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■ドラマ『貧乏男』から影響されたトキ⇒斉。



いつも待ち合わせで使った緑道。
美柴はそこで斉藤を見つけ、一度足を止めた。知れず 強張る手の平を握る。心中で静かに気持ちを入れなおし 近づいていった。

「あ!トキさん!」
いつもの能天気な笑顔で手を振り上げる。

「どーしたんスか?ビズ終わったのに、トキさんから連絡くれるなんて ちょお嬉しいんですけど!」
その笑顔は 誰にでも平等に向けられているもので、決して自分ひとりに見せている表情じゃない。

「……逢えるうちに、渡しておこうと思って」
少し無理をして 何でもない振る舞いをした。
事のついでを装って、MDを二枚取り出した。

「あれ、それビズのMD?」
「あぁ、ウチにあった。でも、多分お前と中条さんの分だ」
「そーいえば、トキさんちで集まった時もありましたもんね!うわー懐かしいなぁ―…」

思い出に浸ろうとするのを遮って、MDを斉藤の鼻先に突きつけた。

「だから、どっちか一枚、持っていけ。」

掲げられたMDの向こうで 斉藤が首を傾げる。

「あれ?でももしかしたらトキさんのかもしれなくないですか?」
「…その時は、受け取りに行くから。いいから早く選べ」

斉藤は少し不思議そうな顔をしたが、すぐにまたニッコリと笑って 「じゃあ、こっち!」と片方のMDを引いた。
妙な緊張を悟られたくなくて、「用はそれだけだから」と足早に立ち去った。

「え!ちょっとトキさん!?」
呼び止める声に、振り返る事が出来なかった。


―――………


そのまま、満楼軒まで行った。中条が、煙草を吹かしていた。

「何だよ、急に呼び出して」
「…………。」
向かい側に座り、運ばれた水を一飲みする。言葉を繋げずにいると、中条は首を傾げて 覗き込んでくる。

「…なんだよ、斉藤を呼び出す口実は考えてやったろ?まだ言ってないのか、自分の気持ち」
「……50%50%」
「は?」
美柴はポケットから取り出したMDを中条に差し出す。

「……中条さん、このMD、要らないから貰って」
「…は?何だよ 意味分かんないんだけど」
「いいから貰え」
「……はいはい」

受け取ると 美柴は中条をじっと見つめる。
何だか異様な様子に 中条は戸惑いを隠せない。

「…何だよ、恐ぇーぞお前」
「中、聞いて」
「……あぁ?MDのか?何でだよ、ブランクじゃねぇのか」
「いいから聞け」
「いやだから、お前 意味分かんねぇって」
「聞けって言ってるだろ、早くしろ」
「…………はい。」

中条はプレイヤーをセットし、イヤホンを耳にかける。
再生を押すと、美柴がヒクリと緊張したのが分かった。

……〜♪
流れた、一曲。
微かに漏れたそのイントロに 美柴の表情は一変して落ちていった。

「…何だコレ。どこのバンドだ?つーか、お前くれるならちゃんと中身デリートして………って、おい美柴?」
「……………。」

明らかに降下している美柴の沈黙に 中条は困ったように眉を寄せる。

「何だよ。意味が全く分かんねぇぞ。どうゆう事だ?」
「…………それは、俺のMDだ。」
「は?」
「……自分でも整理がつかなかったから、賭けをした。一枚はブランクで 一枚は自分のMD。アイツがそっちを引き当てたら、もう一度会って ちゃんと話そうと思った」

外れだったな…と呟く声に、中条は呆れて盛大な息を吐く。

「〜お前なぁ!……ったく、何でお前はそんなトコだけ弱気なんだよ。手のかかるな奴だなぁ」
「…中条さんに言われたくない」
「はいはい、何とでも言えよ。これで後悔しても、俺はもう知らねぇ―からな?」
「………ん…後悔はしてない」
「……バカか。目に見えて後悔してんじゃねーかよ」
「…違う。少し……落ち込んでるだけだ」
「変わんねぇーよ、それを後悔っつーんだよこのバカ。」
「………………。」

散々な言われ様に、さすがに美柴も中条を見据えた。
見られた中条は再度 ため息を吐く。

「……いいのか、本当に。もう逢うことも無くなるんだぞ…」
「………分かってる。これで終わりでいいんだ。」
はっきりと頷いた様子に、中条も納得し そうかと小さく頷き返した。

「もうアイツは忘れて、無かったことにする。」
「……そうか。お前がそれでいいなら、もう何にも言わねぇーよ」
そうして、目の前の美柴を見つめ 柔く手を伸ばした。

「……じゃあ、今度は俺の番だ。美柴」

そぅと頬に触れた指先に、美柴は目を丸くして 瞼を瞬く。
怪訝そうな美柴を見て、中条はふと笑った。

「俺もな、50%50%だったんだよ」


お前を賭けて。


■美柴さんの50%50%に便乗して、中条さんも50%50%だったって罠


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