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▼ 日の光に溶ける

■UNDEAD遊園地ストーリーネタバレ有。個人的解釈ですので ご容赦下さいませ。




はぁと肩から沈み込むような溜息をつく朔間零に、羽風薫は苦笑う。
「そんなに落ち込まないでよ朔間さん、わざとやったわけじゃないんだししょうがないでしょう?」
「……うむ、それはそうじゃが…。わんこもアドニスくんもライブをとても楽しみにしておったじゃろ?あんなに練習にも打ち込んでおったし…」
完全無欠の吸血鬼がこんなにもしょんぼりとしている。彼をここまで心痛させるのだから、後輩の存在とは大きいものだ。



一週間前、朔間から「遊園地からライブ依頼を受けた」という報告があった。
UNDEADとしての活動が徐々に世間に広がっていることは確かだ。
二年生の大神もアドニスもとても喜んで、冬休み中だというのに熱心にレッスンを繰り返していた。
今まではユニット活動をおざなりにしていた羽風も、後輩にカッコ悪いところは見せられないからと練習に参加してきた。
そうして4人でレッスンをしていると、ユニット内の変化を実感する。
『干渉しない』 それが条件だったはずなのに、いつの間にか一体感が生まれているのだ。
互いが何を考え、どう動くのかが、少しづつ分かるようになってきた。

「わんこもアドニス君も、だいぶ振りが揃うようになったのう」
朔間の微笑みに、大神は鼻高々と腰に手を当てる。
「はんっ!俺様がこいつに合わせてやってんだ、上達して当然だろ!!」
「あぁ、近頃大神が俺に合わせてくれている。とても動きやすくなった」
「それって今まではわんちゃんがワンマンプレーだったってことじゃないの〜?」
羽風のにやにやとした言葉に、大神はむぅとむくれて目を据わらせる。
「羽風…センパイだって、今までレッスン来なかっただろうがよ」
「大神。でも今は羽風先輩もこうして参加してくれている。俺はこうして4人で集まることが出来て、すごく楽しいし嬉しい」
アドニスの言葉いつだって真っ直ぐで、くすぐったい。
朔間は慈愛を込めた視線で見守っているが、羽風にはまだ慣れず 困ったように笑ってしまう。
「え〜?男に喜ばれても困るなぁ」
「〜そもそも俺様は!別に嬉しいとか嬉しくないの話をしてるわけじゃねぇ!」
がるると反論する大神に、アドニスは怪訝に首を傾げた。

「だが大神も、二人で練習する時よりずっと力が入っていると思う」
「俺様はいつだって力いっぱい練習してるっつーのっ」
堪えきれずに、朔間がくくくと愛おしそうに笑う。
「わんこはやはり、真面目な良い子じゃのう〜」
「だぁ〜もう!吸血鬼ヤローまで俺様をバカにしたような言い方すんな!」
「朔間先輩は大神を貶めているわけではない。いつだって褒めてくれている」
「んなの分かってんだよ!!」
「ほぉ。分かっておるのか」
「へぇー、分かってるんだぁ〜」
「ならば良かった。」
「〜〜〜〜!!」
素直で無邪気な後輩達とのやり取りを重ねていると、不思議と頑張ろうと思えるのだ。




ライブを翌日に控え、ユニットリーダーの朔間が主催との打ち合わせに向かうと聞き、羽風も同行することにした。
いつもはこうゆう仕事はほとんど朔間に任していた。でも、これからは出来るだけ自分も関わりたいと思っての行動だ。
「本当に、薫くんは成長したのう。我輩の憂患も一つ減ったわい」
「俺、朔間さんに心配してもらうようなことは一個もないんだけど〜?」
朔間の言葉の端で、彼の抱える憂患は一つではないのだと知る。けれどそこには触れずに、羽風はやれやれと肩を竦めただけだった。


二人で赴いた主催との打ち合わせで、思ってもみない問題が生じた。
実際に詳細を聞いてみると、ライブだと思っていたステージは子供向けのショーだったのだ。
主催の意向が変わってしまったことにも一因はあるが、朔間にしては珍しい手違いだ。
人が集まるステージに立つことには変わりが無いのだが、これではUNDEADが得意とするライブパフォーマンスは不要になってしまう。
(まぁ、しょうがないよねぇ)
自分達はまだ学生ユニットなのだ。望む通りの仕事が出来なくても文句を言える立場ではない。
羽風はショックを受けながらも、なぁなぁに打ち合わせを終わらせるつもりだった。でも、朔間零は違った。

