小説 | ナノ


▼ 貴方の隣にいる自分を上手く思い描けない

■互いを想い合わないと決めている、中条と美柴。



恋人?
違う。俺達は 決してそんなもんじゃない。

………じゃぁ、この感情は 一体何だっていうんだ…。


【すれ違い】


大学で顔馴染みになった女と過ごした、気まぐれな一夜。
朝からバイトだというその女に急かされて、ホテルを出る。

まだ人もまばらな 新宿のアーケード街。
不慣れな早朝の空気に顔をしかめて、中条はホテルの前で煙草を探る。
急かしておきながら 忘れ物をしたと部屋に戻った女を待つ。

何の気もなしに 視線を上げた。
通りの向こうから 歩いてきたその人物に、心臓が嫌な音を立てた。

「………………。」
「………………。」

互いに目が合い、しかし相手は何の感情も見せなかった。

「ごめん 伸人。携帯忘れるとか ほんとバカだ私」
戻ってきた女が ごく当たり前のように腕を中条に絡める。
それに返事もしなければ、腕を振り払いもしなかった。
そんな事も出来ないほど、目の前の光景に動揺していた。

女を連れた中条は 目前を通り過ぎ行く美柴を 視線だけで追う。
男に連れられた美柴は、通り過ぎながら 中条に向けていた視線を前へと戻す。

それは、ひどく冷ややかなすれ違い。
美柴は振り返らない。
中条は呼び止めない。

「ちょっと伸人?何やってんの 行かないの?」
「………あぁ」

年上の男に 導かれる様に腰に手を回されて ホテル街へと入って行く姿。

「……何?今の子、知り合い?」
「……いや」
中条は 追ってしまう視線を引き剥がして、女と一緒に駅へと向かい始めた。



「どうしたの美柴くん?こうゆう所は嫌だったかな?」
「…………別に、どこでも」

(……別に、どうだっていい。)



「ねぇねぇ さっきの子、男の子だったね。そうゆう仕事してる子なのかな?」
「………さぁな」

(……お互い様、ってことか)


それは 互いに、諦めにも似た感情だった。


■それでも夜が優しいのは、見て見ぬふりしてくれるから(ジョバイロ ポルノグラフィティ)




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