小説 | ナノ


▼ 持ち駒の謀反

■美柴さんがAAAを抜けるって話。





そこは、とある高級ホテルの1006号室。
表情なくドアをノックした美柴鴇が、中からの応答を聞き 入室する。

殺風景な応接室のような室内。
いつかここで行われた面会の時のように、桐生は窓辺に佇み 美柴を振り返った。

「そちらから呼び出されるとは思わなかった」
監督役と自称する桐生は しかし担当しているチームにこれといった助言も指示もしていない。
初めこそバラバラだった初対面の三人組が、言い様のないお互いへの奇妙な戸惑いや牽制を抱えながら それでもチームプレイを魅せビズゲームを勝ち進んでいく。
その様が 異様に興味深く、面白い。

「座るといい」
桐生はそうソファーを示し 自分も腰を下ろした。
しかし予見したとおり、美柴はそこから一歩も動かなかった。
じっと見据えてくる視線に 思わず呆れ笑う。

「今更私を警戒することもないだろうに」
チームAAAがビズに参加して もう1年半近く経つ。
「それに、呼び出したのは君だろう?」
同意を求め 上目に美柴を見やっても、相手がそれ以上足を進めることは無かった。

「それでも座らないのか」
「……話が済めば帰る。」

静かな けれど意思の固い声色に、桐生はふと軽く笑い「まぁいい」と譲歩した。
「何か問題でも?」
「……………。」
「今のところ、君達には何も不備不足はないと思っているが…」

「AAAを、抜ける」

テーブルに広げ置いていたファイルを手に取った桐生を遮って、美柴はそう言った。

「…………」
「…………」

ゆっくりと、とてもゆっくりと、桐生はファイルから美柴へと視線を移す。
美柴は その威圧的な視線を反らさず、迎え撃つ。

「今後、AAAとして ビズに参加する気は無い」
「理由は」
美柴が言い終えた直後、桐生は一変して高圧的な口調と表情で問う。

「…………………」
「何も聞かずに持ち駒を手放すとでも思ったのか」
視線を外さずに黙るだけの美柴を、桐生は深く鋭い目で 見据えた。
「なめてもらっては困る。そんな甘い世界ではない。」
「……どう言われようと、意見を変えるつもりはない」
「君の意見など聞いていない。私は、今の発言の理由を述べろと言っている」

違反者を罰する上官の如き声で尋問しようとも、美柴は頑として口を割らない。

「AAAとして参加しない、というのは どこか別のチームでなら参加するという意味にとれるが」
ほぼ確信に近い考察をぶつけると、美柴はようやく ふと息を零し、頷いた。

「…もっと報酬のいいチームから、声がかかった」
「では金に釣られて買収に応じたと?」
「……もとから、金が必要だから参加したんだ」
「それで自ら進んでどこぞの企業に買われるのか。だったらバイト先で大人しく男について回ったほうがお手軽だと思うがね」

挑発する揶揄に、微かに美柴の肩が引き攣る。視線にギラと不快気に力が入った。
桐生はそれを見逃さず、やれやれと溜息を吐いた。

(…それだけでは、ないだろうな)
監視が甘かったなと心中で考えを巡らせつつ、首を横に振った。

「どうあれ、そう簡単には承諾できん。上からの目や評判もあるが……」
「…新しいメンバーを探せばいい。駒なんて、俺じゃなくてもいいはずだ」
「こう言っては何だが、私は君達三人を気に入っている」
「…………。」

美柴の疑心の眼差しを笑い、桐生はファイルを示すように手を広げた。

「危なっかしいが、それでも勝ち進んでくれる 面白いチームだ。興味が尽きない。」
「……………あんたに遊ばれるつもりはない」
「他のほうが遊ばれる可能性は高い。駒を使い捨てるのが目当てのような所もある」

美柴の表情は(だから何だ)と言っていた。
ここまで生き残った美柴鴇がこんな脅しに身を引く性分ではないことは分かってる。
桐生は 息を吐き、背もたれに軽く背を乗せて 美柴を見上げた。

「…君がもし他のチームに入ったとして。そして私が新しい人材を補充したとして。勝ち続ければいずれ君はAAAとぶつかる事もあるかもしれないぞ」
「勝てばいい話だ」
「あの二人にも 命を懸けてでも金が要る事情がある、と 知っていてもか?」

「………それは、俺には関係ない」

間を置いて、しかしそれでもそう言い放った美柴を 桐生はじっと深く見据えた。
その視線から 美柴は初めて、目を反らす。
窓の外を忌々しげに見た。

「金が欲しい人間なんて、腐るほどいるんだ」

何に嫌悪しているのか、低く棘のある声だった。
それを受け、桐生はわざとらしく笑ってみせる。

「あぁ、君もそうだ。金の為なら今までのチームプレイを足蹴にする」
「………友達ごっこをしているわけじゃない…」

美柴の横顔は すっと氷のように冷えて、しばらくビル街を見ていた。

「………………」
そうして、話は終わったと踵を返す。
繋がれた糸を振り切って歩くその背中に 桐生は声を投げる。

「二人にはなんと?」
「………………。」

ノブに手を掛けたまま、ピタリと美柴は立ち止まる。
桐生を振り返らず、目を閉じて そっと確かな声で言った。

「もう、AAAには戻らない。」

パタリ。

美柴を吸い込んで、静かに閉じたドアを 桐生は溜息を零し 見ていた。



■どうしてこんな事になったんだ? (ぼくらの16bit戦争)




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