「どうにかライブのほうにも参加させて頂けないでしょうか」
朔間はなんとかライブの形もとらせて欲しいと、主催側に申し出た。学園で『三奇人』と言われる人物とは思えないほどにとても下手に、とても丁寧に。
ユニットの為に頭を下げる朔間の姿は、羽風にとって衝撃的だった。胸にチクリとした痛みと息を飲むような驚きがあった。
もしかすると自分は、今までこうして守られていたのかもしれない。何も知らなかった。何も、知ろうとしてこなかった。
自分がどれだけ軽い気持ちでアイドルの真似事をしていたのかを、痛感した。
ユニットを背負う重みを目の当たりにした。

「お願いします。一曲だけでも、時間を作ってもらえませんか。客寄せなら自信があります」
朔間の横で、羽風も頭を下げた。
大人に頭を下げることを、この時ばかりはムカツクなんて思わなかった。
そんなこと、どうでも良いことなんだ。脳裏に過ぎるのは、今までレッスンに打ち込んでいた自分達の姿だ。後輩達の笑顔だ。


朔間と羽風の真摯な申し出に、主催側も伝達ミスを認め、なんとかライブのほうも都合がつくように動いてみると言ってくれた。
でも、それも確かな話ではない。イベントで決まっているタイムスケジュールに急遽学生ユニットを入れる隙を作るなんて、難しい話だ。
夢ノ咲の後ろ盾がある以上はもしかすると可能なことなのかもしれないが、そんな看板にあぐらを掻くような押し売りはしたくなかった。
朔間も同じ想いだろう。彼はこの打ち合わせに学園の名前を出すことは一度もなかった。


「…もしもショーに出るとしても、明日には本番じゃ。台詞や動きを今日中に頭に入れなければならんしのう……」
軽音楽部の部室に戻る朔間の足取りは重い。
「今日までライブの練習で詰めてきておったのに、突然内容が変わればわんこ達も動揺するじゃろうし…」
朔間の憂患は増えるばかりだ。
「そもそもわんこもアドニス君も演技は得意ではないしのう…。ライブをしたがっていた子達に不得手なショーを押しつけるなんて…」
「俺はやるよ」
次から次へと気が重くなっていく朔間の背中に向けて、羽風はスッキリとした声で応えた。
「……薫くん、今なんと?」
ぴたりと足を止めた朔間が、ゆっくりと羽風を振り返る。きょとんと目を丸くしていた。
いつもは飄々としている三奇人の一人が、まるで漫画みたいなリアクションだ。羽風はふふと笑う。
「俺はやるって言ったの」
「……薫くん…」
羽風の笑みを、朔間は心打たれたように見やる。そうして、
「おぬし熱でもあるのかや?」
「ちょっ!おでこに手をやらなくても熱なんてないから!子供みたいな扱い方すんのやめてってばっ」
額に翳された朔間の手の平を、ペチリと振り払う。
まったく、この茶化したような可愛がり方にだけはいつまでも慣れない。

「薫くんがらしくない事を言い出すから心配になっただけじゃよぉ」
痛いのうと手を擦っていた朔間は、けれど神妙な顔つきで羽風を見やる。
「……本当に良いのかい薫くん。我輩の手違いで、薫くんにまで頭を下げさせてしまったし…」
「そんなこといちいち言わなくていいから」
謝ろうとした朔間の言葉を、羽風は遮った。
「だってライブには絶対に出られないってわけじゃないし。子供向けのショーでもお客さんを楽しませる機会があるなら大事にしたいじゃん」
「…わんこ達がどう判断するかも分からぬのじゃぞ…。我輩と二人だけでステージに立つのかもしれぬ…」
「朔間さんは、あの晃牙くんとアドニスくんが仕事の依頼を投げ出すような子に思える?そりゃあショックは受けちゃうかもしれないけど…」
鎮痛な面持ちで重く視線を落とした朔間に、羽風は凛と言う。

