて回った。
汗だくの中で抱擁するのは遠慮したいのだが、この隊長に遠慮は通用しない。
「高峯、お前はさっき仙石を庇おうとしていただろう?」
最後に翠をぎゅっと抱きしめた守沢は、ひとしきり褒めちぎった後で翠の肩をぽんと叩いてそう言った。
「へ?」
突然の話題に、翠は目を丸くする。
「何の話スか」
「登壇する前だ。仙石が客席の近さに怖気づいていただろう?」
思い出した。声を掛けられたらどうしようと怯える仙石に、翠はそっと声をかけていた。
『俺、でかいから後ろに隠れてれば目立たないかも・・・』
『甘やかしちゃダメっスよ!仙石くんのためにならないッス!』
最終的に仙石は自分を奮い立たせ、観客の勢いに負けずにステージに立った。
まさかあの時のやり取りを、今ここで話題にされるとは。

「今までの高峯だったら、きっと仙石と一緒になって南雲の後ろに隠れていたんじゃないか?」
守沢は満足げな強い瞳で笑み、翠を覗き込む。
「お前は変わったな、高峯!誰かを守れるヒーローに成長しているぞ!」
「……まぁそりゃあ、こんだけうるさい人に付き合わされれば変わりますよ・・・」
本当は、自分では自分の変化がよく分からない。あの時も、別に仙石を守ろうと思ったわけじゃない。自然と口から出たものだ。
でも、守沢からの前向きな評価は、どこか悔しいと同時にやはり少し嬉しかった。
ごちゃ混ぜになった感情をはぁあと吐き出す高峯に、守沢は笑った。

「お前には冷静にものを見る目がある。客観的な判断が出来るだろう。南雲は無茶をするところがあるから、高峯がしっかりとブレーキをかけてやってくれ」
しっかりと翠を見据えて、流星隊の隊員達を託していく。
「これからきっとお前達だけで大きな舞台を踏む日もくるだろう。仙石には臆病なところがある。でもあいつにももうしっかりと一人で立てる力はあるんだ。背中を押してやってくれ」
そんな風に真面目な隊長と対峙するのは久しぶりで、くすぐったく感じてしまった。
「・・・〜あぁもう、なんなんスか。急にやめてくださいよ、そうゆうの。俺そんな風に人をフォローするとか得意じゃないんスけど」
「あぁ!知っている!!」
「あんたも大概性格悪いですよね」
「はっはっはっはー!」
なぜか鼻高々に笑った守沢は、うんざりと肩を落とす翠の胸にとんと拳を当てた。

「大丈夫だ、高峯。お前なら出来る。お前は俺が認めた流星グリーンだ。自信を持て」
凛とした表情と声色。どこまでも真っ直ぐな瞳は眩しくて、目を細めてしまう。
そんな、……そんな無駄に買い被るような事を言わないで欲しい。
「〜…はぁ、そうっスか・・・」
恥ずかしさで鬱になりそうだ。憮然と応えてしまう翠に、守沢はにっかりと笑んでその頭をくしゃくしゃ撫で回した。
「だから、頭撫でるのやめてください。てゆうか早く衣装着替えないと怒られますよ」
ペシ!とその手を振り払ったところで、守沢がハッと息を飲んで辺りを見渡した。犬だったらきっと耳と尻尾がピン!と立っていただろう。
「?なんスか」
「茄子の気配を感じるぞ・・・!」
「はぁあ?」
「日々樹だな・・・!対決の後にさえもこの俺に精神攻撃を・・・!」
「いや、あんた何の話してるんスか」
「逃げるぞ高峯!!」
真面目な空気はどこへやら。
マントを靡かせた華麗なフォームで走り去る守沢に、ポツンと置いていかれた翠は(一体何だったんだ)と息をつく。
「・・・つーか敵前逃亡ッスよ隊長」
よく廊下で副会長に正座させられている守沢の姿を思い出して、小さく笑ってしまう。あんな光景を、あと何度見ることが出来るのだろう。

「・・・・・・別に寂しいとかじゃないし」
そう零した翠の脇を、日々樹渉が「逃げられると追いたくなりますねぇ〜!」と嬉々としてナスを掲げて走っていく。隊長と同じように靡かせたマントが、翠の頬にバシ!と当たった。

