小説 | ナノ


▼ ドアを挟んで背中合わせ

■ありこ様50000打リクエスト「甘め中鴇」です。
BUMP OF CHICKENのダイアモンドのCP曲「ラフメーカー」を題材としております。広い心でお楽しみ下さいませ。





何を理由に泣いているのか全く分からなかった。
しかし 体験したことのないぐらいの泣き様だった気がする。
嗚咽で窒息するかと思ったほどだ。

ここは自分の家だ。
ベッドに座って 理由の分からない涙を拭って拭って 苦しい胸を押さえていた。

ピンポーン。
唐突なドアベルの音。
顔を上げて、ドアの向こうの気配を探った。

ピンポーン。ドン!ドン!ドン!
随分乱暴な来客だ。叩いた後 また何度もベルを鳴らされた。
誰にも会えない顔なのに 出て来いとうるさい。
グシと涙を押さえ込んで、裸足のまま玄関に降りた。ドアは開けず、向こうに声を投げつけた。

「うるさい。誰だ」
「名乗るほど大したもんじゃねーけどな。一応シャバじゃ『ラフメーカー』で通ってる。てめーに笑顔を持ってきたんだよ、寒いからとりあえず入れてくれ」

『ラフメーカー』? 冗談じゃない。
そんなインチキ臭い奴を呼んだ覚えはない。

「そんなの知らない。帰ってくれ。」

そこに誰かが居たら、この涙を流せない。
早く流さないと、息が詰まりそうだ。苦しい。苦しい。
助けてくれとは、言えなかった。
だって……誰に言えばいい…?

ピンポーン。ドン!ドン!ドン!
やっと静かになったと思ったら、構わずドアを叩かれた。
あのインチキ。まだ居たのか。腹が立ってきた。

「なんだ 帰れって言ってるだろ。さっさと帰れ…!!」
「……おいおいそんな事言われるとは思わなかったな。傷ついたぞ?俺も此処で泣いちまおうか?」

『ラフメーカー』なんて冗談じゃない。
アンタが泣いたって何も解決しないんだ。こんな奴、呼んだ覚えはない。

「……泣きたいのは…俺の方だ…ッ」

理由は分からないんだ。
どうしてこんなに悲しいのか分からない。

そのまま玄関で蹲ってしまった。嗚咽が止まらない。
痛むぐらい拳を握った。血が滲むほど唇を噛んだ。
涙は止まらなかった。

「…ッ」
ふと、ドアの向こうの気配に気がついた。
まだ居る。ずっと居る…。
そう、きっと いつもの煙草を吹かして ドアに背を預けて そこに居る。

そうと気がついたら、余計に涙が止まらなくなった。
すっかり疲れて、今度はしゃっくりが止まらない。

「……な…」
「ん?なんだ。俺は『ラフメーカー』だぞ」
「……まだ俺を笑わせるつもりがあるか 『ラフメーカー』」
「はッ。当たり前だろ、俺はそれだけが生き甲斐なんだぜ。お前を笑わせないと 帰れねぇーよ」
「…………………そうか…」

ゆっくりと立ち上がった。
ドアの向こうにあるはずの背中が見えた気がした。
どうしてだろう。このインチキな奴を部屋に入れても良いと思えた。
でも、困ったことにドアが開かない。素直に開けられない。

「そっちでドアを押してくれ。鍵なら、もう…開けたから…」

しん…と静まり返ったドアの向こう。

「……どうした…?」

まさか……もう、誰も居ない?

「…ッ…!!」

『ラフメーカー』なんて冗談じゃない!!

悔しさで唇を噛んだ。
今更俺を置いて、構わずに帰ってしまった。
信じた自分が馬鹿だった。悔しくて 唇を噛んだ。

ガシャーン!!
部屋の窓が割れる音。慌てて部屋に戻った。

「…よぉ。開かないから勝手に入ったぞ」

鉄パイプ持って、煙草を咥えて。
いつもの煙の匂いを漂わせて。にやりと意地悪げに笑って……

「美柴。お前に笑顔を持ってきた」
落ちてた鏡を拾い上げ、俺に突きつけて こう言った。

「お前の泣き顔、笑えんぞ」

呆れたが、なるほど……笑えた。


目を覚ましたら、目一杯泣いた後のような、笑った後のような、そんなぐったりとした心地良い疲れがあった。
理由の分からない苦しさと『ラフメーカー』は 消えていた。窓もきちんと填められていた。

「…………」
思わず 携帯で中条さんの番号を検索した。
通話を押そうとして、でも思い留まる。
だって…何が話したいわけでもない。
ただ無性に声が聞きたくなった、なんて……冗談じゃない。言ってたまるか。

ピンポーン。ドン!ドン!ドン!
唐突に飛び込んできたその音と気配に覚えがあって、枕に ぽすんと赤くなる顔を埋めた。
しばらくしたら 鍵を開けて強引に入ってくるだろう相手に、この込み上げる表情を見られたくなかった。

さすが『ラフメーカー』。
こんな恥ずかしい笑顔を此処に持ってくる。



■ラフメーカー(BUMP OF CHICKEN)



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