「あの子達は俺なんかよりずっと真面目に、素直に、全力で取り組んでる。だから子供向けのショーだからって出ないなんて言わないよ。そうでしょ?」
まさか自分が後輩を信じてこんな事を言う日がくるなんて。自分でも信じられない。
「…………」
何か考えてじっと黙る朔間に、なんだか恥ずかしくなって茶化したようにおどけてみせる。
「まぁ俺は可愛い女の子が集まってくれなきゃやる気が出ないからね〜?朔間さんも、明日は女の子集めてよ〜」
駄々を捏ねて甘えるように笑う羽風は、朔間の行く先を指差す。
「ほらほら、早く部室に行こうよ。晃牙くん達、きっとまだ練習してるよ。明日の話をしにいかなきゃでしょ」
「……そうじゃな」
朔間はようやく、そっと静かに微笑む。

「まさか薫くんに諭される日が来るとはのう」
「だから、子供扱いしないでよね」
一歳しか違わないんだから。そう続けると、朔間はいつもの魔王のような笑い声をあげた。




朔間が遊園地での仕事が子供向けショーになったことを告げると、大神はひどくショックを受けた。
けれど羽風の思った通り「子供向けショーでも参加する」と断言し、アドニスと共にショーの台本をしっかりと頭に叩き込んでいた。
何事にも真っ直ぐに取り組む二人だ。本番まで時間の無い中でも、朔間と羽風に劣らないように夜遅くまで特訓してきている。
リハーサルも気丈にこなした大神だったが、どことなくいつもより元気がないことは感じ取れた。
時折ひっそりと小さな溜息を零す大神に、羽風だけでなくメンバー全員が心配に思っていた。

「よっしゃ!!ガキ共を俺様たちのパフォーマンスで震撼させてやんぜ!!」
本番前、しかし一変して大神のパワーは最大だ。

「大神、子供を怖がらせてはいけない」
「うっせー!ロックだロックー!やってやんぜ、アドニス!俺様について来い!!」
「!もちろんだ、俺も本気でステージに立つ…!」
「これこれ、まだ出番じゃないぞい。わんこもアドニスくんも少し落ち着け」
どうどうと手を均して二年生を制御する朔間は、安心したように笑っている。

「……いやちょっと待って。ねぇちょっと朔間さん、なんで合流した途端こんな元気なの、このわんちゃん」
一番最後に合流しに来た羽風は、その様子に呆気にとられてしまった。
もちろん、大神の復活の原因は察しがついている。

『子供向けショーのアンケートで半数以上の満足を得られれば、アンコールでライブが出来る』
主催側からなんとか引き出した条件は、UNDEADのやる気を高めるには充分だった。
でも予想以上の大神の気合の入り様に、羽風はやれやれと首を振る。

「あーあーもう、本番前からそんなに元気じゃ、ステージで怪我しても知らないよー?」
「さっき朔間先輩にも同じ事を言われて、怪我をしないように大神と準備運動をした」
「おうよ!準備運動はバッチリだ!怪我なんかしねぇーよ!」
「ふふふ、まったくわんこは絶好調じゃな」
「絶好調じゃな、じゃないよ。こんなに元気になっちゃうなんて、チョロすぎでしょ」
「そう言う薫くんも、外でしっかり宣伝してきてくれたのじゃろ?わんこも元気になったことだし、これで何の不安もなくステージに立てるのう」
「俺はかわいい女の子が集まってくれるように宣伝してきただけだからね。これで俺のやる気が変わってくるんだから〜」
「ファンの子が集まればアンケートの満足度も変わってくるしのう?」
「〜…まぁそうゆう考えもあるだろうね!俺はそこまで考えてないけどー」
「くっくっく…」

出番間近の連絡が、インカムに聞こえてきた。
朔間が不意に片腕を差し出して拳を掲げた。それを暗黙の了解として、羽風、大神、アドニスも同じように拳を掲げる。
バックステージでよく見る円陣は、UNDEADでは行われない。
結成当時が完全に連携のないユニットだったせいか、そんな一致団結を改めて誓うような習慣がない。
今でこそ一体感があるのだから、円陣をしてみてもいいかもしれない。でも、……今更そんなことをするのは気恥ずかしい。

それぞれが掲げた拳が、ガツンと互いの拳と叩き合う。行き交う視線が、挑発的な笑みを見せる。
「誰が相手だろうと、我輩たちの姿をその目に焼き付けてくれようぞ」
朔間零の言葉が、夢ノ咲学院の一介の高校生達を夜闇の魔物へと変えていく。

