小説 | ナノ


▼ 今の僕は、孤独という自由さからはぐれてしまった後

■相手の想いに、自分の想いに、戸惑う美柴さん。


『最近はめっきり、女を部屋に上げなくなった』

嘘だ…と思いたいところだが、事実このところ この部屋に女性的な甘い香水の匂いは残ってはいない。忘れ物らしき小物も あまり目に入らなくなった。

『お前しか来ないから、部屋がどんどん片付いてる気がするよ』
そんな言葉、もしかしたら最初の頃に言われたら 何も想わなかったかもしれない。だから何だと一蹴していたかもしれない。

『嘘も、あんまり吐かなくなったかもな…』

………少しづつ、絆されているのだ…きっと、お互いに。

近頃、よく そう想う。

「……寝ねぇのか」
「………ん…」
体液奪い合う行為を終えて ぐったりと横たえた身体を寄り添う。
うわの空で そうやって今日交わした会話を反芻しているうちに、中条の問いかけ。
「…何考えてんだ…?」
「…………」
「……まぁ、いいけどな」

何故か少し面白そうに口角を引き上げて 骨格の良い腕はこちらを包み込む。
意識がはっきりとしている時は、こうした腕枕も抱擁も あまり良しとはしない。居心地が良いのか悪いのか分からず、どうしていればいいのか困るから。
中条はそんな感情もお見通しで、こちらが上手い具合に気の抜けているタイミングで 身体を寄せてくる。

「……さっきの…嘘だろ…」
「ん?何て?」
「…………」
零した言葉は、語尾を濁した。
聞き取れなかった相手は 腕に閉じ込めていたこちらを少しだけ覗き込んでくる。

「…何でもない」
「………お前、そのパターンは良くないぞ」
「?」
「言わせるが為にお仕置きするとか、そうゆう展開になるだろ」
「しなくていい」

本当にそうされては敵わない。狭い腕の中で 背を向けた。
下腹部に回る手に意味深な気配を感じ、その先を諌めるようにキツく動きを封じる。逃げるかに思われたその指は 思いのほか優しくこちらの指を絡めて、握った。

「…嘘じゃねぇ―よ…」

この後ろ髪に溺れながら呟く声は 低く届いて、くすぐったさを感じる。

「……まぁ信じろなんて、言わねぇけど…な」
自嘲的な声色で 誤魔化すように 毛先にくちづけて遊び始める。
どう応えて良いのか分からない…。
信じる…なんて容易く言えない。だけど くだらない虚言だとは思ってない。きっと、真実だ。

でも だとすれば、自分だけを部屋に招く意図は…?

考えつくのは 自惚れる感情ばかりで、そんな感情は認めたくなくて、相手を信じたくなくて…。でも、どこかで 通じ合う想いを期待しているのも事実。

……もう自分は独りじゃないんだと、そう思ってしまうのが恐くてたまらない…。


■愛しさを僕に刻み付けるよ…。(slow 清春)



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