「………ほんと、前言撤回。」
ひりひりとする頬を擦りながら、翠は遠ざかる3年生を据わった目で見やった。
・・・・この学院の3年生は、本当に卒業するのだろうか。


撤収作業を終えた後、控え室の前で流星隊の一年生三人は姫宮と鉢合わせた。
姫宮は珍しく一人で、ライブで使用した小物や書類を胸いっぱいに抱えている。
今まで周囲を駒のように扱っていた姫宮からは想像出来ない姿だった。
「・・・出番前に、舞台袖でお前たちのパフォーマンスを見てたけど、」
姫宮は三人を前に、いつものように庶民と嘲笑うことはしなかった。

「一年だけなら脅威じゃないなんて、一瞬でも思ったボクの間違いだった」
力量を認める言葉に、三人は驚く。第三者、しかも対戦相手からそんな風に言われたのは初めてだ。
「ボクは生徒会長になる。でも自分がまだまだ足りてないことなんか分かってる・・・」
まるで自分に言い聞かせるような声色。俯いていた姫宮は、それでも踏ん張ってしゃんと顔をあげた。
「でもだからこそ、ボクはお前たちなんかよりももっともっと力をつけてやる!権力をすべてボクのものにする!!」
「いや最後で完全に悪者の台詞になったけど」
せっかく良い事を言っていると思ったのに、最後で台無しだ。まったく、こうゆう所が「らしくて」憎めない。
えぇー・・・と目を据わらせる翠に、姫宮はいつものように「ふん!」と勝ち誇った笑みで胸を張る。
「せいぜいボクに勝てるように努力するんだな庶民ども!」
「臨むところッスよ!!」
鉄虎は意気揚々と輝いた笑顔で受けて立つ。
姫宮の口から成長を認める言葉を聞いたことで、鉄虎にも自信が戻ってきたようだ。
挑戦的な笑みが、次期皇帝と次期隊長の間で交わされる。それはとても純粋で熱い青春の一幕だった。

「ボクが会長から受け継ぐ『fine』は、最強のユニットであり続ける」
姫宮の表情は凛々しく、真っ直ぐ前を見ていた。
再戦を誓った姫宮を見送った鉄虎は、その小さな背中を見ながら、翠と忍に言う。

「俺たちも、『流星隊』を最強の正義のヒーローとして受け継いでいこう」
その横顔はもうすでに『隊長』と同じ強さに満ち溢れていた。燃える闘魂と努力が、自信へと繋がっている。
忍はえへんと腰に手を当てて笑った。
「任せてほしいでござる!拙者、精一杯流星イエローを担っていくでござる!」
忍も、もう立派なヒーローだ。小さな身体で飛び回る姿はきっとどんな闇をも照らして、悪い空気を払拭してくれるだろう。

(上手いこと考えたもんだよなぁ・・・)
隊長がつけたそれぞれの口上を思い出して、翠は敵わないと心の中で笑った。
「あぁ・・・いよいよこの意味分かんないユニットを継いでいかなきゃいけないなんて・・・鬱だ」
口から出る天邪鬼な言葉に、忍がぎょっと目を見張って振り返る。
「えぇ暗っ!?暗いでござるよ高峯殿・・・!もっと前向きに受け継いでいくでござるよぉ!」
「前向きとか、隊長みたいになりそうで・・・吐きそうになる・・・」
「誰も馬鹿みたいに大声で叫べなんて言ってないでござるよ!!」
「それ若干隊長のことバカにしてない?」
「ハッ・・・!!いや、あの、それは、言葉のあやと言うか・・・!」
「あはは!でもでも!翠くんもちゃんと受け継ぐ気持ちはあるってことっスよね!」
あわわと自分の失言に口を塞ぐ忍と、けらけら笑う鉄虎に、翠はやれやれと首を振った。

「まぁ・・・ここまで来たら逃げられないし・・・しょうがないよなぁ」
「もちろん!逃がすつもりはないッスよ!」
「高峯殿も一緒に突き進むでござるよぉー!」
きゃっきゃっと沸き立つ忍と鉄虎に背中を押されながら、翠は観念してふと笑う。
(隊長、深海先輩、どうぞ安心して卒業してください)
俺達だけでも、きっと大丈夫。根拠はないけど、背中に感じる二人の手の平に、なぜか心の底からそう思えた。

「廊下は走るなと言ってるだろ守沢ー!!」
「噴水で浮かぶな深海ー!!」
けれど進む廊下の奥から響く生徒会の怒号に、一年生三人は笑みを強張らせる。
「・・・そもそも、卒業出来るんスかね。うちの三年生は」
「き、きっと大丈夫でござるよ・・・!」
「そのうち同学年とかになっちゃったら・・・欝だ・・・死にたい」

嫌な想像に目配せした三人は、同時に吹き出して笑った。



■ヒーローショウ、マジで復刻してくれ。


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