ステージへと向かう魔物達は、内側から滾る熱意を胸に飛び出した。





アンケート結果は、目を見張るものだった。
裏表無く乱暴に喋る大神の勢いはやんちゃな子供達に好評で、羽風の十八番な神対応も観覧に集まった女性達を喜ばせた。
朔間の歌声はどこまでも響き渡り 広く客を呼び寄せ、アドニスの力強い歌声で寄って来た客を手放さない。
子供向けショーでありながらも完璧な『アイドルのステージ』だった。
破天荒な進行とトークも笑いを誘い、多くの客がUNDEADというユニットをもう一度見たいと願ってくれた。

「ここに集まった皆のおかげで、我輩たちは最高の時間を過ごす事が出来たのじゃ。本当に、有り難い」
アンケートのおかげでライブステージに立てたUNDEADは、最後のカーテンコールで深々と頭を下げた。
パフォーマンスは過激で 一見すると怖いイメージを受ける高校生達が、そうして感謝の意を行動に見せたことも評価が高かった。
ライブが終わった後には主催側からまた仕事を依頼させて欲しいと申し出があったほどだった。


「なんとか無事に乗り越えることが出来たのう」
撤収作業が終わると、主催側が遊園地のチケットを渡してくれた。
閉演までの時間を自由に過ごしてほしいとのことで、大神もアドニスも大喜びだった。
絶叫マシーンを次々乗り継いでいく二人に付き合いきれず、朔間と羽風は日陰のベンチで休憩していた。
「最初はどうなることかと思ったがのう、こうして終わってみるととても良い経験じゃ」
先ほど差し入れで貰った紙パックのトマトジュースをちゅーと飲む朔間は、本当に安心したように微笑んでいる。

「これも偏に、薫くんが手を貸してくれたからじゃの」
そうして、隣に座る羽風に「ありがとう」と笑う。こうゆう時の吸血鬼は、思いのほか実直だ。
いつもの遠回しで演技めいた言い方で言ってくれれば、こちらも茶化して返せるのに。
「まぁ、どういたしまして?俺は何かしたつもりはないけどねぇ」
そう言いながらも、自分も一安心しているのは事実だ。

後輩の手前 弱音を吐くことはしなかったが、本当は、子供向けのショーなんて成功できる自信は無かった。
自分なりに子供への接し方を考えてみたが、なかなか難しかったのだ。
ヒーローショーに慣れ親しんでいる同じ部活の同級生に連絡を取ったが、「かおるなら出来ますよ」なんて柔かい言葉で励まされただけだった。
その電話越しに「子供向けのショーに出るのか!!見に行くぞ!!」という熱意溢れる声が聞こえたものだから、聞こえない振りをして切ったのだ。

(……まぁ来てたけどね。ユニット総出でさ…)
子供や女性が多い観客の中で、あのユニットが総出で並んでいる姿を見た時は吹き出しそうだった。
まったく……正義の名の下に友達想いが集まったユニットだ。

「そういえば流星隊の子達が来ておったのう」
やはり、朔間にも目視出来ていたようだ。思わず笑ってしまう。
「奏汰くんに電話した時にユニットで集まってたみたいでさ。まさか本当に見に来るとは思わなかったけど」
「薫くんのことを心配して見に来てくれたんじゃろう」
「え〜、どうかなぁ?案外面白がって来てたのかもよ」
あれで案外底が知れない性格をしているのだ。彼も、朔間と同じ『三奇人』なのだから。

「UNDEADを始めた頃は、薫くんがそんな風に友人にライブのことを相談するようになるとは思ってもみなかったのう…」
ふと朔間が感傷的に空を見上げた。日陰になったこのベンチからは、輝く太陽は見えない。
「わんこも、排他的な性格故に人に懐かず、自ら孤独を謳う子じゃった。けれど今はアドニスくんという友を得て、自分以外の音に耳を貸せるようになっておる」
本当に良かったと呟く朔間の横顔を、羽風は横目に見ていた。
「今までは我輩と薫くんで二枚看板としてやってきたUNDEADじゃが、これからはきっとあの二人だけでもやっていける。我輩たちがいなくなった後でも、きっと立派にステージに立てるじゃろう。本当に、幼かった者が、未熟だった者が成長してゆく姿を見届けるのは胸が熱くなるのう」
静かな声色で話す朔間からは、憂いは感じない。でも、羽風にはこの吸血鬼の独白がどこか寂しく思えて仕方が無かった。
この奇妙な感情は、ここ最近朔間と話すたびに感じている。

