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▼ 静寂を切り裂いていくつも声が生まれたよ

■天体観測な斉籐&美柴


辿り着いたのは 都会のどこにでもありそうな、細長いビル。
そんなに高いビルではない。何の事務所が入っているのか、あからさまに不審な佇まいだった。
外装を見上げて 訝しがる美柴をよそに、斉藤が トキさん早く早く と小声で呼ぶ。
何をするのかと見れば 斉藤は裏口をこっそりと開けて、コソドロのような腰の低さで忍び足をし 中を伺っていた。
持ってきた懐中電灯で 周囲を照らし、首を伸ばして そわそわしている。

(……バカがいる…。)
その忍び込む顔がいやに真剣で緊張した面持ちだっただけに、本人にはそう言うことは出来なかった。

「………………。」
見るからにビルには誰も残ってはいなそうで、美柴は そんな斉藤の動きは無視して 特に気も遣わずに中に入った。

―…ガシャン!!

後ろ手でドアを閉めると、しんと静まり返った屋内で思ったよりも大きな音が響いてしまった。
その時、人一倍飛び上がったのが 目の前の斉藤の背中だった。
そんなに飛び上がって驚かれるとは思わず、美柴は若干 斉藤に驚いた。

「ちょ…!!トキさん静かに…!!!」
慌てて振り返った斉藤は 大げさな仕草で 「しぃ―…!!」と人差し指を口に当てる。

「…………。」
美柴は ふいと顔を反らし、斉藤の注意をわざと無視する。
聞き入れる様子のない美柴に、斉藤は 「もっと緊張感を持って…!」などと言いつけて、気を取り直すように小さく気合を入れた。

そろりそろり 忍び足で先頭を進む斉藤。
その後ろで 適当に天井や壁を照らしつつ ついて行く美柴。
二人はぐるぐると非常階段を登って おそらく誰も開け放たないであろうドアを潜った。

その先の屋上にも人は居らず、ようやく斉藤が忍び足を止めた。

「おぉー!着いたぁ!!」
まるでミッションでもクリアしたかのような満足気な笑顔で両腕を伸ばし、夜空を仰いだ。
続いた美柴も 視線を空へと向ける。澄んだ夜空だった。星も少し見えそうだ。

満更でもなさそうな美柴の横顔。斉藤は笑って 軽く駆け出す。
真ん中辺りで 360度の夜空を見渡してから、「よし、ここにしよ!」と座った。
意図を察しながら 傍に寄った美柴は、それでも素直には座らなかった。

「…………寒い。」

不思議そうに見上げていた斉藤は 美柴の言葉で ぱっと何かを思いついて立ち上がった。
羽織っていたアウターをせかせか脱ぐと、コンクリートに敷いた。
ぽんぽん と整えると 妙にキラキラした目で美柴を改めて振り返る。

「ここにどうぞ!!」
まるでここは特等席だとでも言うように差し出された。
美柴は呆れたように、諦めたように 息を吐く。

その美柴のリアクションに(帰ってしまうだろうか)と 叱られた大きな犬がしょぼんと小さくなりそうになる。けれど、

「………我慢する…」

美柴は 置かれたアウターを拾い上げると パンッと汚れを振り落とした。
斉藤に押し返し、敷物のなくなったコンクリートに座った。

「………。」
渡されたアウターと座った美柴を交互に見て、斉藤は 嬉しさに微笑む。
座らないのかと見上げた美柴に そのニヤケ顔が見つかって睨まれた。

「着ないなら返せ」
「いや!着ます着ます!!てか俺のです!!」

二人で並んで座り、しかし奇妙な沈黙が流れた。

「…………で?」
「はい?」
「何するんだこんな所で」
「〜な!!何って…!!?何もしませんよヤダな鴇さんったら…!!」
「………そうゆう意味では言ってない…」
「!わ、分かってますよ!冗談です冗談!!」