「朔間さんはいつもそれだよね」
ぽつりと出た言葉に、朔間ははてと羽風を振り向く。
「それ、とは?」
「いっつもわんちゃんやアドニスくんや、俺のことばっかり。自分はどうなのってこと」
あまり深刻な言い方はしなかった。聞こえ様によってはおそらく『子供のわがまま』にしかならないかもしれない。

「これでも俺ね、最近周りのことも色々見えるようになって、自分がどう動くべきなのかとか考えるようになったんだよ。今までは誰かの為に何かするとか人に期待されるとか本当に嫌だったんだけど、最近はそうゆうのに応えたり 受け止めてみてもいいかなって思ってる」
これを『成長』というのかどうかはまだ分からない。でも、自分の内面が変わってきたと自覚しているのは確かだ。
「朔間さんの言うとおり、晃牙くんもアドニスくんもどんどん変わっていっている。そうやって変わるチャンスをくれたのは、朔間さんなんじゃないかな?」

物事の変化が必ずしも良い方向に向かうとは限らない。
もしかすると(昔の方が良かった)と思ってしまう時もあるかもしれない。
でも今日の子供向けのショーのように、変わらなければ見られなかった景色もあるのだ。それを、朔間零は見せてくれた。自分達の為にああして頭を下げてくれていた。
少し言葉に迷った後で、羽風は告げた。

「でも肝心の朔間さんは、自分自身の未来を見てないよね」

朔間零の表情が、少しだけ強張ったように見えた。
痛いところを突かれた。そう思っているのかもしれない。でも羽風は話を止めなかった。
止めてはいけないと思った。

「朔間さんってさ、後輩のことや弟くんの事をいつも自分のこと以上に気にかけてるのに、それに面と向かって自分で向き合うことはなかなかしないでしょ。全部自己完結。全部誰かの後ろから見守ってる」
彼はいつも指揮を執りながらも、どこか傍観者なのだ。
『三奇人』朔間零は、常に誰かの為の階段であり、乗り越えるべき壁であり、未来の前に立つ門番。

ならば朔間零が望む未来は、語る未来は、一体どこにあるのか。

「案外朔間さんが、一番臆病ってことなんじゃないかな」
羽風は出来るだけ軽口の素振りでそう結論付け、ベンチから腰をあげた。
「それが、今の俺の中の朔間零像」
ふふと笑って、座ったままの朔間を見下ろした。羽風を見上げる朔間の目は、眩しそうに細められている。
ただ黙ってこちらの話を聞き入る朔間に、羽風はにやと笑った。

部活の後輩がよく使う言葉に「恩義」というものがある。羽風の感情はそこまで粋なものではない。
どちらかと言えば、悪戯っ子の思いつき。
「俺は朔間さんに誘われてUNDEADに入って、こんな風に考えを変えさせられちゃったからね。仕返しに、今度は俺が朔間さんを変えてみせようかな」
もしも自分にこのリーダーへ何か返せるものがあるとすれば…、

「俺の本気、見せてあげよう」
女の子ならイチコロのウィンクで、リーダーへの宣戦布告。朔間はやはり、静かに笑うだけだった。

「おーい!老害共ー!!」
「うわっ、酷い呼び方されてる…!!」
絶叫マシーンを制覇した大神とアドニスが、ウキウキと手を振って戻ってくる。
あんまりな大神の呼びかけにギョッとするが、あんなにはしゃいだ笑顔を見せられては叱りようがない。


「もう、朔間さんが甘やかすからあんな言い方するんだよ?ちゃんと躾してよねー」
やれやれと溜息を吐く羽風に、大神とアドニスが駆け寄る。
「羽風先輩聞いてくれ!凄かった、あんな高いところに昇ったのは生まれて初めてだった…っ」
「写真も貰ってきたんだぜー!ほらほら!!」
「はいはい、楽しかったのは良かったけど、あんまりはしゃぎ過ぎないでよー。一応お仕事で来た遊園地なんだからね?」
まるで兄弟のように集うメンバー達を見て、朔間は笑う。

「……本当に、良かった」

その言葉は、誰にも聞こえずに日の光に溶けていった。


■朔間零の闇は深い(好き)


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