勘違いで墓穴を掘って 慌てる斉藤は放っておくことにする。
はぁ と手を温めて 空を見上げる。

「えー…と、トキさんは何座ですか?」
「……なんで」
「いや!…俺、小学校で"天体観測"ってのやって、そこで天体とか星座とか勉強したんです。それで、今も少し覚えてるものとかあって」
「………へぇ」

確か自分も課外授業で学習したが、内容は何も覚えてはいない。
良く覚えているなと 美柴は感心した頷きを返した。
生返事ではないと理解した斉藤は 急激に元気を取り戻し 話し始める。

何億光年の歴史。
赤、黄色、青、そんな星や惑星の光の違い。
人がどうして 星座を生み出したのか。何を祈って 崇めていたのか。
遠い遠い昔の人々が 宇宙に見出した願いや希望。

「ってことは!この宇宙のどこかで、もしかしたらダブルオーが戦ってるんですよ…!!」
「…………………………………」

まぁ後半から、何の話か全くついていけなかったわけだが。

「ロマンが溢れてるんです!!宇宙には!!」
そう力込めて言い終わると 小さく息切れを起こしているように見えた。

「……そんなに好きなのか?」
「え!?あ、いやまぁ、ガンダムとかそうゆうのの影響なんですけどね。でも、好きですよ。星がいっぱいあるのって、単純に綺麗だなって思うし」
「……宇宙飛行士にでもなったらどうだ」
「いやいや!俺には無理っすよ!!」
「だろうな」
「えぇえ!?何それ!!ヒド…!!」
「本気で言うわけない。」
「……うわ〜鴇さん、そうゆう事言ったりするんだぁ、なんかショック〜。ドSキャラは中条さんだけかと思ってたのに〜」
「中条さんと一緒にするな」

美柴の頑ななな反論に笑って、星空を見上げる。

「あ、そうだそうだ!で、トキさんは何月生まれなんですか?」
「……2月」
「2月の?」
「……………」
「…2月の〜?」
「……14日」
「マジで!!?すげー!バレンタイン!? うっわやっぱそうゆう人はそうゆう日に生まれるんだ!すげ―!」
「うるさい。」

美柴の一言と一瞥で叱られても、斉藤はめげずにニシシと笑う。

「あ、俺、7月18日なんです。生まれ星座、どっちも見れませんね」
「……別に見たいわけじゃない」
「中条さんが居たら見れたかなー?…秋生まれって感じじゃないけど。トキさん何月だと思います?中条さんの誕生日」
「興味ない」
「えー。ん〜…夏っぽいけど、意外に春とか?」
「……………夏」
「知ってんですかトキさん!?」
「知らない。」
「??じゃあ なんで?」

「破廉恥だから。」

「・・・・・・・・。」
無表情に言い放った美柴の返答に、一瞬ポカンとした斉藤は しかし一気に笑いを吹き出した。
忍び込んだことも忘れて 「確かに!!」と大きな声で賛同する。
美柴は何故か嬉しそうな斉藤を 不思議そうに見ていた。
目が合って、斉藤は ニカッとはにかんだ。

「俺、また一つ、トキさんの事知りました」
「…………………。」

言葉もリアクションも返せない美柴に もう一度笑った斉藤は夜空を見上げて 寝転がる。
その視線を追って、美柴も空を仰ぐ。

「あ!流れ星!!」

早く願い事を…!!と焦る斉藤の気配をすぐ隣に感じつつ、美柴は ふぅと空に向かって溜息を吐いた。
その口元が ほんの少しだけ笑っていて、それを盗み見た斉藤も 真似するようにわざと溜息を吐いた。

「あ〜あ、願い事、間に合わなかったなぁ」

残念そうにそう言うと、美柴は空を見上げたまま 応えた。

「なら また見に来れば良い…」

斉藤はうるうると感極まった目で 美柴の背を見た。

あぁ神様、ありがとう。
嘘をついて ごめんなさい。

「二人で。」

どうやら間に合ってたみたいです。

■次男と末っ子の物語は可愛い路線を目指したい。笑




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